カタツカと忌み子
カタツカ初登場
「ふざけるな!この店から出ていけ!」
怒号が飛んだ。
それは、野太く荒々しい声であった。
毛深い色黒の巨漢が仁王立ちで、BARと書かれた店の扉の前に立っていた。
怒号が飛んだ側に居たのは、これとは真逆の美しい女子。艶っぽい雰囲気の黒髪のショート美人である。
「あら、この店はわたしの管轄ではなくって?模背さん?」
モセと呼ばれた巨漢は親しげにはなしかけてくる女に心底イライラした様子である。
「ふざけるなよ、カタツカ。いくらお前が鷹揚を助けてくれたとはいえ、許さんぞ。」
ふふ。
それでもなお、カタツカと呼ばれた女は笑みを崩さなかった。
そして、こう宣言した。
「オウヨウなんて名前、可哀想だわ。これからは、国と呼んであげたら??」
瞬間。
「オウヨウの名前を馬鹿にするのか!?貴様ぁ!」
巨漢、モセの身体が跳ねた。
拳を構え、全体重を乗せた鉄拳が華奢なカタツカへと放たれる。
《大海裂》(たいかいれつ)!!
その一撃は海をも裂く、
しかし。
「すーぐ、そうやって暴力振るう。だから、弁慶なんて呼ばれるんでなくって?」
《行間磊落》(ぎょうかんらいらく)。
カタツカの奥ノ手が発動した。
何故か、カタツカは鉄拳を、すり抜けていた。
バランスを崩すモセ。だが、それはブラフ。
身体で遠心力を利用し、
裏拳がカタツカへと二撃目として、、、
これも、またすり抜ける。
「あは。馬鹿なのかしら?脳筋さん?」
バランスを今度こそ崩し、倒れるモセ。
「待て!クソ!この女狐が!」
「じゃっ、キリタテ君はわたしがもらうんよん。」
カタツカの残像がモセに絡み付き離れない。まるで、行間の空白の様に。
「あと数分は動けないでしょうね。では、さようなら。モセ。」
「待ってくれ!オウヨウは!いや、キリタテ君は、人間ではないんだ!お前も殺される!考え直せ!」
BARから手のひら程の小さい赤ん坊を抱えて出てきたカタツカは、こう笑顔で返した。
「そうでしょうね。そうやって、みんな誰もこの子を認めない。でも、わたしはこの子を育てたい。」
立ち去るカタツカを見ていることしか出来ないモセであった。
彼を讃え、彼を貶す。