不乱とジジイ
霧建の能力の簡単な説明回
さあ、始めようか。
そう、霧は晴れていない。
霧は濃く、深い…。
「!!っ!?…。何故だ!断首し、命を絶った筈!」
「わしの粉砕権能は、ほぼ全ての事柄を粉砕する。たとえそれが、事実だとしても、不都合な未来なら、変える。わしが、永久欠番たる由縁だ」
最強と言われる特級、特田とやり合った実力。
ベストナイン。
ダサいけど、それがぴったりじゃないですかぁ?
野球を好きになったのは、絵見にそう言われてからか。
肉塊は霧とともに、消えて無くなった。
そこに立っているのは、ひとりの男。
「わしは将棋も好きでな。こういう局面を拮抗していると言うんじゃが、ここで王手をかけるのも悪くない一手じゃ」
「魅せてやろう。わしがつくったものを」
霧は晴れるどころか、濃くなっていく。
"必至"
"弐霧飛車"
(ひっし
にむびしゃ)
言葉だけが響いてこだました。
すっ。
霧が晴れると、霧建は若返っていた。
シャッ!
苦肉の蛇が噛み付こうと飛びかかる。
霧建の身体に触れる寸前に木乃伊状になる。
パラパラ。
霧建はそれを汚いものを払う様に足で踏み潰した。
パラパラ…グシャッ…。
「わしの粉砕権能は厄介だ。そう断言しよう。この、"濃霧"は便利だが…。さて、叙位?どうする?このままやり合うか?これ以上オレをおこらせるか?」
「ノーですよ。国さん。貴方、ハハ。まさかね、"必至"を使えるとは…1つ忠告です。オールドマンが来た。と」
オールドマン?
そう言って、故は首をかしげる。
一方で美男子に若返った霧建はヘラヘラしている。
「では、失礼。フランちゃん?もう少し素を出す練習しな笑笑ね(しょうしょうね)」
叙位の姿は笑ひ声とともに消えた。
「おいこら。"必至"教えろ。あと、オールドマンって誰だ」
霧建に間髪いれず聞いたのは、フランである。
「やなこった。叙位に遊ばれてたお前ごときに教える事ではないのじゃ」
「いい加減、若返ってるんだし、ジジイ口調はよしてよな」
「お主こそ、若者に染まりやすいロリババアじゃな。一回、殺してやろうか?」
一回死んでるアンタに言われると、ジョークに聞こえないわね。
そうボソっとフランは呟いて俯いた。
後日。
フランは霧建に呼び出された。
なに、不思議なことではない。
先日の惨敗の原因たる必至について学ぶためだ。
フランの見立てでは、霧建の必至の正体は大方の予想ではあるが、ついていた。
少し強者に近づけた気がして、ルンルンしてフランはトップ10の隠れ家にむかって行った。
ズバリ、あの権能は自動発動でしょう?
その問いを開口一番、フランは霧建に投げかけた。
首を縦に振る霧建は、少し笑っていた。
湯のみを持ちながら、顎でフランの後ろを示しながら、霧建は言った。
「そこに蚊がいるじゃろう?わしはいま、ソイツを認識した。…どうなるか、見極めてみろ。フラン」
何、言ってるの?
そう聞く前に結果は出た。
蚊が羽を広げて、飛び立とうとした瞬間。
パキッ。パラッッ。
先ほどまで、生きていた蚊が"粉砕"され、チリになったのである。
もちろん、誰も何もしていない。
「まさか、いや、そんなはず…」
「そのまさかだよ。フラン。わしの必至、ああ、必至というのはわしが名付けたんだが、二霧飛車は、あらゆる敵意的行動をとった存在を"粉砕"する」
「先日、お前が放ってきた針や、お前が造った武器が粉砕されたのはこの権能の所為だ」
そんなことあってたまるか。
そんな権能に勝つ手段なんて…無い…。
肩を落として黙り込んだフラン。
それを見兼ねた、霧建はまた笑いながら言った。
「無敵では無いのじゃ。この必至は。わかりやすい敵意的行動以外は見逃してしまうからのう。例えば、逃避行動や騙し討ちには無意味なんだよ。気を落とすな。お前は特級の中でも、有数の純粋で素直なヤツってことだからな」
ぴくっ。
俯いていたフランの肩が揺れた。
「うう。それだけ、馬鹿正直で、攻撃が読みやすい弱いヤツってことかしら?皮肉屋さん?」
命の恩人である霧建とはいえ、少し棘のある言い方をしてしまう。
霧建は動じず言い切った。真面目な顔をして、眉間のあたりに皺が寄っている。
「お主は弱くなんか無い。わしは、お主を強者と認めている。だから、気を落とすな!シュタインフラン!」
なんで??何故、ワタシノ名を?
呟く事しか出来ない。驚きに勝って出てきた言葉。それは感謝の言葉だった。
ありがとう…。
ホントは怖かった。ホントは怖かった。ホントは何も出来ない子供なんだ…。
溢れてきた大粒の涙を必死に両手で拭いながら、名塚フランは生まれて初めて泣いた。
「お主が困っているのなら、助けよう。それがたとえ敵であろうと。何故なら、子どもを守るのが、オトナの役目じゃからな」
これじゃ修行は明日以降だな。
なんて思いながら、子どもとジジイの不思議な関係は始まったのであった。
フランと霧建の関係はどうなるのやら?