白の遺跡 ガラスの扉
センの声は静かな森の中で良く響いた。少し、耳を澄ませると、他にも何人かこちらを呼ぶ声、がさがさと探す物音が聞こえる。
ロックはその声を聴いて、アールの方に向けていた顔を声が聞こえる方向、黒い森の中でひときわ目立つ、異質な人工物、白の遺跡に向けた。
「……今、行くよ」
ロックは少し間を置いて、大きく返事を返した。しかし、先ほどまでの訴えるような強い感情、熱はそこに込められていなかった。
「ロック、何処だ? 無事か? 入口が見つかったから、早くこっちに来てくれ! 」
ロックから返された短い返事に、センは早口でいろいろと聞き返す。それを無視して、ロックはアールの方に体を向けた。
「……アール、さっきの事は、」
「……覚えておくから、行きなよ」
「わかった」
短く会話を切り上げ、ロックはセン達がいる方に走り出した。アールもそれに合わせて足を動かす、アールは普段から体を良く動かしていたが、害獣駆除で山を歩くことが多いロックの足は、それよりもだいぶ速かった。
しかし、姿を見失うというほど離されることはなく、すぐに自分達を探していた他の者たちと合流した。
白の遺跡の前で全員が集まり、少し腹ごしらえをしてから、中に入ることになった。
アールは他に参加していた数少ない女性達と一緒に火をおこし、簡単な食事の用意をする。思っていた以上に、森の中が寒く、温かいものが欲しいと皆の思いが一致したためであった。
「なぁ、ロック、お前、アールに何かしてたのか?」
「してないよ」
「じゃあ、なんで、2人でしけこんだ?」
「少しはぐれただけだろ?」
「少しはぐれた? ロック、お前、俺たちがどれだけ心配したのか、」
アールたちが食事の用意をする間、ロックはセンや他の者たちに囲まれてしつこく森の中で消えた理由を質問されていた。囲みの中でロックはできる限り、質問に答えていたが、質問はしつこかった。
特に、センからの質問がしつこく、一つ答えると二つ聞き返した。結局、食事の用意ができるまでずっとロックはセンに絡まれ続けることになった。
食事が終わり、人心地ついてからロックはいよいよ白の遺跡の入り口の前に立った。
白の遺跡の入り口は透明なガラスと太い鎖と大きな錠前で塞がれていた。
この遺跡が建てられた当初はきっと、ガラスだと気づかないほど磨かれたいたのだろうそのガラスは長い年付きを経て白いもやがかかっていた。鎖はおそらく、後々の者がこの遺跡への侵入を防ぐ目的でつけたのだろう。持ち込んだ刃物で歯が立たないほど立派な鎖を結ぶ錠前にロックは細い金属棒と、先が細々と曲がった金属棒を差し込んだ。少し、苦戦しながらもその錠前は簡単に開けられた。
一同がその鮮やかな仕事ぶりに感嘆するよりも早く、錠前を外すと、透明なガラスはそのちょうど中心から左右に開いた。この動きに、全員がビクッと反応した。
「……開いた」
一番、近くでその動きに驚いたロックがポツリと言葉を出した。