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3045  作者: みむめも
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白の遺跡 道中

 アールが加わり、総勢二十人を超える悪ガキどもが、白の遺跡に出発したのは翌月の事であった。各々、役割を分担し、準備して、ワクワクと待っていた。

 ついにその日の早朝、まだ、日の昇る前に町から一行は遺跡のある黒い森を目指して進んだ。


 黒い森の中はとてもひんやりとした空気にあふれていた。

 長い冬が終わり、近隣の村では夏に向けての準備がされる今の時期は少し動けば汗が流れるような気温である。悪ガキの集団はそのほとんどが軽装で、予想外の寒さに皆、体をぶるぶると震わせていた。


 これは単純に、彼らの用意不足、リサーチ不足が原因である。

 黒い森は所の者がそう呼んでいるというだけでなく、実際に通年を通して生い茂る葉や大小さまざまな枝が太陽の光を遮り、昼間でも本当に薄暗い。また、その木々の足元、長い年月を生きた枯れ木、倒木、枯れ葉は幾重にも重なり、ゆっくりと柔らかな土となり、さらに大きな樹木を支える。その母なる土壌は多くの水分を含み、それに根を張る森の大樹は生き生きと呼吸をして、彼らの住みやすい環境を、一種の聖域を作り出していた。


 森の中と外では気温が違う。気温が違えば空気が違う。それは事実であるが、本来はそれだけの事である。


 距離にして、10歩、20歩、歩いただけで、こんなにも空気が違う事に誰も口には出さなかったが不気味さを覚えた。いや、神聖な儀式を行う場所であるのだから、不気味ではなく、神聖不可侵の厳かな空気、神々しさを覚えたというべきかもしれない。

 もちろん、アールもそれに気づいていた。彼女にはまるで黒い森が意志を持ち、自分たちを拒んでいるような感覚さえあった。彼女一人であれば、絶対に引き返していたであろうが、今回の計画、遺跡あらしに参加することを決めた経緯、売り言葉に買い言葉とはいえ、ここまで付いて来てしまった以上彼女の性格では、それを言いだすことはできずに、黙って他の者たちと行動した。


 アニミズム、精霊信仰。鍛冶屋を営む彼女の家には火伏せの札が張られ、失火、出火等に対しての注意を厳重に教えられていた。彼女自身、そのような札がどれほどの効果があるか知らないが、それをおろそかに扱うという事は本能的に忌避していた。


 どんな悪ガキでも子供時代というものがある。幼く、素直であった頃に親、もしくはそれに準じる存在が例え話として、どのようなものにも宿る魂、霊魂、精霊、神などを教え込む。これは、生活に根差したものがほとんどで、家業に合わせて火の神、風の神、知の神など信仰するものが少しづつ変化する。しかし、大本となる教えはこの遺跡と同じく誰も知る者がいない、古い時代からの教えがその基であった。


 今は、悪ガキとして立派に成長している彼らもその内面の奥底には、そういた教えがありそれが根差しているために必要以上にこの神聖不可侵の遺跡が眠る黒い森を荒らすことは気がとがめた。自然と一塊となって黒い森を進む、その足取りはゆっくりとしたものであったが、誰も喋る者がいないせいか、気づけば、森の奥、明らかに人工的な建物が見えた。

 生い茂る葉の隙間、太陽は中天をわずかにずれた位置に見えた。


「……、ール、おい、アール?」

「ん?」


 小さく、アールに声を掛けるものがいた。


 この計画の発起人である男の友人で、小柄で手先が器用な男でロックという名前である。彼はその器用さを買われて、遺跡の鍵を開けるために参加していた。


 彼が鍵を開けることができなければ、計画は御破算。というわけではないが、遺跡に入るにはどこか別の出入口を探さなくてはならない。もちろん、新たな出入口を見つけることが出来ればいいのだが、それが見つからない場合はすごすごと帰るか、それとも、新たに出入り口を作り出して侵入するという二択になる。


 盛り上がった一同は何もしないで帰るという選択を初めから選ぶ気はなかった。町で手に入れた大きな槌や大鉈をここまでわざわざ持ってきたのは最悪に対応するためである。しかし、一応この計画は極秘計画である。この遺跡あらしは誰にも気づかれてはならない。もちろん侵入したという証拠を残すという事は最悪であるから、ロックがきっちりと遺跡の鍵を開けることが一番重要な事であった。


「何?」

「……、なあ、その、なんかおかしいと思わないか?」

 

 他の者に聞こえないように声量を抑えて彼はアールにだけ聞こえるように話した。

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