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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

#0091C5

作者: 秋 基乃

座ってパソコンに向かうだけの動きのない作業。

かれこれ13時間程座りっぱなしで、腰も背中も何もかもが悲鳴を上げている。

出来ることならば伸びでもして紅茶を入れて一休みしたいところだったが、あいにくその時間はなさそうだ。


どこぞの部署の新人がPCをぶん殴って壊してデータも一緒にアウト。

明日が期限のそれは、俺が昨日徹夜で仕上げたものだった。

ちなみに助けを求めた周りの奴らは何かと理由をつけて何時間も前に退散済みだ。


ちくしょう、偽善100パーの励ます声がまだ耳に残っている。

脳内で言っても詮無い悪態が回る。

PCのせいで温度が高い室内が容赦なく自分を追い詰める。

省エネだか何だか知らないが、エアコンは10時には切られてしまった。


突然、視界に見覚えのない缶コーヒーが置かれる。

正直そんなもんに構いたくないのが本音だが社会人として最低限の体裁をとりつくろうために顔を上げる。


「…どうも」

「気にしないでいいよ」


馴れ馴れしいが知らない顔だ。

随分若く見えるが、人は見かけによらない。


「えーと、どこの部署の方でしたっけ?」

「君が今まさにやってくれてる仕事の原因のとこ」

「………っつーことは…てめえまさか」

「うちの部署のPCが脆いのがいけないんだ」

「…精密機器に物理的な強度を求めんなよ脳筋!つーか敬語つかえ新人だろうが!!」

「そんなに怒ることないじゃないか!だからこうして手伝いに来てるのに」

「また壊されでもしたらたまんねえからな、いらねえよ」

「もう、君って本当に頑固だね。人の厚意も素直に受け取れないのかい!?」

「う、うるせえよばか!もう帰っていいつってんだから喜ぶとこだろ!」

「俺は仕事を放り出すような真似はしないんだぞ!というか俺、これでも有能新人で通ってるんだけどな」

「有能新人はPCは壊さねえよ」

「あれは!…ついうっかりなんだぞ」

「あーもう時間の無駄だな…手伝うっつうなら、そこの書類をアルファベット順にしとけよ有能新人」

「了解!」


そいつはわざわざジェスチャー付きで叫ぶと、隣のデスクに座り黙々と仕事を始めた。

有能新人が如何程のものか見てやろうと横目で伺うと、確かに有能といっても差し支えないようなスピードで仕事をしている。

眼鏡の奥の碧眼が、淀みなく書類を見つめている。


#0091C5だ。


そう思った。カラーコードで喩えるなら、#0091C5。空色でも露草色でもない、純粋な青。

喩えることなんか出来やしないあお。

それはこの職業についてからとんと見なくなった空のようだった。

思わず目を離せなくなっていると、ふと目があった。


「…仕事、いいのかい?」

「え?あ、あぁ…おう」


カラーコード#0091C5の鮮やかなあおいろがこちらを見つめた。

じっと見ていたくなる。その衝動を抑えて、平均日本人の俺は仕事を進めた。

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