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第七話『聖騎士マリー。剣の会話』

 世界を救うと表明した以上、俺たちは戦い方を学ばなければならない。

 そんなわけで翌日から早速戦闘訓練が始まった(昨日の夜に晩餐会があったが、その件についてはここでは割愛する)。

 朝食を取った後、俺たちは王城から少し離れたところにある騎士専用の演習所に案内された。

 まずは武器というものに慣れて欲しいとのことで、俺たちに配られたのはそれぞれの職業に合わせた専用武器だ。

 俺に渡されたのは『鋼の剣』。

 俺は剣と槍のスキルレベルが共に6だったのでどちらの武器を使いたいか聞かれたが、やはり最初は剣だろうと思ったのだ。

 ただ、正直言ってテンションが上がる。

 だって武器だよ? 男なら一度は本物の武器に憧れるものでしょ。

 周りでは他の男子たちもテンション上がったように手元の武器を振り回してはしゃいでおり、女子たちはそんな男子たちをしら~っとした目つきで眺めている。……なんで女子っていうのはこういうロマンが分からないかね?


「よし! 全員に武器が行き渡ったな! それではこれより戦闘訓練を始める!」


 凛とした声が演習所を駆け巡った。

 不思議とそれだけであれだけ騒々しかったクラスメイト達が静かになる。

 そして注目する。たった今声を張り上げた女性騎士に。


 その女性騎士は銀色のプレートアーマーに身を包み、長い金色の髪を後ろで束ねた見目麗しい女性だった。

 ただし切れ長の目は強い意志を讃えており、美しさよりもかっこよい印象を受ける。

 彼女の名前はマリー・ロード。

 このアーティア聖王国で『三聖』と呼ばれる者の一人で、職業は『聖騎士』。

 なんと彼女はこの世界に数えるほどしかいないという英雄職の一人らしい。

 そんな彼女が直接俺たちの指導をしてくれるというのだから、俺たち『神の使徒』とやらがどれだけ期待された存在なのかが分かる。

 俺たちの向ける憧憬の眼差しなどまるで気にしていないように聖騎士マリーは続けて声を張り上げる。


「まずメンバーを近接職と魔法職の二つに分ける。魔法職の者たちは宮廷魔術師長のオリオン殿に付いて基礎的な魔力のコントロールを学んでもらう。近接職の者たちは私が直接武器の扱い方を見させてもらおう。それとビーストマスターのような特別職の者たちも取りあえず武器の扱い方から学んでもらうのでここに残るように」


 そう指示を出すと魔法職の者たちは早速宮廷魔術師長のオリオンさんに連れられて少し離れた場所へと動き出した。

 ちなみにオリオンさんはいかにも魔術師といった感じの神経質そうな印象を受ける初老の男性だ。そのせいか魔法職のメンバーは名残惜しそうに聖騎士マリーの方を振り返りながら去って行った。

 魔法職のメンバーが離れたのを確認すると、聖騎士マリーは俺たちに距離を取ってそれぞれ武器の素振りをするように命じる。

 いきなり素振りしろと言われたってなぁ……と思ったのは最初だけだった。

 不思議と剣の振り方が分かるのだ。

 いや、違う。

 武器の扱い方が分かると言った方がいいだろう。まるで元々使い方を知っているかのように剣を振れる。

 周りを見れば皆同じような感想を持ったようで、それぞれ驚いた顔で各々の武器を振っていた。


「諸君のステータス表は見させてもらった。それくらい出来て当然だ」


 聖騎士マリーがニヤリと笑ってそう言った。どうやら彼女は最初からこうなることが分かっていたらしい。

 でも……なるほど、そうか。これがスキルの効果か。

 俺は剣レベル6のジョブスキルを持っている。だからこうも剣の扱い方が分かるのだ。

 感動すら覚える。こんな風に自分の思い通りに剣を振れるなんて……。

 しかし同時に不気味でもあった。

 だって俺は昨日まで剣の振り方なんてまるで知らなかったんだよ? それがたった一日で……いや、転移したあの一瞬でこうして相手を殺傷する能力をいとも簡単に手に入れたのだから。

 ……一体どういうカラクリなんだこれは?

 そんな俺の内心など知る由もなく聖騎士マリーはまた声を上げる。


「よし、素振りやめ! 次は二人一組で実際に剣を合わせてもらう。好きな者同士でペアを組むように」


 その号令に俺は愕然とする。

 で、出た~!

 ぼっち非推奨の『好きな者同士でペアを組むように』発動!

 説明しよう。これはぼっちに死ねと言っているのに等しい。

 実際これまでハブられて先生とペアを組むこと十数回、先生すら相手にしてくれず息を顰めること数十回。その度に心が死んだ。

 とにかくロクな思い出が無い。

 そして案の定……ふっ、あぶれたよ。

 何でこうも見事に奇数になるかね? みんな楽しそうにお互いの武器を確認し合っているというのに、俺ぽつん。

 俺がぼっちの宿命に打ちひしがれていると、聖騎士マリーの号令で皆は武器を打ち合い始める。

 互いの体には当てないように聖騎士マリーが注意しているが俺は全然大丈夫。何故なら一人だから。

 ……うん。虚しいね……。


 はぁ……しょうがない。続けて一人で素振りでもしていよう。

 まさか異世界に来てまでこの『いつものやつ』を味わうことになろうとは思わなかったよ。

 ……でもまあ、一人で剣を振るだけでもかなり楽しいからいいか。

 ものは考えようだ。せっかくこうして剣を振る機会を貰えたのだから、どうせなら剣というものをもっと自分のものにしてみたい。

 よーし、やるぞ!

 ふん、ふん、ふん、ふん!


「おい見ろよ。雑魚竜騎士が一人で寂しそうに剣を振ってるぜ」

「ぷっ、さすが雑魚」

「もう色々と可哀想過ぎて見てらんないんだけど」

「とか言ってお前笑ってんじゃん」


 いきなりげんなり……。

 見れば間所(まどころ)、常田、田淵、米田の野球部四人組がこっちを見てニヤニヤ笑いを浮かべていた。

 本当にこいつらは飽きずに俺に絡んで来るな……。

 主に間所が俺のことが気に食わないという理由もあるのだろうが、野球部の連中はいつも間所を筆頭に俺を笑いものにしたり嫌がらせしたりすることにいとまがない。

 どうやらそれは異世界でも健在のようである。

 まあ気にするだけ時間の無駄だから無視だけどね。

 ふん、ふん、ふん、ふん!


「ちょ、聞こえてるはずなのに無視して剣を振り続けるとか」

「必死過ぎw」


 うおおおお! 気が散る!

 こちとら聖人君主じゃねえんだよ! 無視出来るかぁ!

 腹立つものは腹立つんだよぉ。

 でもコミュ障だから言い返すことも出来ないというこの負のスパイラル。姫宮のこともそうだけど、俺は色んな負のスパイラルの中を生きてるから。

 仕方なく無理矢理にでも雑音をシャットアウトして素振りを続けていると、クラスメイトたちを見て回っていた聖騎士マリーがようやく俺の惨状に気付く。


「む……もしかしてキミは一人か? すまない、気付かなかった」


 ……うん、いいんです。よくあることですから。

 野球部の連中が笑いをかみ殺しているのが分かるが、聖騎士マリーはそんなことはお構いなしにさも名案を思い付いたようにこう提案してくる。


「おお、そうだ。ならば私が相手をしてやろう」


 へ? マジで?

 ちなみに俺だけでなく周りにいる奴らはみんな同じことを思っている顔をしている。

 だっていきなりぼっちから特別扱いに昇格したようなものだ。

 さっきも言ったように聖騎士マリーは美人でかっこいい系のお姉さまだ。聖騎士マリーにアドバイスを貰っていた者たちは顔を真っ赤にしていたし、他の者たちもずっと聖騎士マリーの方にちらちら視線をやっていた。

 そんな人が直接俺の相手をしてくれる。これを特別扱いと言わずして何と言おうか。


「ほら、何をしている。剣を構えろ」


 騎士然とした口調で言われ俺は慌てて剣を構える。

 やべえ……周りからの嫉妬の目がやべえ……。間所なんかはどす黒い目を向けてきてるし……。


「さあ、いつでもいいぞ。どこからでも打ちこんでこい」


 聖騎士マリーは既に剣を構えていた。

 綺麗な構えだった。本当に物語の中に出てくる騎士のような出で立ちだ。

 そんな姿を見たおかげか、すぐに周りの状況などどうでもよくなっていく。俺の中から雑念が消えていく。

 気付けば俺は目の前の聖騎士マリーにだけ集中していた。

 純粋にこの人相手に剣を振れることが嬉しい気がしたのだ。


 見つめ合うことしばらく……。


 俺は自然と動いていた。凛と佇む彼女に向かって横から剣を振るう。

 聖騎士マリーは少し体を動かしただけでいとも簡単に俺の攻撃を防いで見せた。

 すごい……隙がない。この人は遥か高みにいる人だとすぐに理解出来た。

 俺は胸を借りるつもりで(卑猥な意味じゃないよ?)続けて打ち込んでいく。

 二本、三本と横から縦から攻撃を仕掛けてみる。

 時には突きさえ放ってみせた。

 しかしその全てが簡単に弾かれる。

 やはり全然届かない。

 この人は間違いなく昨日見た騎士ルークよりも遥かにレベルが高い。

 恐らく百本やっても一本も取れないだろう。

 でも……楽しかった。

 久々に人と関わって楽しいと思える時間だった。

 気付けば俺は夢中になって聖騎士マリーに打ち込んでいた。

 どれくらいの時間打ち合っていただろうか?

 ある時、俺の剣は大きく弾かれ手からすっぽ抜けてしまう。俺の剣は空気を切り裂く音を出しながら落ちて行き、俺の後ろの地面に突き刺さった。

 俺は息を切らしながら佇む。


「ふむ……」


 聖騎士マリーは残身していた体を自然体に戻すと一つ頷いた。

 そして未だ手に痺れを残す俺に向かって言ってくる。


「剣は人の心を映し出す。君の剣は面白いな。また手合せしよう」


 それだけ言うと聖騎士マリーは振り返り、周りに向かって声を荒げる。


「何をボーっとしている! 貴様らはさっさと自分たちの打ち込みをやらないか!」


 俺はハッとした。気付けばこの場にいた全員がこちらに注目していたのだ。それは螢条院や風早を含めた全員だった。どうやら皆が揃って俺の打ち込みを見ていたらしい。

 ……やば、俺どれだけ夢中になっていたんだ?

 それに途中から本気で剣を振ってしまっていた気さえする。

 一瞬青ざめたが、しかし聖騎士マリーが何も言わないんだから大丈夫か。

 それにしてもクラスの連中はどうして俺なんかの剣を見ていたのだろうか?

 しかも何だか唖然とした目をしていた気がする。俺なんてクラスの中で一番ステータスが低いのに……。

 ああ、違うか。クラスメイトたちはマリーさんの剣捌きを見ていたに違いない。

 俺はそう納得した。


 他の皆はマリーさんの怒号によって慌てて自分たちの打ち込みに戻っていく。

 俺はもはや一人で素振りをする気になれずその場に腰を下ろした。思った以上に体に疲労が出ていたのだ。……本当にどれだけ夢中になっていたのだろうか?

 マリーさんはそんな俺に対して特に何も言わなかった。

 ……剣っていいかも。コミュ障の俺でも、もしかして剣でなら語れるとか?


「チッ……雑魚竜騎士が調子に乗るなよ」


 不意にそんな心無い声が聞こえてきたせいで現実に引き戻される。

 まあそうだよね。俺なんかが剣で語るなんておこがましいですよね……。

 でも結局誰が言ったのかは分からなかった。

 まあ、どうせ間所あたりだろうと思って俺はそこまで気にしなかった。



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