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第七十六話『マリーの覚悟』

「ユウキ! 君が中心となって後ろを守ってくれ!」

「しかしマリーさん。その魔族をあなた一人で何とか出来るのですか?」

「こっちは私が何とかする。それよりも後ろの下級魔族たちを侮ってはいけない! こちらの広い場所に来られたら今の君たちでは勝ち目がない。何としても細道で食い止めるんだ!」


 マリーは地形を利用して複数人で取り囲むように敵を防ぐように指示したのである。

 その意図を汲んだ勇樹は頷く。


「……了解しました。マド、サラ、僕と一緒に前線に出てくれるか?」

「お、おお」

「分かったわ」

「姫は後ろから援護を頼む」

「う、うん!」

「他のみんなも前衛は僕、マド、サラの後ろに付いてくれ! 後衛の者たちは姫と一緒に援護に専念するんだ! いいね?」


 その一言だけで、それまでどう動いていいか分からなかったクラスメイト達は一斉に動き出す。

 それだけ皆が勇樹のことを信頼している証だった。

 その様子を見てリエルがくすりと笑う。


「へえ。あれが今回の勇者くんか~。みんなに信頼されているのね~」

「………」

「あ、別にカマをかけているわけじゃないのよ? 腰に聖剣をぶらさげてれば誰だって勇者だと分かるわよ~」

「……勇樹はまだレベルは低いが、あなどるなよ? あいつの持ち味はそれだけではない」

「そんなの分かってるわよ~。だから信頼されているのね(、、、、、、、、、)って言っているんじゃない」

「当たり前だ。あの者は信頼に足る男だ」


 マリーがそのように答えた途端、リエルの顔がニヤリと笑う。


「ふーん。気付いてないんだ~」

「? なんのことだ?」

「ふふっ、さあ~、なんでしょうね~。人間って面白いわね」


 ニヤニヤと笑うリエルに、マリーが剣を構え、


「これ以上の問答は無用だろう。お前の相手は私だ」

「へえ、やる気まんまんってわけ? ねえ、あなたはわたしに敵うと思っているの?」

「………」

「わあっ、こわ~い。犯される~」

「……私は女だぞ」

「そんな立派な剣を持ってるじゃない」

「? どういうことだ?」

「……あなた、見かけどおり真面目なのね……」

「??」


 どうにも相性が悪い二人だったが、マリーはそのことにすら気付いていなかった。


「まあいいわ。敵わないと分かっていてかかってくる可哀想な子羊ちゃんの相手をしてあげましょう」

「………」

「あなたにポーカーフェイスは似合わないわよ。全部丸わかり。ま、それでもあなたの考えている通り、相打ち狙いだったら何とかなるかもしれないわね~」


 全て読まれていることにマリーは憮然としながらも、


「……そこまで分かっていて、それでも私の前に立つのか?」


 マリーには分かっていた。目の前の上級魔族はやろうと思えばもっと狡く自分たちを追い詰めることが出来るはずなのだ。

 それを敢えてマリーの理想通りの展開に乗ってくれている。

 それがマリーには解せなかったのだが、しかしリエルは、


「だってその方が面白そうだし?」


 たった一言、そう答えた。


「……面白そうというだけで、わざわざこちらに利のある戦い方を選ぶのか? 少なくてもそうなれば無事で済まない可能性だって出てくるぞ。最悪、私はお前を殺せるかもしれないと考えている」

「別にいいわよ? わたしは死んでも構わない。面白ければ何でもいいの」

「な……」

「それにどの道、そうはならないわ。あなた、上級魔族を舐めすぎよ? ……いえ、それともそれを分かっていて尚、そう言わざるを得ないのかしら?」

「………」

「ならば、少しだけ本気の片鱗を見せて上げましょう」


 そう言うと、リエルは体から黒いオーラを噴出し始めた。

 その圧倒的な力の籠ったエネルギーの奔流にマリーですら後ずさる。


 そしてその黒いオーラは使徒たちの方にも流れており、彼らはパニックを起こしたように悲鳴を上げていた。

 そんな使徒たちに向かってマリーは声を張り上げる。


「こっちは私が何となする! お前たちは下級魔族にだけ集中しろ!」


 その一言で悲鳴は止んだ。

 恐怖が完全に拭い去ったわけではないが、それでもマリーがそう言うなら大丈夫だろうという想いが彼らの中ではあったからだ。

 それだけの信頼をマリーは既に得ているのだった。


 しかし、


「ふふっ、健気ね~。少なくてもあなたは五体満足で済まないのは分かっているだろうに」


 リエルの顔は愉悦に歪んでいた。

 マリーは再び剣を構え直すと、


「例え四肢が欠けても、お前を倒せれば私はそれで満足さ。そのために私はここにいるのだから」

「その顔たまんない。やっぱり人間っていいわ~」

「それに……」


 と、言いかけてマリーは止めた。

 一瞬、リクの元へと行くのも悪くないと考えたマリーだったが、それを考えるのはまだ早いと思ったのだ。

 しかしリエルはその顔を見逃さなかった。


「なあに、あなた想い人でもいるの?」

「想い人になる予定だった子ならいたよ」

「え、何それ?」

「別に。ただの独り言だ」


 毅然と言い放つマリーに、リエルが楽しそうに笑う。


「ふふっ、いいわね。わたしはあなたのこと気に入ったわ」

「私はお前が気に入らないな。何もかも見透かしたようなその目が癪に障る」

「それはどうも。ねえ、時間稼ぎはそろそろいい? さすがにもう一度さっきの技を受けてやるほど甘くはないわよ?」

「………」

「さて、それじゃあわたしの可愛い下級魔族ちゃんたちを使徒たちに嗾けるとしましょうか。やりなさいな!」


 リエルがもう一度パチンと指を鳴らすと、下級魔族たちが一斉に使徒たちに向かって走り出す。

 彼らが悲鳴を上げるのを勇樹が宥めつつ戦闘態勢を取る声を聴きながら、マリーもリエルに距離を詰めていく。


「あら? 今度は何も叫ばないのね?」

「ああ。私はユウキのことを信頼しているからな。あっちはあの者に任せておけば大丈夫だろう。と言っても限界はあるだろうから、それまでに助けに行かねばならない。だから私はお前を倒すだけのことだ」

「ふーん、なるほどね~。あなたほどの人物にそれだけのことを思わせることが出来るのが、今回の勇者くんか~。本当に面白いわ~」

「……今度はお前が時間稼ぎか? 悪いがこっちには余裕がないんだ。行くぞ」


 そう言うとマリーは駆け出した。

 走りながら剣を下に構える。


「いいわ。来なさい。相手をしてあげる」


 リエルを覆っていた黒いオーラが彼女の右手に集まって行く。

 彼女の右手の平に浮いた黒い魔球。

 リエルはそれをマリーに向けて放つのだった。




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