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第七十三話『アーティアの危機。アルベルティーナ・フォン・アーティア・ジ・ラース』

【アーティア王城・玉座の間】



 アーティア王城の一室は今、紛糾していた。

 その部屋にいるのはアルベルティーナ女王の他に、教皇を始めとする『神の子教』の高位の神官が数名、そして大臣と将軍が三名ずつ。

 彼らはいずれもこの国においてトップに位置する者たちだ。


 そんな彼らは今、会議室で紛糾していた。

 人類最北の国、グラ王国が壊滅したという報せ。

 その凶報が彼ら国のトップの者たちをこの部屋に集わせた原因である。


「……たった一人の魔族にグラ王国が滅ぼされただと? それは何かの間違いではないのか?」


 教皇ベルギウス七世は疑義を浮かべた顔で問い質した。

 しかし神官の一人が額に汗を流しながら、


「い、いえ、これは確かな情報です」


 その答えに会議室はざわっと喧騒が広がる。


「たった一人の魔族に国が滅ぼされるとは……まさかそれは、上級魔族では……?」

「何を言っている! まだ上級魔族は動けないはずであろう!?」

「しかし実際こうしてグラ王国が滅ぼされているではありませんか!?」


 そのように混迷する会議を眺めながら、教皇は一人別のことを考えていた。


(まさか二体目の上級悪魔が顕現したのか? バカな、そんなことは現状では予定にないことだ……)


 教皇はそう思い、自分の娘――女王アルベルティーナに目を向ける。

 しかし彼女はいつもと変わらない微笑みを讃えているだけで何を考えているのか全く読み取れない。


(この女は一体何を考えている? 死海文書から大きく外れた出来事に、どうしてそのように涼しげな顔が出来る?)


 教皇は自分の娘に対して言い知れぬ恐怖と同時に、激しい苛立ちを覚えた。


「……女王よ」

「分かっております、お父様。……何にせよ使徒さま方が危険です。至急『風の迷宮』に報せと救援の両方を送ってください」


 女王の落ち着いた声音に、我を忘れて紛糾していた者たちはハッとする。

 彼女の言葉でようやく使徒たちに危険があることを悟ったのだ。


 グラ王国が滅ぼされてから既に十数日。

 もしかしたら既に上級悪魔がこの国に入っている可能性だってあるのだ。


 ――だとしたら真っ先にどこを狙うのか?

 答えは明白だった。

 大臣のグレハスは部下に向かって叫ぶ。


「至急『風の迷宮』に報せを送るのだ! それとロンレス将軍。使徒さま方への救援は貴公に頼みたいのだが……」


 ロレンスは立ち上がりながら、


「了解した」

「おお、引き受けてくれるか! 三聖の一人である貴公が行ってくれるなら心強い。同じ三聖の一人であるマリー・ロード嬢と貴公の二人が揃えば例え上級魔族が相手でも負けはしないだろう」

「それでは早速救援部隊を編成するとしよう。失礼する」


 ロンレスは一礼して会議室を去って行った。

 しかしそれから間もなく、神官の一人が不安顔で呟く。


「使徒さま方も心配ですが、三聖が全て出払ってこのアーティアは大丈夫なのでしょうか……?」


 その言葉に他にも同じような表情をする者が幾人か出ていた。

 そこに響くのは女王アルベルティーナの嫋やかな声。


「この国のことなら大丈夫です。上級魔族一人ごとき、いざとなったらどうとでもしてくれましょう」


 女王アルベルティーナの言葉には常に強い力がある。

 だから彼女がそう言うなら問題ない。会議室はそういう空気になっていた。

 が、それだけに次の女王のセリフに再び会議室が静まり返ることになる。


「しかし使徒様方はどうでしょう? ロンレス将軍が間に合えばよいのですが……」


 まるでそうならない(、、、、、、、、、)ような言い方(、、、、、、)

 女王がそう言うなら、本当に間に合わないのではないか?

 彼らはそう思わされてしまった。


「……女王よ。皆を不安がらせるようなことをおっしゃるのはいかがか?」

「これは教皇様、失礼いたしました。わたくしとて、間に合えば良いと思っているのですよ?」


 アルベルティーナは柔らかな笑みを浮かべたままもう一度呟く。


「間に合えばいいのですがねえ……」


 その小さな声を聞いた者たちは再び不安な顔になっていた。

 教皇だけは無言で自分の娘から視線を逸らしたのだった。




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