第六十八話『竜王の強さ。ルゥの信頼』
よし、それでは本格的に狩りを開始しよう。
現在は地下6階。
前に俺が一人の時に行ったのと同様に、ウインドウィーゼル狩りがメインとなる。
あわよくば本当にウインドウィーゼルが落とす激レアドロップアイテム『かまいたちのカード』が欲しいところだ。
『かまいたちのカードは』結構人気の高いカードで、その効果は『武器に風の刃を発生させる』というもの。
この『風の迷宮』は風属性の敵が多いので、このダンジョン内のモンスターに対しては風属性の攻撃効果は弱まることが多いようだが、逆に同じ六大迷宮の一つである『水の迷宮』は風属性が弱点の敵が多いようなので、上級者の間では必須のカードらしい。
しかも武器に付けるカードの枚数が増えるほどに発生する風の刃の攻撃力も飛距離も伸びるようなので、かなりのロマン武器になる。
以前ディジーさんにそう説明されて売るのを思い止まるように説得されたが、しかしあの時はルゥの件があったからどうしようもなかった。
現状もお金がもっと必要であることは分かってはいるのだが、それでも次にドロップしたら売らないで手元に置いておこうと思う。
いつか『水の迷宮』に行く時のためにね。
さて、それでは狩りの開始だ。
取りあえず神竜に変身したクルーエルの格闘攻撃がいかほどか見極める必要があるな。
『気配察知スキル』を全開にして移動すると、最初に訪れようとしている部屋に複数の気配を感じた。
火竜状態のルゥから降りて念のために壁から顔だけ出して確認すると、ウインドウィーゼル三体とブルポーンが二体という組み合わせのモンスターたちがいた。
丁度いい。運が良ければブルポーンの肉――今晩の食材もゲットできるかも。
数としてもクルーエルの格闘攻撃を見極めるのに悪くない数なので、このままクルーエルに戦ってもらうことにする。
しかし案の定と言うか、この女はさすがだった。
「お、間諜ごっこか? ドキドキするのう」
そう言って俺と一緒に壁から顔を出して部屋を覗きこんでモンスターをこっそりと見始めた。
そこからずっと二人で壁から顔を出して部屋を覗きこんでいるだけなので何も話が進まない。
………。
頼む。この子、本当に誰か何とかして?
この歳で『ごっこ遊び』なんてするわけないだろうとか、そもそも『間諜ごっこ』って何?とか色々と言いたいことはあるが、コミュ障なのでツッコむことすら出来ねえ。
俺が心底疲れながらルゥに乗って彼女に説明してもらおうと思っていると、
「りゅ、竜王様。竜騎士様はあのモンスターを竜王様に倒して欲しいのだと思いますよ?」
既にこの狩りの意味を理解してくれているローシェがそのように注意してくれた。
……クルーエルは二人掛かりで相手をするのが丁度いい相手だな。
「なに、そうなのか?」
「恐らく。それと先程竜騎士様が仰った通り、スキルを使わずに倒していただきたいのだと思います」
ローシェの言葉に俺が全力で頷くと、
「……面倒じゃのう」
そのように文句を言いながらもクルーエルはやってくれるようだった。
彼女は部屋に入ると、体に力を入れ始める。
クルーエルの姿を捕えるなり、モンスターたちがこちらに向かってくるが、しかし彼女はまるで構わず変身を開始した。
彼女の体から白いオーラが噴出し、異形へと変化をしていくにつれ、モンスターたちが恐れるようにして動きは鈍くなっていく。
彼女が完全に変身を遂げて咆哮を上げると、モンスターは全く動かなくなった。
神竜を前にして萎縮し竦み上がっている。
目の前にいる生物が自分たちとは次元が違うことを本能的に理解しているようだ。
神竜となったクルーエルはそんなモンスターたちに一瞬で近付くと、そのまま容赦なく体当たりした。
それだけでまとめて四体が塵と化し、残り一体もシッポの一振りで弾け飛んで消えた。
……瞬殺だった。
………。
強すぎだろ?
スキルを使う必要なんて全くないじゃん。
これなら何も心配いらないな。
それどころかなるべくまとまった数のモンスターがいる時にクルーエルに戦ってもらいたいくらいだ。
いや、そうさせよう。それが一番効率良い。
よし。クルーエルの件はこれで完璧だ。
これを繰り返していればいつかレベルが上がることだろう。
……マイナス99からマイナス98に。
………。
初期状態に戻すだけなのに何故こんなに果てしなく遠く感じるのか……。
め、目指せレベル1……。
根気よく行こう。
何にせよ、次は俺とルゥのコンビの番である。
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力を使い果たし脱力状態のクルーエルをローシェに預け、俺はルゥに跨ると再び『気配察知スキル』を全開にしてダンジョン内を進んでいた。
……それにしても楽だなぁ。
ルゥが俺を乗せてくれているので俺は『気配察知スキル』に集中するだけで良かった。
しかも火竜状態のルゥは意外と移動速度が速いので、これなら狩り速度もアップする。
うーん、竜騎士にとって竜って本当に必須なんだな。
戦闘力は大幅に上がるし、いいこと尽くしだ。
ちなみにローシェはクルーエルを背負ったまま凄いスピードで付いて来ている。しかもクルーエルに負担がいかないように全く揺らさない走り方だった。
レベルがかけ離れているせいか苦にした様子もない。
本当にすごいな。
……冷静に考えると、本当に危なくなったらローシェに助けてもらえば大丈夫そうだよね?
それくらい強いよこの人は。
これは少し無茶をしてもいいかもしれないな。
俺とルゥの戦いが地下6階でどのていど通用するか次第でもっと下に降りることも検討しよう。
……いや、通用するのは間違いないはずだ。
俺が一人の時でさえ楽勝だったのだから、それ以上にステータスが上昇した上にルゥというパートナーを得た今、それに輪をかけて余裕だろ。
そう……つまり、あとはルゥの気持ちと精神面の問題なのである。
彼女はまだ自分に自信がなく、戦闘にも慣れていない。
過信していきなり強いモンスターと戦わせてトラウマを作らせたくはないから、やはりしばらくはじっくり行こうか……。
そう思っていると、『気配察知スキル』でモンスターの存在を感知する。
この感じは……ウインドウィーゼルが五体。
そのことは俺を通してルゥにも伝わっているはずだ。その証拠にルゥから微かな緊張が読み取れる。
前は三匹相手に重傷を負ったこともあるが、今なら何てことない相手。
だから俺はルゥの首筋を撫でて緊張を解してやる。
さあ、やろうルゥ。
俺が心の中でそう言うと、ルゥはウインドウィーゼルのいる部屋へと踏み入った。
ウインドウィーゼルはこちらに気付くと俺たちの方へとダッシュしてくる。
俺はそれを眺めながら慌てずに分析する。
こいつらウインドウィーゼルは意外とチームプレイが得意なモンスターだ。
今まで戦ってきたウインドウィーゼルたちは過半数の前衛が接近戦を仕掛けてきて、その間に後衛が『かまいたち』を放つ予備動作をする。
恐らく今回もそうなるだろうと思っていると、案の定後ろの二匹が中距離で止まりシッポに力を入れ始めた。
そのシッポが緑色に光ると同時に、俺はルゥにこう命令する。
ルゥ、後ろの二匹に目掛けて炎のブレスだ!
阿吽の息でルゥが刹那に炎のブレスを吐く。
ゴウッと凄まじい熱気が俺の顔を襲い、紅蓮の炎が後衛のウインドウィーゼルを飲み込んだ。
その際、前衛のウインドウィーゼルが炎の熱気から逃れるために左右に分かれたので、こちら側に来た二匹を、青銅の剣を腰から引き抜いて斬り伏せた。
最後の一匹が遠くから『かまいたち』を放とうとしていたので、右手の槍に魔力を込めて先端を飛ばす。
槍の先端は迷うことなくウインドウィーゼルに突き刺さり、それで最後の一匹も塵になった。
……そう言えば槍を飛ばす練習をするのを忘れていたけど、意外とぶっつけ本番で何とかなったな。
やはりこの槍は悪くない。
『ルゥの炎』と俺の槍の『先端飛ばし』という、二種類の遠距離攻撃があるだけで随分と戦いの幅が広がった感じがする。
ともあれ楽勝だった。
俺もルゥも全く実力を出し切らないまま終わった感がある。
やはりこの階ではもうそれほど得るものはないな。
そう思っていると、ルゥがこんなことを言ってくる。
『ご主人様、もっと下の階に降りましょう』
その言葉に俺は少なからず驚いていた。
だってそうだろう。まさかルゥの方からそのような提案をしてくるなど思ってもいなかったから。
『わたしなら大丈夫です』
俺の心配を吹き飛ばすように力強く言うルゥ。
………。
まったく。俺はいい子と契約したものだよ。
……それじゃあ、もっと下の階に行こうか。
俺がそう伝えると、ルゥは迷いなく下の階へのルートに沿って進みだした。
……これだけでも、少し前と比べて随分と違うような気がする。
前だったら、逆らうことは絶対にしないだろうがそれでも躊躇いは少なからず出ていただろうに。
実のところ、彼女はまだ自分に自信を持っていない。
それなのに何故このような反応をしているのか?
その理由を俺はもう分かっていた。
彼女から伝わってくる絶大な信頼感。
俺はいつの間にかそれほどまで彼女の中で大きな存在となっていたのだ。
だったらそれを裏切るわけにはいかないだろう。
即ち、何かあったら俺がルゥを守る。
絶対に。
その気持ちが伝わったのか、ルゥの足音が力強いものに変わった気がした。
その後、地下18階までは全く問題ないことが分かったのだった。




