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第六十六話『竜契約の行方』

 元の姿に戻り、息を切らしているクルーエルの前で、俺は未だ茫然としていた。

 ローシェとルゥも俺と同様に茫然としている様子だったが、しかし真っ先に我に返ったローシェが顔色を変えてクルーエルに向かって叫ぶ。


「りゅ、竜王様、もう少し加減をしてくれませんとダンジョンが崩れてしまいます!」


 ……確かにそうだ。

 今考えればとんでもないことをしてくれたと思う。ダンジョンが崩れていたら俺たちは全滅していた。

 だが、


「ええい、そんなまどろっこしいこと今の儂に出来ると思うか!? 撃つか撃たぬかじゃ! それにこれでも全盛期の十分の一以下じゃ!」


 ……マジかよ。

 俺は本当にとんでもない思い違いをしていた。

 クルーエルが竜王なのかどうか疑っていたこともそうだが、それ以前に竜王の凄まじさをまるで理解していなかった。俺の予想など遥かに超えた力だ。


 しかし……。

 現状力の加減が出来ないのならば、これは根本的にやり方を変えた方が良さそうだ。

 これ以降は『ドラゴンクロウ』スキルで敵を倒してもらおう。

『ドラゴンクロウ』は爪による攻撃だ。ルゥも使えるスキルで、前面を空間ごと抉り衝撃波を発生させる近接攻撃である。

 これならば敵をまとめて葬り去ることが出来る上に、先程のようにダンジョンを崩壊させるようなことにはならないだろう。


 そう思い、ドラゴンクロウで敵を倒して欲しいことを再び長時間かけて説明した。

 おかげでクルーエルが再び変身できるくらいにまで体力が回復したので無駄な時間ではなかったと思いたい。そのはずだ。そう信じよう。


 そしてその後、先程と同じようにモンスターを探し出し、七匹ほどのモンスターに向かって竜王の『ドラゴンクロウ』で敵を攻撃してもらったのだが……。

 結論から述べると、俺は再度思い違いをしていたと言うしかなかった。


 ――今、俺の前面に広がるダンジョンはまたもや崩壊していた。


 ………。

 なんだこれ?


 さっき、ドラゴンクロウは前面を空間ごと抉り衝撃波を発生させる近接攻撃だと説明したと思うが、その衝撃波がとんでもないものだった。

 いや、前面の空間ごと抉るところからして規模が違い過ぎる。


 取りあえず簡単に説明すると、前面の空間がダンジョンの壁や床ごとガリッと削られて、さらにその後、尋常ではない衝撃波が発生してダンジョンが吹っ飛んだ。


 ………。

 もう竜王様にスキルを使わせるのはやめよう。


 しかしそうなると、普通に殴る蹴るでモンスターを倒してもらうしかないが……。

 その場合、敵を倒しきれず彼女の変身が解けてしまった場合が怖いな。


 そうならないように俺がフォローしなければならないか……。

 だが、フォローするのなら、万全を期して俺はルゥに騎乗している状態の方が都合が良い。

 さらに下の下層に進むとなればなおさらだろう。


 ただ、そうしたら必然的にクルーエルたちに俺とルゥが契約したことを明かす必要が出てくるわけで……。

 ………。

 覚悟を決めるしかないか。


 俺はクルーエルにルゥとの竜契約を打ち明けることにした。



 **************************************



 取りあえずクルーエルのドラゴンクロウで滅茶苦茶になったこの場所から離れなければならない。

 もし他の冒険者などが様子を見に来た場合、何も説明することが出来ないまま疑われてしまう可能性があるからだ。


 そんなわけで破壊の爪痕が残る部屋から、ここなら誰も来ないだろうという場所まで移動すると、そこでクルーエルと向かい合った。

 急に真面目な顔を向ける俺に、クルーエルは何やら赤い顔でもじもじし始める。


「な、なんじゃ? も、もしかしてこれは若い娘たちの間で噂になっていた『告白』というやつかや? そ、そんないきなり……儂、困ってしまうのじゃ……」


 ……何故そうなる?

 聞き耳スキルのおかげで後半の小声の部分も丸聞こえだったが、そんなわけなくない?

 俺はダンジョンに出会いを求めたりしないよ?

 というか普通しないよ? 何故なら危険だから。


 たまにこの子の思考回路が分からなくなる時があるが……まあいいか。

 取りあえず無視して話を進めよう。

 そう思うと俺は、今度はルゥに向き直り、地面に絵を描いて竜に変身して欲しい旨を伝える。

 以前も伝わった方法なので、ルゥに問題なく意図を伝えることが出来た。

 しかし、


「……よろしいのですか?」


 ルゥは不安そうに確認してくる。

 彼女がそう訊いてくるのも無理はない。

 ルゥの顔には『本来竜王と契約すべきだった紋章を自分のためなんかに費やしてしまった罪悪感』がありありと浮かんでいた。

 ……そんな顔をさせるために契約したわけではないんだけどな。


 俺はルゥの髪に手をやると、ゆっくりと撫でてやる。

 こんな時、どうしてあげたらいいのか分からないし、これで合っているのかも分からないし、何より女の子の髪を撫でたことなどないので相当ぎこちなくなってしまっているが、それでもルゥは気持ちよさそうに目を細めていた。

 しばらくそうしていると、ややあってルゥが頷いた。


「分かりました、ご主人様の仰せの通りに」


 そう言うとルゥは開けた場所に移動する。

 そして訝しげな表情を見せるクルーエルとローシェの前で、変身するのだった。


 赤いオーラがルゥを包み込み、彼女の小さな体が盛り上がっていく。

 その際、ルゥの胸には金と赤が混じる紋章が浮かんでいた。

 そしてそれと共鳴するようにして、俺の右手の甲にある紋章が輝き出し、籠手の上にまで浮かび上がった。


 ルゥと契約したことにより少し朱色が混ざった金の紋章。

 それを見てクルーエルの顔色が変わる。


 そんな彼女を他所にルゥの変身が完了した。

 クルーエルの竜王の姿とは違い、可愛らしい小さな竜がそこにはいた。

 俺はその小さな竜に跨ると、その姿をクルーエルに見せた。

 それでクルーエルには伝わったようだ。

 クルーエルが震える手で火竜状態のルゥを指差して訊いてくる。


「お、お主まさか……その火竜の小娘と竜契約を結んだのではあるまいな……?」


 クルーエルは言外に「ウソじゃろ?」と言っているようだった。

 ……かなり気まずい。


「……この竜王と契約が出来ることはお主にも分かっていたはずじゃ。この竜王の名はこの世界の者ならだれでも知っておる。お主の耳にもこの竜王の偉大なる名は聞こえ届いていたはずであろう? 普通だったらそんな物凄い『竜王様』以外と契約しようなどと思いもしないはずじゃ。……ハハ、そうじゃ。そんな儂を放っておくはずがない。これは夢か何かじゃ」


 クルーエルの目の焦点が合っていない。

 そしてローシェは胃を押さえて倒れ込んでいた。


 ………。

 もはや気まずいなんてもんじゃないんだけど?

 ……この状況、どうしよう?


 ………。


 こ、ここは誤魔化すしかない!

 俺はルゥにこのように言ってもらう。


「そ、それはそれとしてレべリングしよう、だそうです……す、すいません……」


 ルゥも凄まじく気まずそうだった。

 ごめん、ルゥ。不甲斐ないご主人様で……。


「お主……この竜王との契約を棒に振っておいて、いくらなんでもそれは軽すぎじゃろ……? 歴代の竜騎士たちが聞いたら泣くぞ……」


 クルーエルが唖然とした面持ちでそう言った。


「歴代の竜騎士たちもまさか、こんなことが起こるなどと夢にも思わなかったことでしょう……」


 ローシェが胃を押さえながら呟いた。

 もう、何も言い返せない……。


「この千年間、ずっとお主を待ち侘びたというのに……」


 ……そんな言葉を聞くとさすがに心が痛い。

 でも、その割にはその千年間、ずっと食っちゃ寝してましたよね?

 ……そんなわけで、まあ、お相子ということでここはひとつ……。


 心の中でそう言い訳すると同時に、しかしながら、少しだけ後悔があったのも事実だ。

 実はあの『神竜のブレス』を見た際、最強のレべリング方法を思い付いたのだ。

 もしクルーエルと契約出来れば、俺たちは一気に強くなれる。

 俺もルゥもクルーエルも、三人ともだ。


 しかし出来ないものは仕方ないか……。


 ちなみにルゥと契約したこと自体には何の後悔もない。

 ただ、クルーエルと契約出来ないことが残念なだけだ。

 ……何か二人同時に契約する方法とかないのかな?

 さすがにそれは欲張りか。

 そう思っていると、クルーエルがこんなことを言ってくる。


「はあ……まあいいわい。これで儂とお主の契約の道が完全に絶たれたわけではないからな。まあ、全てお主次第じゃが」


 ……なに?

 どういうことだ? 今の言い方だとまだクルーエルと契約する方法が残されているみたいな言い方だが……。


「儂は信じておるぞ?」


 クルーエルは少し寂しそうにそう言った。

 いつも騒がしいだけあって、彼女のそんな姿を見ると、俺は軽く狼狽えてしまった。


 それからしばらく彼女は何も喋らなくなった。


 心から求めれば、竜騎士は何人とでも契約できる。

 俺がそれを知るのはもう少し先のことだ。




誤字報告ありがとうございました(*^_^*)

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