第六十二話『槍』
武器屋から出た足で道具屋に必要な物を買いに行き、その後クエストが無事終了したことをディジーさんに伝えたところで午前中を終えた。
冒険者ギルドを出ると露店で昼ご飯用の串肉を買い、その足で早々と我が家に戻る。
そして俺は手早く串肉を口に詰め込み、先程武器屋で買った槍を持って広い場所へと陣取った。
……やはり手に入れたばかりの物はすぐに試したくなるものだろう。
俺は槍レベル6なので既に槍の使い方は理解しているのだが、しかし実際に振ってみなければ分からないこともある。
いきなりダンジョンの実戦で使うなどということはしない。
油断は大敵。
そんなわけで槍の練習開始だ。
まずは『突き』!
昼下がりの空にヒュボッと空気を貫く音が響く。
………。
悪くない。
重心がブレず、槍は手に吸い付いたような感触だ。
よし、次に『払い』!
今度は空気を切り裂く音が響いた。
……うん、払いもまったく問題ないな。
見た目はランスだが、先端は刃のようになっているので普通の槍としても使えそうだ。
そこからも突きと払いを繰り返す。
空気を切り裂く音が気持ちいい。
たまに回転させたりすると、相手の虚を突けていいかもしれない。
そう思ってぐるぐると槍を色んな場所で回転させてみる。
槍がヒュオンヒュオンと音を立てて俺の周りを回り始めた。
そしてそれらを複合していく。
槍の演武。
俺は三国時代の猛将・呂布奉先のように槍で躍り狂う。
その様を昼食中のクルーエルたち三人が眺めていた。
「ほう……見事なものよな」
意外にもクルーエルが褒めてくれた。
隣でルゥがこくこく頷いているのが可愛い。……ルゥ、手に持っている串を鳥たちが狙っているよ?
そしてローシェはというと、
「さすがは竜王様のパートナーとなられる方です」
何気なくそんなことを呟いた。
そのセリフを聞いて俺は背筋にイヤなものが走る。
……あれ? ローシェとクルーエルの二人は、もしかして俺と竜王が契約するものだと思ってここに来たのか?
でも、俺はもうルゥと契約してしまったのでクルーエルと契約することは出来ない……。
何故なら『竜契約』できるのは一回だけだから。
ステータス欄からも既に『竜契約スキル』は消えている。
………。
本来竜王と契約すべき紋章で他の竜と契約したなどと知ったら、この二人はどういう反応をするだろう……?
少なくとも笑って済ませてくれる気はしない。
……まずい……よね?
ど、どうしよう……?
そんなことを考えていたら、槍が手からすっぽ抜けた。
すっぽ抜けた槍は勢いよく飛んで行って、クルーエルの側の木に突き刺さる。
目の前でびよよ~んとしなる槍をクルーエルが驚愕の目で見ていた。
「き、気を付けろバカ者が!? チビるかと思ったじゃろ!?」
……ご、ごめん。
さすがに今のは俺が悪いと思いました。
しかし……。
竜契約の件、どうやって説明したものか……?
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結論として、竜契約の件は一先ず先延ばしにすることにした。
だって俺、喋れないし?
さすがにこの件をルゥに説明させるのは気が引けるし?
だったら先延ばしにするしかないじゃん、ということだ。
ふははっ、都合の悪いことは先延ばしするに限るぜ!
……後が怖いけど……。
ま、まあ、それはそれとして、今は他にやっておかねばならないことがある。
槍の練習を終えると、俺はマジックポーチから斧を取り出した。
そして近くにあった木を斧で打ちつける。
カーン、カーン、バキッと、前回と同じくやはり三発で倒れた。
その様子を見てローシェが首を傾げた。
「竜騎士様は一体何をなさろうとしているのでしょうか?」
「お主が増えたから、家を大きくしようとしておるのではないか?」
クルーエル、正解。
その通り。ローシェが増えた分、俺は家を増築しようとしている。
もう昨日みたいにお団子になって寝るのは勘弁だ。
……寝不足は一日だけで十分。
しかしローシェはというと、何やら感動したような瞳で俺を見つめてくる。
「わ、私のためにわざわざ……?」
あれ? 意外なところでローシェの好感度が上がった気がする。
……あ、でもよく考えてみたら自分のために家を建ててくれるというのは結構嬉しいものかもしれない。
前回クルーエルもやたらと感激していたし。
今の俺のステータスならそこまで大したことでもないのだが。
逆にローシェのキラキラした目がこそばゆい……。
ちなみに前回は火竜に変身して手伝ってくれたルゥだが、先程の『竜契約』の件で空気を読んだのか変身しようとしなかった。うん、偉い(前回ルゥが変身していた時クルーエルはずっと寝ていた)。
そんなルゥにはやすりで木の表面を磨く係を与えた。
今は一生懸命「んしょんしょ」とやすりをかけてくれている。……この子は何やらせても可愛いな。
俺のルゥの愛で方が段々ヤバくなってきている気はするがルゥが可愛いのだから仕方ないと諦めようと思う俺はやはりヤバい。
その後ローシェもルゥの隣で手伝ってくれたが、クルーエルは切り株の上で昼寝の準備をし始める。
……安定の駄竜王ぶりだった。




