第六十一話『新しい武器。鍛冶師エイル』
俺たちは家を出ると、まず西通りにある強面店主の武器屋を訪れた。
新しい武器を調達するためである。
キルソードが折れた後、お金がなかった俺に強面店主は青銅の剣を貸してくれた。
そのおかげでラザロスとの一騎打ちにも勝てたし、あの人に少しでもお金を還元したい。
この間スカルナイトからドロップした『骨滅のカード』のおかげで金貨15枚が入ったので、改めて新しい武器を買わせてもらおうと思った。
そんなわけで強面店主の武器屋に足を踏み入れたのだが、カウンターからいつもの無愛想な顔が向けられたと思ったのも束の間、俺の後ろの三人を見てその強面が崩れた。
「ど、どうした坊主? 今日は別嬪さんを三人も連れてよ……」
強面店主があんぐりと口を開けていた。
どうやら俺が三人もの女性を連れているのが信じられなかったらしい。
……まあ、今の今まで一言も喋ったことのないガチの根暗な奴がいきなり三人も女を侍らせていたら誰だってビビるわな。
………。
……そうか、俺ってガチの根暗だったのか……。
自分の言ったことに自分でダメージを受けていると、ローシェが深々と頭を下げた。
「お世話になります、ご店主」
うん、さすがローシェ。実に丁寧な挨拶だ。
ちなみに挨拶したのはローシェだけだった。
うん、さすが俺たち。
「お、おう……坊主の連れとは思えねえくらいしっかりした娘だな」
俺もそう思う。
「まあ坊主にはそのくらいしっかりした娘が似合ってらあな」
強面店主がニヤニヤした顔を向けてくる。
……この人、意外とこの手の話題が好きなのか。
俺が驚いていると、クルーエルがまたむっすーと頬を膨らませていた。え、なんで?
ルゥはルゥで俺のずぼんの裾をそっと握ってくる。……どうしたルゥ?
そして誰も喋らなくなった……。
え、なに、この雰囲気……?
居心地の悪さを感じたのか、強面店主もそれ以上何も言おうとしない。
……あの、最後まで責任持ちましょうよ?
………。
……しーん。
………。
大丈夫。こういう状況はコミュ障ならよくあることだから。
打開することは出来ないが、耐えきれる心は持っている。
そんなわけで武器を見て周ろうかな。
俺が全てを無かったことにして店内を見て周り始めると、彼女たちも後ろから付いてくる。
よかった。取りあえず本当に無かったことになった。
彼女たちは人間の店が珍しいのか、興味深そうに店内の武器に目をやっていた。
クルーエルなどは飾ってあったキルソードを手に取りポーズを取ってカッコつけている。
キルソードは見た目が派手なので気に入ったっぽいが、その姿は完全に厨二病のそれだ。
……気付けクルーエル。強面店主が生温かい目で見ているぞ。
さて、クルーエルたちは剣に目が行っているようだが、実は今回の俺の目的は『剣』ではない。
『槍』だ。
火竜状態のルゥに乗り戦ってみて分かったが、竜に騎乗して戦う場合、槍の方がいいのではないかというシーンが何回かあった。
剣と比べて恐らく一長一短ではあるが、取りあえず一度槍で戦ってみたい。
店内を見ていると、相場的に槍は剣よりも少し値段が高いことが分かった。
青銅の槍、鉄の槍、鋼の槍という剣と同じようなラインナップが続くが、資金があることだし出来ればもうちょっと良い槍が欲しい。
おお、あの『キルランス』っていう槍めちゃくちゃカッコいいな……!
多分キルソードのランス版だと思うが、やたらと尖った部分がいっぱいあって見た目が他と一線を画している。
手に取り、試しに俺はポーズを取ってみる。
……おお、いいんじゃないかな? 竜騎士っぽい……!
他にも色々とポーズを取ってみると、見かけ的にはドンピシャでしっくりくる。
いいねえ、俺カッコいい……とか思っていたら、生温かい目をした強面店主と目があった。
………。
……ウソ……だろ? 俺、クルーエルと同じことやっていたの……?
………。
いえ、違います~。俺の場合は実用を考えていたので厨二病ではありません~。
だからそんな目で見るのはやめてください~。
………。
俺はキルランスをそっと棚に戻した。
あのキルランスはキルソードと同じく攻撃力はかなり高そうだが、しかしどこか脆そうでもある。そこら辺もキルソードと一緒だ。きっと生まれたコンセプト自体が同じなのだろう。
キルソードの攻撃力の高さには本当に助けられたが、しかしあの時……ボス戦の一番大事な時に折れたせいで命を落としかけた。
だから今回あのキルランスを買うのはやめておこうと思う。
では何を買おうかと思ったのだが、次に目に入ったのは見覚えのある槍だった。
ショーケースの中に飾られているその槍に打たれた銘は『リザードニードルの魔槍』。
そう、俺が地下十階のボス・リザードニードルを倒した時に出た激レアドロップアイテムだ。
どういう経緯でここに運び込まれたか分からないが、多分あの時の槍だろうと思う。前にこの店に来た時はなかった。
これはこれでやっぱりカッコいいな~。
それに自分で倒したボスのドロップアイテムだから愛着もある。
しかし……。
リザードニードルの魔槍。金貨550枚。
とてもではないが手を出せる代物ではない。
くそ、あの時ラザロスたちが余計なことをしなければ俺の物だったはずなのに。
自分で倒したはずの敵のドロップアイテムを自分で買い取るのは釈然としないものがあるが、しかしやはりいつか欲しい。
でも、やっぱり自分で買い取るのは納得がいかない!
クソラザロスめー!
俺は悶々としながらも視線を無理矢理リザードニードルの槍から外した。
だってそれ以上見ていたら、憎しみでラザロスを暗殺しに牢屋まで行っちゃいそうだから……。
『気配遮断スキル』のレベルをもう少し上げれば不可能ではないと思うところが怖い。
ダメダメ。少しでもルゥが悲しむようなことを俺はしない。
そんなわけで隣の槍を見たのだが……おや? これは……。
その槍もランス型だが、先端の形が少し変わっている。
先端から30センチくらいの突起だけ独立したような形になっていた。
俺は手に取ってみる。
軽く振ったり突いたりしてみた。
……悪くない。
重すぎないし、何より手に馴染む感覚がある。
金貨8枚か……。
少し高いが、これを買えと俺の勘が囁いていた。
「くくく……坊主、お前は本当に面白いな。まさかその槍を選ぶとはよ」
いつの間にか強面店主が俺の横まで来ていた。
「その槍はよ、つい最近になって俺のところに顔を見せた新進気鋭の鍛冶師エイルの作品だ。と言っても今はまったく無名の鍛冶師だがな」
ふーん、鍛冶師エイルか。覚えておこうかな。
そう思っていると、
「エイルはな、鍛冶師としては無名だが、変わり者としては有名な小娘だよ。『形や既存の概念に縛られていては良い武器は作れない』と言ってな、変な武器ばかり作りやがるんだ。人はそれをガラクタと罵るがよ……例えばその槍はな、魔力を込めると槍の先端が飛び出す仕組みになってるんだぜ」
魔力を込めると先端が飛び出す槍だって?
……なにそれ、面白い。
「しかし先端の射出するスピードと威力は持ち主の魔力次第だ。だから普通の戦士にはまず使いこなせない上に、一度飛ばした槍の先端は自分で拾わないと戻ってこない。それ故に、これも見ようによってはガラクタ同然の槍だと言える」
そう言う強面店主だが……。
だったら、どうしてここに置いてあるのだろう?
「どこも断られて俺のところに持ってきたようだが、俺は悪くないんじゃねえかと思っているんだよ。坊主、お前もそう思ったからそれを手に取ったんだろう?」
強面店主はニヤリと笑う。
その言葉は当たっていた。
俺はこの槍が悪くないのではないかと考えている。
槍の先端を飛ばすというのは、確かに見ようによっては自殺行為だが、むしろ戦略の幅を増やすメリットの方が大きい。
それに魔力によって先端の射出するスピードと威力が上がるということは、魔力がかなり高い俺ならばこの槍のスペックを発揮出来るということだ。
今まで使い道が無かった無駄に高い俺の魔力を生かせるという意味でも悪くない。
それに……。
先程も言った通り、重すぎないし、何より手に馴染む感覚がある。
先端を飛ばす機能を抜きにしても、この槍自体がすばらしい出来になっているというのが俺の評価だった。
金貨8枚は決して高くない。
俺は最終的にそう判断した。
マジックポーチから金貨8枚を取り出すと、その場で強面店主に渡す。
「そうか。買うかよ。それでこそ俺の見込んだ坊主だぜ」
強面店主はくっくと笑った。
「ただ、悪いがそれは既に最大限割引してある。だからこれ以上は値引けねえ」
いや、全然大丈夫ですよ。
それどころかいつも良くしてもらい過ぎているくらいだ。
あ、そうだ。どうせなら借りている青銅の剣もこのまま買い取らせてもらおう。
そう思って青銅の剣を指差してその分のお金を支払おうとすると、
「それはてめえにやるよ」
そう言われた。
いやいや、お金がある時くらいは少しでも恩返しさせてもらいたい。
「だからいいって」
しかし強面店主は一向に受け取らない。
それでも無理矢理渡そうとしたら、
「いいって言ってんだろ殺すぞてめえ?」
殺されたくないのでありがたく青銅の剣をいただきました。
ほんと頭が上がりません。




