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第五十九話『竜王。その姿』

 むっすー、という音が聞こえそうなくらい不機嫌なクルーエル。

「お主だけは味方じゃと思っておったのに……」などと不貞腐れたようにぶつぶつ言っている。


 そんな姿を見ると少し申し訳ない気持ちになってしまうが、ローシェに協力すると頷いたからにはクルーエルを矯正していかなければならない。

 まあ、さすがの俺でも竜王がこんなクズではいけないと分かるので、ここは心を鬼にしていこう。


 しかしどうしたものか……。


 ……そうだな。

 取りあえずクルーエルに竜の姿になってもらおう。

 何にせよまず竜王の本当の姿を見てみたい。


 だけどどうやって伝えたらいいか……?

 あ、そうだ。ルゥの時と同じく絵で伝えることにしよう。

 そう思って地面に女の子の絵と竜の絵を描いてみると、


「なんじゃ? お絵かきかや?」


 どうやら遊びか何かと勘違いしたらしく、クルーエルはお絵かきを始めてしまった。

 ……この話の流れでお絵かきなんかするわけないだろうが?


 ルゥが「違うよ」と言ってくれないか期待したが、クルーエルが苦手なのか遠慮がちに俺の後ろに隠れているだけだった。可愛い。

 それでもクルーエルに伝えようとしてくれているのかルゥは前に進もうとするのだけど、葛藤してまた俺の後ろに隠れるということを繰り返しており、その様が非常に萌える……。

 いや、ルゥを愛でている場合ではない。ローシェが胃の辺りを手で押さえ始めた。


 心痛でローシェが倒れる前にクルーエルに竜の姿へとなってもらわねばならないが、いかんせん伝え方が分からない。

 ………。

 そう言えば前回ルゥが変身した時は角が光っていた気がした。

 ということはクルーエルの角を触ったら何か起きないだろうか?

 そう思って試しに彼女の角に触れてみると、


「ふあああ……!? な、何するのじゃバカァッ!?」


 思い切り殴られてしまった。

 クルーエルは顔を真っ赤にしている。

 女の子の角にいきなり触れるのはもしかしたら竜の世界では変態なのかもしれない。


 ……普通だったら自分から他人に触れることなど有り得ないのだが、意外にもすんなりいけたものだからお触りしてしまった。

 いい感触だったし中々背徳感をそそられる反応だったので、もう一回触りたい思う俺はきっと本当に変態なのだろう。

 ……コミュ障で変態。


 やばい。ローシェが何か粉薬を飲み始めた。

 これ以上彼女の心労を増やしたらマジで倒れてしまうかもしれない。

 本気でなんとかしなければと思っていると、しかしここでルゥがようやく前に出る。


「あ、あの……ご主人様はきっと竜王様に変身してもらいたいのだと思います……」


 グッジョブ、ルゥ!

 可愛くて気の利く奴隷を持ってご主人様は幸せだ!

 ルゥはすぐにまた俺の後ろに隠れてしまったが、それでも通じたらしい。

 クルーエルはローシェと顔を見合わせた後、不敵に笑い始めた。


「ほう……この竜王の真の姿を見たいと申すか? クックック、よかろう。望み通り見せてやろうではないか」


 そして威風堂々と表に向かって歩いていく。

 その姿を見て、初めて竜王らしいと思った。



 **************************************



 家の外に出て開けた場所に陣取ると、クルーエルは大きく深呼吸する。


「では、行くぞ」


 そう言って彼女は体に力を入れ始めた。

「はあああああ……!」と若干中二病っぽい掛け声を出していたが、すぐに変化が訪れる。


 クルーエルの角が白い輝きを発した瞬間、辺りに強い風が吹き荒れ始めた。ルゥの時と同じだ。

 その白い輝きは彼女の体全体を包むようにして膨大していき、次にその白いオーラに引っ張られるようにしてクルーエルの体が膨らんでいく。


 メリメリという音を出して、彼女は異形の姿になると同時にどんどん大きくなっていく。


 ……おいおい、この大きさはルゥの比じゃないぞ?

 それに噴出される白いオーラの輝きも尋常ではない。

 俺が呆気に取られていると、最終的に目の前に巨大な白い竜が現れた。


 あまりにも神々しい姿をした白竜。


 そのどっしりとした体は二本の太い足に支えられており、背中には大きな翼が生えている。

 牙は鋭くも芸術品のような美しい光沢を放ち、その瞳はクルーエルの人型の時と同じ綺麗な赤。

 そして翼は透明なエメラルドグリーンで、透けて見える空の色が一層綺麗に映っている。


 ――目の前の白竜が吠えた。


 俺は身が竦む思いだった。

 その咆哮はルゥのものとは比べ物にならないほど重厚で威圧的。

 赤い瞳に睥睨され、俺はまるで心臓を掴まれているかのように動けなくなっていた。


 ……これが竜王クルーエルの真の姿。


 俺は見誤っていた。

 彼女は本当に竜王だ。

 今の彼女はそれほどのプレッシャーを放っている。


 ――しかし俺の感動はそれまでだった。


 次の瞬間、何故かその白い竜は見る見る萎んでいき、あっという間に元のクルーエルの姿に戻ってしまった。

 しかも彼女は手を膝についてぜいぜいと息を切らしている。

 俺はぽかんと口を開けるしかなかった。


 そんな俺に向かってローシェが申し訳なさそうに言ってくる。


「竜王様は十秒しか変身していられないのです……」


 ………。

 ……はい?


 俺は耳を疑った。




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