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第五十六話『竜王と付き人』

 俺はルゥとローシェを連れて自分で建てたログハウスへと引き返していた。


 よほど心配なのか、道中クルーエルの現在の様子についてローシェにあれこれ聞かれたが、首を振って答えられるものだけ返答しておいた。

 一応クルーエルが息災であることが分かるとローシェは大きく安堵の息を吐いた。

 ……息災どころか我儘放題だったんですけどね……。


 ちなみにディジーさんが「リクくんは寡黙な男なんです」と説明してくれたおかげで何も喋らなくても今のところ大きな問題は起きていない。

 そうか。俺は寡黙な男だったのか……。


 ログハウスに辿り着くと、鍵を開けてローシェを招き入れる。

 家の中に入ると作り置きの料理だけ無くなっており、肝心のクルーエルの姿は見えない。

 ……まさか飯だけ食ってまた寝たのかあいつ? どんだけ寝るんだ?


 寝室の方に入ると案の定クルーエルの姿があった。

 しかし、ここで問題が発生する。


 信じられないことにクルーエルは下着一枚という悩ましげな姿で寝ていた。

 うわ……あいつめっちゃ綺麗な体しとる……。


「ななな、なんとはしたない……!?」


 ローシェはそう言うと慌てて毛布でクルーエルを包む。

 しかし安堵すると、彼女は白い目をクルーエルへと向けた。


「他人様の家でよくもまあここまで図々しく眠れるものです……」


 最初は心配していたローシェだったが、今は見るからに呆れた顔をしている。

 そして、その顔は段々と怒りの顔へと変化していき、


「竜王様! 起きて下さい!」


 ローシェがクルーエルの体を揺さぶるが反応は鈍い。


「……うう……もう少しだけ眠らせてくれいむにゃむにゃ」

「何が『くれいむにゃむにゃ』ですか! それが竜王たる者のお言葉ですか!」


 そこから二、三分体を揺さぶり続けてようやくクルーエルは目を覚ます。


「ぬおっ!? ローシェ!? 何故貴様がここにいる!?」

「何故貴様が、じゃありません! どれだけ心配したと思っているのですか!?」


 あの人、絶対苦労人だ……。

 俺はローシェに同情の目を向けていた。


「それに竜騎士様にこんなご迷惑をかけて……竜王として恥ずかしいと思わないのですか!?」


 ……竜王、めっちゃ怒られてるよ。

 ていうかもう俺の中の竜王のイメージが崩れすぎて大変なことになっている。


「えへへ……」


 しかもあいつ、笑って誤魔化そうとしてやがる……。

 あれが竜王のやることか?


 ローシェは深い……それはもうふかーいため息を吐いた。

 竜王への説教が糠に釘だと思ったのか、彼女は俺に顔を向けてくる。


「申し訳ありません竜騎士様。お宅でこのように騒々しくしてしまって……」


 そう言うとローシェは懐から袋を一つ出した。

 どうやらその袋には相当量のお金が入っているようだ。


「これは今回のクエストの達成料です」


 そのように説明して彼女は大金を渡そうとしてくるが、俺は手でそれを押し戻す。

 俺のやったことと言えば彼女をここに連れてきたくらいだ。だからこのお金は受け取れない。

 しかし、


「竜王様のお相手をするのは大変だったでしょう? どうかこのお金は迷惑料だと思って受け取ってくださいませ」


 た、確かに大変だったが……。

 しかしそこに口を挟んできたのはクルーエル本人だ。


「そんなことないわい。こやつは喜んで儂の世話をしておったぞ?」

「竜王様は黙っていて下さい! ……すいません。竜王様は空気を読むのが壊滅的に下手くそなものでして」


 ……うん。知ってる。


「だからそんなことないと言っておろうに! この男は何と、儂のために家まで建ててくれたのじゃぞ!?」

「……本当にご迷惑をおかけしたようで申し訳ありません。お願いですのでどうかこのお金はお受け取り下さい」


 ローシェは竜王をガン無視して平身低頭で謝ってくる。

 この人は竜王のお付きだけあってクルーエルのことをよく分かっているなと思いました。


 ……取りあえずこのまま頭を下げさせ続けるのも可哀想だし、有難くお金を受け取らせてもらおうかな。

 お金を受け取ると、次にローシェはルゥに顔を向けた。


「火竜の子よ。あなたにも迷惑をおかけしたかと思います。竜王様は極度の人見知りなもので、気を許した人以外には見向きすらしないのです。多分ご不快な思いをさせてしまったことでしょう。申し訳ありません」

「わ、わたしはそんな……」


 頭を下げてくるローシェにルゥはきょどりながら首を横に振る。

 ……でも、そう言えばクルーエルは結局一回もルゥのことを見ようともしなかったな。こんな小さな子にまで人見知りを発揮するとかどんだけだよこいつ?

 ……まあ人のことは言えないんですけどね!


 それにルゥはルゥで人見知りだから結果的にお相子なんだけどさ。

 ……なんか類は友を呼ぶみたいになってきているな。これ以上のコミュ障はノーサンキューだよ。


「しかし竜王様、旅の途中ではぐれてしまった時は肝を冷やしましたが、まさかご自分で竜騎士様を探し出しているとは思いませんでした。ようやく竜王としてのお立場をご自覚されたのですね?」

「………」

「これからは竜騎士様と共にこの世界のために戦っていきましょう」


 ……え?

 何この流れ?


 一緒に世界のために戦う?


 どういうこと?

 俺が首を傾げていると、そんな俺を見てローシェも首を傾げていた。


「あれ? 竜騎士様? 私たちと共に世界のために戦ってくださるのでは……?」


 え、だからなんなの、それ?

 そんな話初耳なんだけど……。


 俺が戸惑っていると、ローシェは再びクルーエルの方に顔を向ける。


「……竜王様? 竜騎士様にこの世界のため共に戦おうという話はしたんですよね?」

「………」

「し・た・ん・で・す・よ・ね!?」


 クルーエルの目は泳いでいた。


「竜王様!?」

「ええい、うるさい! そんな話しとらんわ!」


 竜王の逆ギレが始まった。


「世界のために戦う? そんな面倒なことやってられるか!」


 ……ねえ、あんた本当に竜王なの?


「どういうことですか!? 竜王様は魔族に対抗する為にわざわざ竜騎士さまの元へ参られたのでしょう!?」

「それはお前を騙すための方便じゃ!」


 ……こいつはっきりと言い切りやがった……。


「そもそもお前が悪いのじゃ! やれ規則正しい生活をしろだの体を鍛えろだの……我は竜王ぞ!? 命令するな!」


 ……子供かよ。これで千年生きているなんて言われても信じられない……。


「儂はこやつの元でぬくぬくするって決めたんじゃ! こやつに養ってもらうためにここに来たんじゃから邪魔をするな!」


 ……人の了承もなしにそんな大それたことを勝手に決めるな。


「そんなバカげた話に竜騎士様が頷くはずがないでしょう!?」


 そうだそうだ。


「大丈夫じゃ! 何だかんだこやつは優しいからそこにつけ込めば何とかなる!」


 ……おい。


「あなたは人間のクズですか!? いえ、竜王ですけども!」


 自分で言って自分でツッコむローシェ。

 もうめちゃくちゃだった。

 取りあえずクルーエルは後でげんこつな。




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