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第五十五話『ローシェ来訪』

 チュンチュンと鳥たちの囀る声が聞こえる。

 もう朝か……。

 まったく眠れなかったぞ。


 結論から言おう。

 あの後、俺とルゥとクルーエルの三人で一緒の布団で寝ることになった。


 もちろん俺は頑なに首を横に振り続けたが、揉めに揉めた上で最終的にそうなったのだ。

 まだ幼いルゥはいいとして、既に女性の体つきになっているクルーエルと一緒の布団に入って眠れるわけがない。


 しかも寝相が悪く何度振り払っても俺に抱き着いてくるし、無駄に綺麗な顔で頬ずりしてきて、一時はギンギンに滾る精神を落ち着かせるのが大変だった。

 ルゥなんて静かなものだった。出来ればルゥの方を見て癒されながら寝たかったけど、クルーエルの奴に体をがっちりホールドされていたせいでそれすら出来なかった。

 本当に疲れた……。


 ……こんな寝不足じゃ今日はダンジョンに行くのは無理だ……。

 ダンジョンでは何があるか分からないし、一瞬のミスが命取りになる可能性がある。いくらある程度は強くなったからと言っても油断は禁物だろう。


 でも、だったら今日はどうしよう……?


 あ、そうだ。これまでドロップアイテムを売るだけだったが、Cランクに上がったことだし何かクエストでも受けてみようか?

 Cランクの今なら割の良いクエストを受けられるかもしれない。

 今日はクエスト表を見に行って、その後まだ把握していない街を回ってみるのもアリだな。

 丁度新しい武器も欲しかったし強面店主の武器屋も行こう。


 そう決めると俄然やる気が出てきた。


 ちなみに左隣を見るとクルーエルはまだ寝ているが、右隣のルゥは既に起きていた。

 目が合うと、ルゥが横になったまま小さく微笑んでくる。


(おはようございます)


 クルーエルを起こさないように小声で挨拶してくるルゥ。

 ……何この可愛い生き物? どれだけ俺をときめかせれば気が済むの?


 俺はルゥに向かって頷くと、ルゥと一緒に布団を出る。

 ……何これもう夫婦じゃね?

 そうなるとまだ寝ているクルーエルが俺とルゥの子供というポジションになるのか。ハハッ、笑えない。


 すごい寝相で寝ているクルーエルにそっと毛布を掛け直してから俺たちは寝室を出た。



 **************************************



 結局クルーエルは起きて来なかったので、朝ご飯を食べてから俺とルゥだけで家を出た。

 一応起こそうとはしたが、クルーエルは頑なに起きようとはせず、挙げ句の果てに俺は顔を蹴られた。

 これはもう無理だと諦めて置いていくことにした。


 何だかんだこの場所で人に会ったこともモンスターに出くわしたこともないので多分安全だろう。

 鍵も付けたし、それなりに頑丈に建てたつもりだ。少なくてもボアの街の東通り貧民街にある藁とかで作られた家よりも強度は高い。


 それに竜王なら例えボス級のモンスターに襲われても簡単にあしらえるはずだ。

 加えて作り置きの料理もしてきたので、飢えることもない。


 完璧。大丈夫。

 そう自分に言い聞かせないと不安になる要素があの少女にはあるから困る……。


 だが実際これ以上は過保護もいいところだろう。

 というか俺はあいつの母親か?

 もういい。行こう。


 俺は後ろ髪引かれる思いを断ち切って街に向かって歩き出した。



 **************************************



 朝一番で冒険者ギルドに入ると、ディジーさんが既に仕事していた。


 ……この人はいつ来てもいるな。

 一体いつ家に帰ってるんだろう……?

 首を捻っていると、ディジーさんは俺に気付いて笑顔になる。


「おはようございます、リクくん!」


 ディジーさんの笑顔が俺の隣にいるルゥに向いた時に一瞬引き攣った気がしたが、気のせいということにしておこう。怖いから。


「それで今日はどのようなご用件で来られたのですか?」


 そのように訊かれたので、俺は酒場の手前にあるクエストボードの方に視線をやった。すると、


「もしかしてクエストを見に来られたのですか? それなら丁度良い案件があるんですよ!」


 さすがディジーさん。優秀な受付嬢は話が早い。

 ディジーさんに専属受付嬢になってもらって良かった~。

 そう思っていた時だった。


「でもその前に……」


 ディジーさんは俺をじろじろ見ると、こう言ってくる。


「おや? リクくんに何か知らない女の影が見えますね」


 え? 何この人? マジ怖い……。


「それにリクくんの体からルゥちゃんを含め二人の女性の匂いがします。……もしかして三人で一緒に寝ませんでした?」


 こわわわわわわっ!? なんで分かるん!?

 それに最後の方の声がどこから出してんのってくらいめっちゃ低かったんだけど!?

 俺がガクブルしていると、さすがに少しバツが悪かったのか、ディジーさんは一つ咳払いを入れて体裁を整えてから告げてくる。


「……リクくんもお年頃の男の子。最後の一線は超えていないようですし、まあ良しとしましょう」


 ディジーさんはそう言って何やら納得してくれたようだが……だからなんでそこまで分かるん? 怖くてチビりそうなんだけど。

 俺のラスボスはもしかしてディジーさんなのではないかと思っていると、彼女は気を取り直して先程の話の続きを語り出す。


「……こほん。それでおすすめのクエストの件なのですが、これは信頼が置ける冒険者にしか依頼していない重要な案件ですので、どうか他言無用でお願いします」


 ディジーさんが珍しく真剣な表情をしている。

 その雰囲気からして本当に重要なクエストのようだ。

 ちなみにまだ朝なので居酒屋の方で飲んでいる人物は誰もおらず、人に聞かれる心配はない。


「実はある人物の捜索をお願いしたいのです」


 人物の捜索?

 それが重要なクエストなのか?


「これはただの人探しではありません。その捜索して欲しい人物は世界を揺るがす程の大物です」


 世界を揺るがす程の大物?

 え、そ、そんなに凄い人物なのか……。

 それはディジーさんも真剣になるはずだ。

 その探して欲しい人物とは一体何者なのだろう?


「……これはそんじょそこらのクエストではありません。魔族の動きが活発化してきている今、最も重要なクエストと言っても過言ではないくらいです」


 す、すごい煽ってくるな。そこまでのクエストなのか?

 初めて受けるクエストはいきなりとんでもなさそうなものだった。


「いいですか? これは人類と竜人族との友好関係に大いに影響が出る案件で、極めて繊細なクエストです。心して聞いてください」


 ……ん?

 今なんて?

 人類と竜神族との友好関係に大いに影響が出る案件?

 ちょっと待て。まさか……。

 俺の脳裏には今もあのログハウスで寝ているだろう少女の顔が浮かんでいた。


「驚かないでくださいね? このクエストで捜索して欲しい人物とは……」


 頼む。違っていてくれ。

 しかしディジーさんは無情にもこう告げた。


「竜王です」


 心当たりがあり過ぎて困る。

 別の意味で驚いたわ……。


 しかしながら、この話を聞く前にあの少女が竜王を名乗ったというタイミングから見て、彼女が竜王である可能性が上がった。


 ……いや、待てよ?

 ………。

 これって俺が誘拐したことにならないだろうな?

 俺はコミュ障なので誤解を解ける自信は微塵もない……。

 あの女、ことごとく俺に面倒かけやがって……。


「……リクくん? もしかして心当たりがあるのですか?」


 さすがディジーさん。あっさりと見抜かれた。

 ……でもヤバい。


 俺は昔からこの手の誤解を受けまくってきた。そして一度誤解を受けるとコミュ障故にそれを解くことが出来ない。

 あの王城での一件がいい例だ。ああやって誤解を受けては覚えのない罪をなすりつけられてきた。


 だから俺は何も反応出来なかった。

 多分俺の顔は真っ青になっていることだろう。

 だが、そんな俺を見てディジーさんが苦笑いしていた。


「そんなに心配しないで下さい。わたしはリクくんが悪いことをするなんて全く思っていませんから。それに言ったでしょう? これは信用できる冒険者にしか話さない案件だって」


 ディジーさん……。

 心がほわっとした。

 ……そうだよな。他の誰がどうであれ、ディジーさんやマリーさんは意味もなく俺を責めたりしないよな。

 ……久々にマリーさんに会いたくなっちゃったな。


「……リクくん? 今、他の女のことを考えましたか?」


 だから怖いって!?

 たった今急上昇した株が一気に下落したよ!


「冗談です」


 ……全然冗談に聞こえなかった。

 むしろ何が冗談なのか訊きたい。


「それではリクくん、わたしに付いて来てくれますか? あなたに会わせたい人がいます」


 そう言ってディジーさんは俺をギルドの三階へと案内した。



 **************************************



 ディジーさんが案内してくれたのは応接室のような部屋だ。

 自然とその部屋のソファに座っている女性に目が行く。


 小奇麗な雰囲気の少女だった。

 薄い紫色の髪がトップでお団子にまとめられ、綺麗なうなじから二、三本の毛がぴょこんと出ているのが愛らしい。


 やや小柄だが、顔付きから見て十六、七くらいだろうか?

 俺よりも少しだけ年上っぽい。


 ただ、角とシッポが生えている。

 ここ最近見慣れてきたから間違いない。

 彼女は竜人族だ。


 しかし彼女には背中に羽も生えている。

 同じ竜族でも種類が違うのだろうか?


「ディジー様。そちらの男性は……?」


 そう言って俺の方をちらりと見てきた紫髪の少女にディジーさんが答える。


「彼はわたしの専属冒険者でリクくんって言います」


 初対面の人に対しリクくん……。そんなカジュアルな紹介でいいの?


「リク・クン様……?」


 紫髪の少女が首を傾げながら聞いてくる。

 ほらー、勘違いしちゃったじゃん!

 ……誰だよリク・クン。


「違います。リクが名前で『くん』は愛称みたいなものです」

「ああ、なるほど。リク様なのですね」


 ……グダグダな空気だった……。

 美女と美少女が俺の名前について語り合ってくれているのは嬉しいが、これって重要な案件のはずじゃなかったっけ?


 しかし、気付けば紫髪の少女の視線は俺の右手の籠手に注がれていた。


 いや……。


 この感じは籠手の裏側にある俺の手の甲に浮かんだ『竜の紋章』を見ている……?

 その証拠に彼女は驚いたように目を大きく見開かれていく。

 そして駆け寄って来ると、俺の両手を取って来た。


「ま、まさかあなた様は竜騎士さまですか!?」


 うおお、近い近い!?

 小奇麗な顔がアップになって照れてしまうが、それよりもディジーさんの笑顔が怖い!

 紫髪の少女はハッとすると、俺から離れて頭を下げてくる。


「これは失礼いたしました。わたくしは竜王様のお付きをしております飛竜のローシェと申します。どうかお見知りおきを」


 すごく丁寧な人だな。なんか久々に『普通の人』に出会えた感じだ。


「しかし竜騎士であるあなた様がいらっしゃったということは……」

「はい。どうやら彼……リクくんには竜王様の居場所に心当たりがあるようです」

「やはり! どうか竜王様の元に案内していただけないでしょうか!?」


 ローシェは再び俺に詰め寄って来る。

 その表情は真剣で、どうやらかなり切羽詰っているようだ。


「リクくん。今回のクエストはこのローシェさんの依頼なんです。彼女の身分はわたしが保証します。どうかローシェさんに協力してあげてくれませんか?」


 ディジーさんがそう言ってくる。


 ………。

 ……確かに悪い人ではなさそうだ。

 どちらかというと彼女からは本気で『竜王様』を心配している様子が伝わってくる。


 それにディジーさんがここまで言うのなら間違いないだろう。

 俺はディジーさんの人柄も仕事ぶりも信頼している。

 つまり断る理由などない。


 それにこれであの面倒な女――クルーエルとおさらば出来るはず。

 今のこの話の流れからすると、クルーエルは十中八九竜王だと思う。

 そうなればローシェは彼女を引き取っていってくれるに違いない。

 少し寂しい気もするが、俺にとっても彼女にとってもその方がいいだろう。


 そう思って俺は二人に向かって頷いた。



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