第五十三話『一蓮托生』
結局、竜王を名乗った少女は俺たちのねぐら(いつものあの場所)まで付いてきた。
道中、やれ「どこに行くのじゃ!?」とか「足が疲れた! おぶるがよい!」とかうるさいのなんの……。
ちなみに道端で寝転がって「おぶれおぶれおぶれーっ!」とじたばた暴れ出したので本当におぶってきた。
……やばいのに絡まれた。俺の意見は正直それだ。
見た目だけは綺麗な中身が壊滅的な少女に絡まれると、見捨てておけない分、物凄くタチが悪い……。
「飯はまだ出来ぬのかや?」
竜王少女の目は焚火の炎に炙られこんがりと焼けていく肉に釘づけになっていた。
……いいから涎を拭け。
それといくらなんでも油断し過ぎだろこの少女……。
普通知らない男に付いて行って飯を貰うことを恐ろしいこととは思わないのか?
常識がないのだろうか?
それともこの少女は本当に竜王で、俺が竜騎士だと分かった上で安心しきっているのか?
……いや、俺が竜騎士だと分かったところで初対面である事は変わらないのだが……。
ルゥに竜王について聞いてみたかったが、竜に乗っていない状態だと相変わらずルゥと意思疎通するのが難しかった。
チラチラと視線で「こいつ竜王?」と訊いているのだが、何故か俺と目が合う度に頬を染めている。うん、可愛いだけだわ。
「おい。お主、もしや儂がお主に気を許している理由が分からぬのか?」
その声に振り向くと、竜王少女がじっと俺を見ていた。
「……まさかお主、儂との繋がりに気付いておらぬのか?」
繋がり? なんだそれは?
しかし……。
おかしいことに、確かに不思議と他人の気がしない。
……あれ? もしかしてこの少女とはどこかで会ったことがあるのか?
………。
そうだ。絶対に会ったことがある。
でも最近じゃない。もっと昔にどこかで……。
……いや待て、それは有り得ないだろう。
そもそも文字通り住んでいる世界が違う。
地球にいた頃に出会っているはずがない。
だが、彼女の俺を見るあの目。絶対にどこかで見たことがある。
でもこっちの世界に来てからこんな綺麗な少女を見ていたら、さすがに覚えていないわけがない……。
混乱する俺に向かって彼女はさらに口を開く。
「お主が竜騎士になったのは必然なのじゃぞ? いいか、儂とお主は……」
と、竜王少女が言いかけたところで再びきゅるるると可愛らしい腹の音が鳴った。
「その前に飯じゃ!」
……せ、せっかく重要な話を聞けると思ったのに飯の方が優先順位高いのか。
しかし竜王少女は既に肉しか見ていなかった。マジなんだこいつ……。
……だが垂れ流しになっている涎を見ているとさすがに忍びなくなってくる……。
はぁ……仕方ない。取りあえず晩御飯にしよう。
ただ、この少女が急かしたせいで夕飯の買い物が出来なかったから、今日の夕飯は二日前にルゥと一緒に食べたブルポーンの肉だ。
しかし今回はブルポーンの焼肉オンザチーズに、近くに生えていたハーブを採取し刻んで振りかけてみた。
前回の状態のままでも十分に美味しかったが、ハーブを振りかけることによって風味をアップさせ、より美味しく感じられるようにした。
きらきらした視線を向けてくる竜王少女の目から逃れられるわけもなく、しょうがなく最初の肉を彼女に渡してやる。
すると渡すなり彼女は肉に齧り付いた。
……遠慮ねえな……。
「う、ウマい! ウマすぎる!」
一口齧るなりに彼女は叫び出した。
「最近宮殿ではやれ栄養が偏る、やれ規則正しい生活をしろだのと言われロクな物を食べさせてもらえなんだから、久々の肉がウマすぎる! いや、久々じゃなくても普通に美味いぞコレ!? そうか、肉にチーズを乗せるとこんなにウマいのかや! これは新発見じゃ! ウマい!」
……竜王少女はなんだかめちゃくちゃ感動しているようで、涙を流しながら肉にがっついていた。
「お付きのローシェや長老たちを騙して竜の谷から抜け出してきた甲斐があったというものじゃ!」
……なんか聞き捨てならないことを言い出したぞ。
まさかこいつ家出してきたんじゃないだろうな?
もし本当に竜王だったら世界レベルの大事のような気がするんだけど……。
……ていうか何度見てもこの少女は竜王に見えない。
口の周りに食べかすを付けまくっているコレが竜王だったら幻滅もいいところだ。
竜王はもっと威厳たっぷりなはずで、なんなら威圧感だけで小便を漏らすくらいのはずだ。
出会ってすぐにドン引きさせられるこんな女が竜王であるくらいなら、俺は喜んで小便を漏らす方を選ぶ。
……まあいいや。取りあえず俺とルゥも夕飯にしよう。
ルゥに肉を渡そうとすると、彼女は畏れ多いと言って最初は断りながらも、最後にはちゃんとお礼を言いながら受け取ってくれた。
……竜王、頼む。ルゥを見習え。
そんな俺の思いも露知らず、あっという間に食べ終わった竜王少女がおかわりを要求してくる。
食うの早過ぎ……。
仕方なく俺の分を渡してやると、彼女はまた遠慮なく齧り付いた。
ため息をついていると、それを見てルゥが自分の分の肉を俺に差しだしてくる。
……お願いだからルゥを見習おう?
信じられないことにその後、五人分をぺろりと間食した竜王少女は満足そうに腹を擦っていた。
「ウマかったー! 満足である! 褒めてつかわすぞ!?」
……それはようござんした。
その代りマジックポーチに入っていたブルポーンの肉は全部なくなっちゃったけどね。
だが幸せそうな顔で腹を擦っている竜王少女を見るとそれを言うのも憚られた。
「ふぁ……眠くなってきたぞ。そろそろ宿に案内するがよい」
竜王少女は唐突にそう言った。
え? 宿に案内?
いや、さすがにそれは無理だ。
「どうした? 早く案内せよ」
だから無理だって。
だって今まで散々宿に泊まろうとしてきて全て「気味が悪いねえ。冷やかしなら帰っとくれ」で終わっている。
次行っても「気味が悪いねえ。冷やかしなら帰っとくれ」だろう。
そう思った俺はここで野宿するんだぞという意味を込めて地面を指差した。
「え? ……ま、まさか、ここで寝るのかや……?」
俺は頷いた。
すると彼女はだだをこね始める。
「いやじゃいやじゃ! こんな固い地面で寝られるか! 柔らかい布団とあったかい毛布がないと無理じゃー!」
そうやって喚き散らしていた竜王少女だったが、一分もしない内に疲れて眠ってしまった。……マジでなんだこいつ。
仕方なく俺は二つしかない毛布の内の一つをかけてやるが、なぜ見も知らぬ女のためにここまでしてやらなければならないのか……。
……でも不思議と放っておけない。
彼女が女性だからこんなところに放置しておけないという理由もあるが、それ以上に他人の気がしないという理由の方が大きかった。
それが自分でも怖いくらいに不思議だ。
……彼女は一体何者なのだろう?
本人が言う通り彼女は竜王で、俺と何か特別なもので繋がっているとでも言うのか?
……それにしても、せっかくこれからルゥと二人で楽しくやっていこうとしていた時に余計なのが来たものだ。
取りあえずもう一つの毛布はルゥにあげるとするか。
しかし、
「ご主人様を差し置いて使えるはずがございません」
そう言ってルゥは頑として毛布を受け取らない。
いや、俺だって女の子を差し置いて自分だけ毛布にくるまって寝るわけにはいかないよ。
だから俺は無理矢理にでもルゥに毛布を渡そうとするが、ルゥの方も中々頑なで「どうかご主人様がお使いください」と土下座までしてくる。
「いやいやキミが」「いえいえご主人様が」とやっている内に、何故か最終的に二人で一つの毛布にくるまって寝ることになった。
役得でした。
俺は少しだけあの変な少女に感謝した。




