第五十一話『竜の力』
翌日、俺は再びルゥを連れて『風の迷宮』を訪れていた。
ここで嬉しいお知らせがある。
生物鑑定で再度調べた結果、ルゥの『竜化スキル』の無効化が解けたことが判明した(彼女が寝ている間に調べた)。
つまりルゥはこれで竜になれるはずである。
タイミングとしては俺と交わした『竜契約』の副産物だと思われるが、詳しい因果関係は不明だ。
そもそもルゥが竜化出来ない理由も分からないし、他の竜たちが同じく竜化出来ない状況に陥ることがあるのかどうかも知らない。
そこら辺に関してはルゥに直接聞いてみなければ判明しないのだが、もちろんコミュ障の俺は聞けない……。
しかし『竜化スキル』の無効化が解けたことは事実だ。これでもしかしたらルゥのレべリングが捗る可能性があるのだが、問題はそれをどうやって伝えるかだ。
多分ルゥは自分では気付いていない。もし気付いていたら「ご主人様……!」とか言って嬉しそうな顔で報告してくれると思う。
だから伝えてやらないかぎり竜になってくれないわけだが、俺は例の如くコミュ障をこじらせている最中だった。
実はさっきから「君はもう竜になれるよ~」と必死に目で訴えているのだが、ルゥは困惑して首を捻るばかりだ。
遂には俺の意図が見抜けないことを申しわけなく思ったのか段々とルゥの目が潤み始めた。
わあっ!? ごめんルゥ!
俺は目で訴えるのを諦めた。
次に俺は絵で伝えることにした。
女の子の絵と竜の絵を描くと、女の子は君だよという風にルゥを指差して、次にその指を竜の方に持っていく。
俺は引きこもりだけあって絵は上手い方なので(超偏見)、この絵が何か分からないということはないはず。
あとは俺の言いたいことが伝わればいいのだが……。
ルゥは俺の伝えようとしていることを理解しようとしてくれているのか、絵と自分の間を行ったり来たりする俺の指を一生懸命に目で追っていた。
そして何回も首を傾げてから、最後にその答えに辿り着いたのか、このように訊いてくる。
「あの……もしかして竜になれとおっしゃっているのでしょうか?」
ビンゴォ!
かなり長い時間がかかったが、それでも最終的に分かってくれればそれでいい。
そんなわけで俺は首を縦に振ったのだが、しかしその瞬間、ルゥの眉は申し訳なさそうに下がる。
「ご主人様。わたしは生まれつき竜になることが出来ません……。ごめんなさい。こ、こんなわたしなんかと『契約』を結ばせてしまって……」
そう言って辛そうな顔で泣き出すルゥに、俺は慌てて彼女の肩を掴んだ。
「できる」
その一言に、ルゥの目が見開く。
「え? いえ、そんなまさか……」
否定するルゥを、俺はじっと見つめる。
今なら俺の言いたいことが分かるはずだろ?
しかしルゥは何故だか頬を赤らめていた。
……あれ? 何も伝わっていない?
と思いきや、ルゥはこのように答えた。
「わ、分かりました。ご主人様のご期待に応えられるよう、頑張ります」
良かった。どうにか分かってくれたみたいだ。
ルゥは俺から距離を取ると、拳をぎゅっと握って掛け声を出す。
「えいっ。えいっ。竜になれー」
一生懸命竜になろうとしているルゥの姿に俺は悶えそうになる。
……か、可愛い。
全然竜になりそうにない掛け声だけど癒された……。
しかしそう思っていたのも束の間、ルゥに訪れた変化に俺は驚かされる。
風が頬を撫でたと思った次の瞬間、ルゥの角が赤いオーラに包まれ、それが体全体に広がっていくと辺りに暴風が吹き荒れた。
赤いオーラは徐々に増大していき、やがてルゥの体がその赤いオーラにひっぱられるようにして変わっていく。
そして数瞬後にその場にいたのは一匹の赤い竜だった。
羽はなく、地面を四本足で歩くタイプの竜だ。
ルゥが竜になったのだ!
しかし竜って恐ろしくも格好良いイメージがあったのだが、目の前にいる竜は目がパッチリしていて何だか可愛い。
ルゥらしい竜だと思った。
「ぐるぅ」
……泣き声まで可愛かった。
『ご主人様できました! わ、わたし、竜になれました!』
目の前の赤い竜は人の言葉で語り掛けてきた。
少し声がくぐもっているが、それは紛れもなくルゥの声だ。
『まさかわたしが竜になれる日がくるなんて……全部ご主人様のおかげです!』
そう言って目の前の赤い竜は涙を流した。
……竜になっても泣き虫は変わらないみたいだな。
『ご主人様、わたしに乗ってください』
なんかセリフがエロい……。
ていうかこの子まだ十二歳なのにちょくちょくエロいのは何故だ?
まあ今はいいや。俺だってルゥに乗ってみたい(もちろん竜に乗りたいという意味で)。
ルゥの竜形態は想像していたよりも小さい。
小さめの軽自動車くらいの大きさだ。もしくはトリケラトプスの子供くらいと言ったところか。
それはルゥがまだ幼いからかもしれないが、そのおかげで乗りやすそうだ。
俺が乗りやすいようにルゥが屈んでくれたので、簡単に彼女の背に跨ることが出来た。
おお……なんか感動だ。
俺は今、竜形態のルゥの上に乗っている。
するとルゥが立ち上がろうとしているのが分かった。
そしてその通りルゥは立ち上がる。
さらにはルゥが俺を乗せて喜んでいることも分かる。
あれ……? なんかルゥの考えていることが読み取れる?
『ご主人様……わたしもご主人様の考えていることが分かります!』
ルゥが珍しく興奮していた。
どうやら彼女の方も俺と同じ状態らしい。
……もしかしてこれは『騎乗スキル』の効果か? (ちなみにルゥと竜契約したことで俺の『騎乗スキル』も解放されていた)
そう思って『生物鑑定スキル』で調べてみると間違いなさそうだった。
さらには前に螢条院が言っていた通り俺のステータスが全て二倍になっている。
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如月リク 15歳 人間族 男 レベル9
職業:竜騎士(伝説職)
筋力:242×2=484
魔力:202×2=404
体力:226×2=452
防御:216×2=432
敏捷:260×2=520
魔耐:203×2=406
成長率:18×2=36
ジョブスキル:片手剣レベル8・槍レベル6・盾レベル7・竜契約・騎乗
個人スキル:言語理解・気配遮断レベル8・気配察知レベル6・聞き耳レベル8・遁走レベル5・生物鑑定レベル6・対物鑑定レベル2・話術レベルマイナス9
ユニークスキル:効率厨(無効)・独りを極めし者・孤独の証(無効)・超感覚(無効)
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ルゥと一緒にいるせいかユニークスキルの『独りを極めし者』のステータス1.5倍の効果はなくなってしまっているが、『騎乗スキル』の2倍の効果だけでも十分大きい。
しかもウインドウィーゼル狩りや地下十階ボスのリザードニードルを倒したおかげでレベルが9まで上がっている。
他にも色々と変わっている点はあるが、今はとにかくルゥのステータスも見てみたい。
俺は竜形態のルゥに向かって『生物鑑定スキル』を発動させた。
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名前なし 12歳 竜人族 女 レベル1
職業:火竜(上級職)
筋力:303
魔力:298
体力:297
防御:295
敏捷:300
魔耐:289
成長率:人形態5
:竜形態39
ジョブスキル:竜化・炎のブレス レベル7・ドラゴンクロウ レベル3(無効)・ドラゴンパワー レベル1
個人スキル:色仕掛けレベル1
ユニークスキル:孤独の証(無効)・刹那の衝動
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うお、一気に強くなったな!
やはり竜形態は竜だけあってステータスがバカ高い。
何故か『色仕掛け』なるスキルが増えているがそこは気にしないでおこう。
……しかしこれならレべリングも問題ないのではないか?
もしかしたら俺が一人の時にやっていた狩りと同じくらいの効率を叩き出せる可能性すらある。
なんにせよ、すぐに試してみたくなるのは『効率厨』である俺の悪い癖だが、その欲求を抑えられそうになかった。
そんなわけで早速モンスターを探しに行こう。
『はい、ご主人様』
俺は何も言っていないのに、俺の思考を読み取ったルゥが返事をした。
……いいな、これ。
今まで苦労してきたことが嘘みたいに俺の考えが伝わるんだけど……。
その逆も然り。
通路を抜けて一つ目の部屋に出た時、そこにはスライムが三体ほどいたのだが、それを見つけた瞬間にルゥが怖がっていることが手に取るように分かった。
しかし今のルゥのステータスなら全く問題ないはずだ。
だから二人で倒しに行こう。
今この時からルゥは生まれ変わるんだ。
『はい、ご主人様。少し怖いですけど、わたしはご主人様を信じます。ご命令を』
俺は頷くと、ルゥをスライムたちに向けて突っ込ませた。
スライムたちもこちらに気付くが、もう遅い。
まず一匹目をルゥの爪――『ドラゴンクロウ』で切り裂かせ、通り過ぎ際に俺は青銅の剣でもう一匹を斬り付ける。それで二匹が塵となった。
最後の一匹は遠心力の乗ったルゥのシッポで弾き飛ばさせ、そのスライムは壁に当たって消滅した。
瞬殺だった。
『え……ウソ? もう終わり……?』
茫然と呟くルゥ。どうやら自分のやったことが信じられないらしい。
しかし俺からしてみても思った以上の結果だった。
正直言って物足りなさすぎる。相手が弱すぎて俺たち二人の力を測ることすら出来なかった。
地下1階はもう意味が無いかもしれない。
取りあえず地下3階のスカルナイトを狩りに行ってみるか。
『ふえっ!? いきなり地下3階!? むむ、無理です……』
いや、むしろ余裕だから。
本当は地下6階まで降りたいところをグッと我慢しての地下3階だから。
というわけでレッツゴー。
『うう……ご、ご命令とあれば……』
俺よりも大きな体を縮ませるようにして返事をするルゥ。
どうやら竜になっても気弱な部分は変わっていないようだった。
まずは自分の力をもっと知ってもらおう。
そうすればいずれそう遠くない内に自分に自信を持ってくれるはずだ。
そしてきっといつか、もっと笑顔を見せてくれるようになるだろう。
そう思っていると、
『……今ならご主人様がどのようなことを考えてくれていたのか、手に取るように分かります』
そう言ってルゥはまた泣いた。
……本当に泣き虫だな。まあそれも徐々に直していけばいいか。
俺はルゥの背に揺られながらそんなことを思っていた。
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地下3階のスカルナイト狩り。
結論から言うと楽勝だった。
結局のところ先程のスライム戦とあまり変わるところはなく、ルゥがドラゴンクロウで敵を切り裂き炎のブレスで敵を焼き払い、例えそれを逃れたところで俺の剣が敵を斬る。
人馬一体ならぬ『人竜一体』とはまさにこのことで、俺たちにまったく隙はなかった。
ルゥのレベルはなんと今日一日でレベル3まで上がった。
しかもレベルの上がる早さから見て、もしかしたらモンスターを倒した経験値は二等分ではなく、俺たち二人それぞれに丸々経験値が入っている可能性がある。
竜騎士は竜に乗った状態では竜と合わせて一人と認識されているような気がする。
竜騎士やばくない? 伝説職と言われるだけあるわー。
いずれにせよ、これなら明日には地下6階に行けるだろう。
俺は満足感に包まれながら、ルゥを連れてダンジョンを出た。
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運が良いことに、今日スカルナイトから『骨滅のカード』がドロップした。
おかげでギルドに立ち寄って金貨15枚と換金できた。
ルゥを買ったせいで俺の財布の中身はほぼ底を尽きかけていたのでこれは有難かった。
これで強面店主から借りている青銅の剣を返却した上で、キルソードよりももっと良い装備が買える。
出来れば竜に変身したルゥ用に爪の装備も特注で作らせたいところだけど(竜用の装備など売っていないので)……さすがにそれは高そうだなぁ。それにその場合まずは鍛冶師を探さなきゃいけないし、コミュ障の俺にとって人材探しは難易度が高いんだよね……。
でも、ワクワクする。
俺とルゥはまだまだ強くなれる。
ルゥという相棒を得たことは想像以上の付加価値があった。
道なりはまだ遠いけど、これでまた最強に一歩近づいた。
……よし。お金の目途もついたことだし今日の夕飯はちょっと良い物を食べよう。
そう思って中央通りの夕市を見て周ろうとしていた時だった。
一人の少女が俺の道を遮るようにして立ちはだかる。
道は夕市で混雑していたので、俺は最初たまたまぶつかりそうになっただけだと思ったのだが、迂回しようとして右にずれるとその少女も同じ方向にずれてくる。
訝しく思いながらもだったら左に行こうとしたら再び道を遮られた。
な、なんなのこの人……?
そう思いながらその少女の顔を見てみると、整った眉を吊り上げてその表情はどう見ても怒っていた。
目の前の美しい少女に見覚えはなかったが、間違いなく彼女は俺を睨んでいる。
そして言ってくる。
「ようやく見つけたぞ、バカ竜騎士が」
………!
その声には聞き覚えがあった。
確か、いつぞや夢に出てきた……。
「我こそが竜王クルーエルである。貴様……覚悟は出来ておろうな?」
………。
竜王が来ちゃった。
しかも何だかめちゃくちゃ怒っていた。
第二章 奴隷竜の少女編 完
読んで下さりありがとうございます。
10月31日(水曜日)の19時から新作を連載いたします。
よかったらそちらも見てやってください。
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