第四十二話『救出。その後』
なんとか上手くいったか。
手元に収まる少女の温もりを感じながら俺はそう思った。
コミュ障をこじらせて正面玄関を開くことが出来ず窓から侵入してしまったが、結果的に正解だった。
まさかあんな展開になっているとは……もう少しでこの子の心に深い傷を残すところだった。
寸前で助け出せて本当に良かった。
奴隷竜の少女は俺の腕の中でぼろぼろと泣いていた。
それはそうだろう。あんな怖い目にあったんだもんな。
いっそのことラザロスの奴をあのままぶっ刺してやればよかったかな? 俺も色々と恨みが晴れるし?
……いや、そうするとまた別の意味でこの子にトラウマを与えていただろうしこれで良かったと思おう。
俺は路地裏に着地すると、彼女を地面に下ろす。
うわっ、よく見たらこの子、丸見えじゃないか。
俺は先程防具屋で買ったマントを彼女に着せてあげた。
ふうっ、これでなんとか大丈夫。
とにもかくにも、これでミッションコンプリートだ。
当面の目標だった奴隷竜の少女をラザロスから買い取ることは今ここに達成された。
達成されたのだが……これからどうしよう?
………。
ぶっちゃけると彼女を助け出した後のことは何も考えていなかった……。
あらためて奴隷竜の少女を見てみる。
燃えるような赤い髪をしているのに、中身は物凄く大人しい。
ちぐはぐな印象を受ける少女だった。
頭から生えるツノや臀部から伸びるシッポを見て、あらためて彼女が人間ではないことを認識させられる。
でも、見た目は可愛い女の子なんだよな……。
正直どう扱ったらいいのか分からないが、人間の女の子と同じ感覚で対応すればいいのかな?
……いや、待て。そもそも俺は人間の女の子への対応の仕方を知らないんだけど。
なんてことだ。詰んでやがる。
目の前の少女への対応がリザードニードルとの戦いよりも難しいことに今気付いた。
ちなみに彼女の方も何も言ってこない。涙の残る顔でじっと俺のことを見てくるだけだ。
……あれ? これはもしかして俺が何か言うのを待っているのですか?
おいおい、無理だよ。何せさっき三年分くらい喋ったばかりだ。これ以上喉を酷使したら声帯が潰れる可能性すらある。
……おや? 彼女の瞳が段々と曇っていっていないか?
あ、きっと俺が何も喋らないから不安になっているんだ。
うっ……マジでどうしよう?
俺はこれまでずっと一人でやってきたから、他人と一緒に行動する時に何をすればいいのか全く分からない。
特に今のように他人の行動権が俺の手にあるなんて状況は核弾頭を扱うくらいに苦慮する事態だ。
そう言えば時間帯的に辺りは徐々に暗くなっていっている。
女の子をこんな時間に外に出しておくのはまずいので、取りあえず宿屋にでも向かおうか?
そう思って通りの方に向かって歩き出すと、あの子は俺の後ろを黙って付いてくる。
まるで子犬みたいで可愛かった。
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その後すぐに宿屋に着いたのだが、受付のおばさんに一言も喋れない俺がいた。
もしかしたら奴隷竜の少女が何とかしてくれないかなと期待したけどダメだった。俺と一緒に黙っているだけだったので、また例の如く「気味が悪いねえ。冷やかしなら帰っておくれ」って言われただけだった。
結局耐え切れなくなって宿屋を出た。
………。
うん、どうしよう?
まさか貧民街の路地裏でこの子を寝かせるわけにもいかないし、マジでどうしたらいいんだ?
あ、そうだ。一度街を出てどこか平原の木の下で寝るのはどうだろう?
そこなら人通りもないだろうし、この子を人目に晒さなくても済む。
モンスターが出たとしても、この辺りは風の迷宮の地下1階レベルのモンスターしかいないみたいだし、そのくらいならなんとでもなるだろう。
実際五日に渡り地下6階に潜っていた時なんかは、仮眠を取っている時にモンスターが近付いて来ても『聞き耳スキル』と『気配察知スキル』で目を覚まして先制攻撃すら出来たからな。
その時に気付いたのだが、俺は人よりもモンスターを相手にする方が気楽ですわ。
そんなわけで街の外で寝ることに決めました。




