表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/83

第三十八話『ギルドの鉄則。奴隷の無力』

 ボスは倒したものの、腹の傷が思ったよりも酷い……。

 俺は朦朧とする意識と共に地面に倒れそうになる。


「竜騎士さま!」


 奴隷竜の少女が駆け寄ってきて俺を支えてくれた。

 こんなに他人に接近されたのは王城でエリアンテ王女に誑かされそうになった時以来だったが、この子なら触れられても別に嫌な気分にならなかった。


「回復ポーションです。飲んでください」


 俺の手に力が入らないことを見て取ったのか、奴隷竜の少女が直接回復ポーションを飲ませてくれる。


「お願いです……飲み込んでください」


 意識が途絶える寸前の俺の視界に、涙目の彼女の顔が見えた。

 ……この子はいつも悲しそうな顔をしているな。

 俺は言われるまま口の中に流れ込んでくる回復ポーションを嚥下した。

 すると、間もなく体中の傷が癒えていく感覚に包まれ、時を同じくして意識も覚醒していく。

 その俺の様子を見て奴隷竜の少女の顔がホッとしたものになった。


「よかった……よかった……」


 ……眉は八の字に下がっているし涙も残ってはいるが、初めて彼女が笑っている顔を見たかもしれない。

 陳腐な言葉かもしれないが、この子は笑っていた方が可愛いと思う。


 だからこそ考えてしまうのだが、自分よりも体格の小さい女の子に寄りかかっている今の状況はいかがなものだろうか?

 気恥ずかしいったらない。

 しかも俺の意図するところが分からないのか、目の前で不思議そうにこてんと首を傾げているところもまたツボにはまる。まだ涙が目尻に残っているところもグッド。


 ……いかん。これ以上は変な気分になりそうだ。

 まだ腹に針が刺さっているので、これを抜くためにも取りあえず離れよう。

 俺は立ち上がると針を引っこ抜いたが、その途端そこから血がドバッと流れ出る。


「りゅ、竜騎士さま!?」


 ……俺はアホか? そりゃこうなるに決まっている。

 出血多量で再び混濁していく意識の中、奴隷竜の少女がまた俺を支えて回復ポーションを飲ませてくれる。

 お世話になります。

 ……うん、もういいや。しばらく彼女にされるがまま横になっていよう。


 だけど傷が塞がり意識がはっきりしてくるにつれ、俺は再度年下の女の子に抱かれているだけの状態になっていた。

 さすが竜人、牙が長いなぁ、とか思っている場合じゃない。女の子の口の中を覗くとか変態ですか俺は?

 何となく離れるタイミングを逸していると、場には奇妙な沈黙が下りていた。


 ……あれ? もしかしてここは俺が何か喋らなければいけないパターン?

 そう言えばさっきから俺は一言も喋っていないな。

「危ないところだったね」とか「怪我はないかい?」とか気の利いたことを言った方がいいのかもしれないが、いかんせんコミュ障なのでそれが出来ない。

 結果、図体のでかい男が小さな女の子に抱かれたままむっつり黙っているという、傍から見たら通報レベルの状況が出来上がっていた。


 ちなみに彼女の方は何か聞きたそうな顔をしているが、自分ばかり喋っているのを躊躇ったのか何も言ってこない。

 いや、全然気にしなくて聞いてくれていいのに。受け答えが出来るかどうかはまた別だけど。


 しかしそこで何者かがこの部屋にやってくる気配を感じ取って、俺は彼女から離れることにした。その何者かが誰か俺には分かったからだ。

 そしてやって来た人物を見て奴隷竜の少女の顔がいつもの暗い表情になる。

 その人物とはラザロスだった。


「おいおい、こりゃどういうことだ? どうしてボスが倒されてやがる?」


 ラザロスは怪訝な顔でこの部屋の様子を眺めながらそう言った。

 後から彼の仲間たちもやってきて同じように部屋の中を眺めては口々に疑問を述べていた。

 そんな中、ラザロスが奴隷竜の少女をぎろりと睨みつけて訊いてくる。


「奴隷のお前が死んだらこの『奴隷の腕輪』が砕けるはずだ。それが中々砕けないからおかしいと思って戻ってきたが、マジでどうなってんだこれは? おい、グズ。なんでお前が生きてやがる?」


 戻って来るなり、いきなりクソみたいな言い方だった。

 ……こいつは一体この子を何だと思っているんだ?


「チッ、まあいい。俺としては俺の所有物である奴隷のお前が死ななくてラッキーだったってところか。お前みたいな奴でも金にはなるからな」


 ……どういう思考回路をしていたらそんな酷いセリフが出て来るんだよ?

 本当にクソかこいつ?

 しかし彼女の側に空の回復ポーションの容器が落ちているのを見ると、ラザロスの顔が憤怒に染まる。


「てめえ、俺の回復ポーションを勝手に使いやがったな!? ……いや、状況から見てそっちのボロボロの新人に回復ポーションをやった感じか。てめえら一体それがいくらすると思ってんだ!? 銀貨一枚もすんだぞ!」


 こいつ戻って来るなり金のことしか考えられないのかよ?

 ただ、怒りの矛先が俺に向いたことから、奴隷竜の少女が間を遮るようにしてラザロスに訴える。


「あ、あの……この方がわたしのことを守ってくれて……」

「ああ? そいつが?」


 ラザロスの視線が俺を捉えた。

 まじまじと見つめてきてから、ようやく合点のいったように言ってくる。


「なるほど、そういうことだったか。ははっ、そいつはありがとよ。わざわざ俺の所有物を守ってくれて」


 ……何だその言い草は?

 それに『所有物』ってなんだ?

 というか平気でこの子を捨石にしておいて、よく平然とこの場にいられるな。

 俺が憮然としている前で、女盗賊の人がラザロスに耳打ちする。


(ねえ、ラザロス。やばくないかい? あたしたちが地下10階ボスから逃げ出すのをこのボウヤに見られちまったじゃないのさ)

(なあに、問題ないさ。こんなド新人の戯言なんて誰が信じるってんだよ?)

(……それもそうか。でもだったら何でそんな新人がこんなところにいるのさ?)

(そんなこと俺が知るかよ。モンスターから逃げてるうちに迷ってここまで辿り着いてしまったとか、大方そんなところだろ)

(ああ、納得)


 聞き耳スキルは本当に優秀だな。内緒話も丸聞こえだった。

 それになんか勝手に納得されているけど、わざわざ訂正する意味はないか。勘違いしてくれているならそれに越したことはない。

 まあ訂正するコミュ力はありませんけどね!


 と、そこで辺りを調べていた格闘家の男性がある物を見つけて叫ぶ。


「おい、こりゃあ『リザードニードル』のドロップアイテムだぜ!」


 その歓喜の言葉にラザロスたち『赤き疾風』のメンバーは一斉にそちらへと駆け寄っていく。


「そりゃマジかよ!?」

「ああ、これは間違いないね。『針の鱗』に『緑の魔石』……それに激レアドロップの『リザードニードルの魔槍』まであるよ!?」

「やったじゃねえか! ついてるぜ俺たちゃ!」


 ラザロスたちは興奮したようにリザードニードルのドロップアイテムを拾い集めていた。

 あの……それ、俺が倒した奴のなんだけど……。

 こういう時コミュ障は何も言えずただ萎縮するだけだ。このパターンでこれまでどれだけ損をしてきたか分からない。

 そして今回もそうなりそうだ、と諦めかけた時だった。

 はしゃいでいるラザロスたちに奴隷竜の少女がおずおずと近付いて行く。


「あ、あのご主人様。その品々はこちらの方の……」

「お前は黙ってろ!」


 奴隷竜の少女は俺のために物申そうとしてくれたのだろうが、しかしラザロスは彼女の頬を殴り付けて無理矢理黙らせた。

 それも平手じゃない、グーでだ。

 奴隷竜の少女は口から血を流し、地面に倒れた。


 その光景を見た時、俺の中で何かが切れる音がする。

 俺は立ち上がりラザロスを睨みつけるが、しかし俺の様子に気付いたのか、ラザロスが機先を制して言ってくる。


「なんだお前? やんのか? 言っておくが冒険者同士のいざこざは重大なご法度だぜ? まあ、やられた方は正当防衛が認められているがな」


 それは暗にこの場合は俺の方が悪くなると言っているようだった。

 そんなもの別に構うものか。

 俺は武器を探すが、リザードニードルの針は腹から抜くと同時に消えてしまったので、仕方なく折れたキルソードを拾うしかなかった。

 その様子にラザロスたちの雰囲気が剣呑としたものになる。


「ねえ、このボウヤやる気みたいだよ?」

「チッ、生意気なガキだな」

「身の程を思い知らせてやればいいんじゃねえか?」

「ああ。もし間違って死んでも誰も文句は言わねえだろ」


 俺とラザロスたちは一触即発の状態になる。

 さすがに折れたキルソードでどこまでやれるかは分からないが、それでもあの少女を殴ったことだけは後悔させてやる。

 俺が珍しく我を忘れていると、しかし、俺を止めたのは他でもない奴隷竜の少女だった。

 彼女は俺の前に立つと必死に訴えてくる。


「ダメです! それはダメです! ごめんなさい! ごめんなさい! わたしなんかのために、ごめんなさい……!」


 口の端から血を流し、目に涙を浮かべて、奴隷竜の少女はキルソードを持つ方の俺の腕を抑えてくる。

 その震える手から彼女の無念さがこれでもかと言うくらいに伝わってきた。

 俺はやり場のない怒りを感じながらも剣を収めるしかなかった。

 するとラザロスがつまらなさそうに鼻を鳴らす。


「ふんっ、つまんねえ寸劇見せてんじゃねえよ。どうせボスのドロップアイテムが欲しかっただけだろうが? だがお前みたいな新人があのボスを倒せるわけがないからな。何かの偶然で勝手に死んだだけだろ?」


 ラザロスがそう言うと、彼の仲間が口々に俺に向かって言ってくる。


「大体元々は俺たちが戦ってたんだ。そのおかげでボスが弱ってたんだろうぜ」

「だからこのボスのドロップアイテムは貰ってくぜ」

「ごめんねぇ? でも早い者がちだよ」


 なんて勝手な理屈だ……!

 俺は再度怒りに心を支配されそうになるがグッと堪える。

 奴隷竜の少女の想いを無駄にするのだけは嫌だったからだ。


 俺が黙ったのを見ると、ラザロスが満足したようにボスのドロップアイテムを見せびらかしてくる。

 うおおっ、こいつは人の神経を逆なでする天才だな!

 特にあの『リザードニードルの魔槍』とかいうやつめっちゃ欲しかったよ!?

 だが、ラザロスはニヤニヤ顔のまま背を向けると言うのだった。


「じゃあなガキ。これが持つ者と持たざる者の差だよ。あ、俺の奴隷ちゃんを守ってくれたことだけはもう一度礼を言っておいてやるぜ? ありがとうございましたー、なんてな。ギャハハッ!」


 なんでこんな奴に仲間がいるのに俺に仲間がいないのか不思議になるくらいイヤな奴だな!?

 だが仲間たちが同じようなニヤニヤ顔を浮かべているところを見ると類友かな?

 ……うん、もうどうでもいいや。


 やがてラザロスたちはホクホク顔で去って行ったが、奴隷竜の少女だけは最後まで振り返って沈痛な顔で頭を下げていた。

 でも、その瞳は泣いていた。


 それを見た時に俺はある決意をする。

 ……もうラザロスがAランクだとか関係ないな。

 俺はあの子を買う。

 無理矢理にでも、だ。


 俺はダンジョンの出口に向かいながら、奴隷竜の少女の救出方法を考え始めていた。




番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」を短編でアップしました。

話は少し過去に戻り、リクが王都にいる時に催された晩餐会での話になります。


割とあっさり読めるのでよろしければ是非ご覧ください。

下にあるリンクから番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」に飛ぶことが出来ます

(上記の作者名「上杉マリア」をクリックしていただいて「作品一覧」からでも行けます)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
☆小説家になろう勝手にランキング☆

☆こちらのリンクをクリックしていただくと番外編『コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-』に飛べます☆

↓この下の部分から評価などしていただけると今後の励みになりとても嬉しいです!(評価出来る場所は最新話にしかありません)↓
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ