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第三十七話『地下10階。如月リクのボス戦』

 本来なら扉から離れた場所で隠れているつもりだった。

 しかし嫌な予感に駆られた俺はドアのすぐ側で待機していた。

 すると唐突にドアは開く。


 ラザロスがボスを倒したのかと思い急いでドアから離れようとしたが、しかし違った。

 ドアが開いた瞬間、我先にとラザロスたち『赤き疾風』のメンバーたちが飛び出してきたのだ。

 まるで逃げ出すようにして。


 ……逃げ出すようにしてだって?

 Aランクのラザロスが『逃げる』とはどういうことだ?

 ラザロスは俺の姿に気付くと、一瞬だけ足を止めた。

『なんでこんなところにお前がいる?』

 その顔はそう物語っていたが、しかしすぐに我に返ると俺の前を駆け抜けて行く。


 俺は訝しく思いボス部屋の中を確認すると、そこにはあの奴隷竜の少女だけが残されていた。

 少女の目の前には全身針だらけのトカゲ――部屋のボス『リザードニードル』が佇んでいる。


 その異様な光景に俺は固唾を飲んだ。


 ――どうしてあの子は逃げないんだ?

 ……いや、あの子は今も泣きながら必死に逃げようとしている。

「ご主人様」と叫んで助けを求めている。


 しかし、その度に首輪が光りあの子の足をあの場に縫い付けているようだった。

 その様子を見て俺は気付く。

 ……まさかあの子は逃げたくても逃げられないのか!?

 俺はラザロスがしたであろう鬼畜の所業に、全身の血が沸騰する思いだった。


 あのクソ野郎が!!


 内心でラザロスを罵ると同時に、俺はその場を飛び出した。

 一気にリザードニードルまで詰め寄ると、今にも少女を飲み込もうとしていたその大きな口にキルソードを突き刺す。


 ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 確かな手ごたえが剣から伝わって来た。

 リザードニードルは耳を劈くほどの絶叫と共に身を捩る。

 別の人間が突っ込んでくるとは思わなかったのか、どうやら運良くリザードニードルに大きなダメージを入れることが出来たようだ。


「りゅ……りゅうきしさま……?」


 後ろを振り向くと奴隷竜の少女は涙の残る顔でぽかんと俺を見ていた。

 それはどうして俺がここにいるのか分かっていないような表情だが、事情を説明している暇はない(どの道説明することなんて出来ないけどね)。

 何故ならリザードニードルが怒りに燃える瞳を俺に向けているからだ。


 次の瞬間、リザードニードルは自身の体から針を打ち出してきた。

 凄まじい勢いで飛んでくる槍ほどの太さのある針――俺はとっさに剣で弾いたが、その一発が信じられないくらいに重かった。


 しかしリザードニードルはお構いなしに次々と針を射出してくる。

 俺の後ろにはあの子がいるので、俺は全ての針を剣で弾くしかなかった。

 いくつか弾き損ねて俺の手足が少し抉られたが、後ろにだけは絶対に通すわけにはいかない。


 このまま凌ぎ切れば飛ばせる針も無くなるだろう。

 そう思っていた矢先に、リザードニードルは針を飛ばすのをやめてシッポを振り回してくる。

 シッポにも針がびっしり付いている。あんなものを食らうわけにはいかない。


 俺はジャンプでシッポを躱し、そのまま間合いを詰めようと前進するが、しかしリザードニードルは今度は口から舌を出して振り回してくる。

 俺はとっさにしゃがんで舌を躱したが、その間にリザードニードルは巨体に見合わぬバックステップで俺から間合いを取った。

 しかも目を疑うことに、リザードニードルが先程針を飛ばした個所から、新しい針が生えてくるのが見える。


 ……そんなのアリかよ?


 俺が茫然としていると、リザードニードルは再び針を飛ばしてくる。

 しかも今度はさっきよりも多い。

 無数に飛んでくる針を俺は必死に弾くが、後に行きそうになる攻撃は自分の手足を犠牲にして防ぐしかなかった。


 しかしその攻撃もやがて終わりが来る。

 先程よりもたくさん針を飛ばしたリザードニードルは剥げて普通のトカゲみたいになっていた。


 ――もしチャンスがあるとしたら今しかない。


 俺はリザードニードルに向けてダッシュする。

 するとリザードニードルはまたシッポを振ってきたので、それをジャンプで避け、敢えてさっきと同じように舌攻撃を誘う。

 案の定大口を開けて舌で追撃をかけてきたところを、俺は避けずに舌を剣で突き刺した。

 強い力に剣が弾かれそうになるが、しかしその分キルソードはリザードニードルの舌に深々と突き刺さった。


 ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 再び響き渡るトカゲの絶叫。

 俺は剣を引き抜くと、そのままリザードニードルの口内をさらに斬り付ける。

 多分こいつを倒すには針を飛ばし終えて剥げたところを本体に攻撃するのがセオリーなのだろうが、あれだけ口をぱかぱか開けてくれるならこっちの方が効率いい。


 しかし俺の思惑が分かったのか口を開けてくれなくなったが、それならそれで本体を攻撃するのみだ。

 針が生えきってないところを俺は剣でずたずたに切り裂いていく。

 ただ、さすがボスというべきか、これだけ攻撃をしても中々倒れてくれない。


 そんな時だった。

 奴の目が奴隷竜の少女を捉えていることに気付いた。


 まずい……!

 リザードニードルは俺を無視して彼女に向かって針を飛ばした。

 俺はとっさにその軌道上に体を入れるが、距離が近すぎて剣で弾くことが出来ず、太い針が俺の腹に深く突き刺さった。


「竜騎士さま!」


 奴隷竜の少女の悲痛な叫びが響き渡るが、俺は痛みを無視してリザードニードルの鼻っ柱に剣を振り下ろす。

 リザードニードルの顔面の一部が切り裂かれるのと、俺の口から血が噴き出したのは同時だった。


 俺は腹に針が突き刺さったまま休むことなく追撃を繰り出すが、真横から凄まじいシッポの攻撃が襲いかかってくる。

 俺も奴も必死だった。

 しかし、ここでシッポを避ければ再び間合いを取られ不利になる。


 ――今度針を飛ばされたらアウトだ。


 そう確信した俺はシッポを切り飛ばすことにした。

 迫りくる太いシッポにタイミングを合わせ、剣で斬り付ける。

 ズバッと確かな手ごたえが響き、シッポが半ばから千切れ宙に舞った。

 だが、それと同時に――。


 パキンッ……。


 不吉な音が鳴り響き、キルソードが折れた。

 確かに脆い剣だとは思っていたが、まさかこんなところで……。


 俺はハッとする。

 リザードニードルの前足が上がっていた。

 ……まずい。あれを振り下ろされたらもうダメだ。


 徐々に迫ってくるリザードニードルの鋭い爪に、しかし俺にはどうすることも出来ない。

 ――せめてあの子だけでも助けたい。

 どうにか相打ちにもっていく方法はないか?

 そのようなことを考えた時だった。


 ――ゴウッと凄まじい炎が横手から襲い掛かり、リザードニードルを燃え上がらせる。


 俺は一瞬何が起きたのか分からず混乱したが、炎は俺を害することなくリザードニードルだけを燃やしていた。

 炎の発生源を振り向いて確認すると、その火炎を吐いているのはなんとあの奴隷竜の少女だった。


 ……あの子、こんな凄い炎を使えたのか?


 いや、その事実に驚いている暇はない。

 彼女が作ってくれたこの一瞬の隙を見逃すわけにはいかない。

 だけどキルソードは折れてしまった。他に攻撃方法はないか……?

 そんな俺の目に地面に刺さったリザードニードルの針が映る。


 そうだ……俺には槍スキルがあるじゃないか!


 俺はリザードニードルの針を抜き取って槍のように構えた。

 ……いける!

 俺は確信すると一気に加速し、炎に苦しんでいる奴の口内に針を突き刺す。


 ずぶりと針が肉を貫く手ごたえと共にリザードニードルは一層大きな絶叫を上げ、そこでようやく塵と化した。

 同時に奴隷竜の少女の炎も消え、後にはいくつかのドロップアイテムが落ちているだけだった。

 俺は長い息を吐いてその場に崩れ落ちる。

 地下10階のボスを倒したのだ。



番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」を短編でアップしました。

話は少し過去に戻り、リクが王都にいる時に催された晩餐会での話になります。


割とあっさり読めるのでよろしければ是非ご覧ください。

下にあるリンクから番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」に飛ぶことが出来ます

(上記の作者名「上杉マリア」をクリックしていただいて「作品一覧」からでも行けます)。


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