第三十六話『地下10階。ラザロスのボス戦』
【風の迷宮地下10階層・ボス部屋】
そう、本来Aランクならばさした問題のない相手のはずなのだが、しかしラザロスたちは地下10階のボスに苦戦していた。
ボスの名は『リザードニードル』。
針と体のどちらが本体か分からないくらい針が生えている巨大なトカゲである。
最初、ボスを倒して『英雄』になると意気込んでいた『赤き疾風』のメンバーだったが、いざ『リザードニードル』を前にして息を飲んだ。
想像していた以上に本体が針に埋もれている異形だったからだ。
これでは剣がリザードニードルの本体に届いたとしても、剣を振った方もダメージを免れないだろう。
そうしてまごついている内にリザードニードルの方から仕掛けてきた。
リザードニードルの攻撃方法は、自身の体に生えている針を飛ばしてくるといったものだったが、たまに爪やシッポを振ったりもしてくる。
しかしラザロスたちは飛んでくる針を凌ぐだけで精一杯で、時折他の攻撃を混ぜられると避けきれずにダメージを蓄積していった。
リザードニードルの針に肩を抉られた格闘家のオレストがたまらず叫ぶ。
「ぐっ……おい、ラザロス! 話がちげーぞ!? 地下10階ボスなんて楽勝だって言ってたじゃねえか!?」
「ゴンスはニードルを避けながら斬り付けるだけで倒したって言ってたんだ! それで楽勝だったって……」
「ふざけんな! 避けて斬るどころか避けるので精一杯じゃねえか! 大体あんな針まみれの奴にどうやって攻撃を届かせるんだよ!? 俺の拳じゃまず無理だぞ!?」
「そ、そんなこと俺に言われたってよ……くそっ、ゴンスの奴適当な法螺話を聞かせやがって!」
ラザロスには人のせいにすることしか出来なかった。
武勇伝とは自らの武を誇示するために誇張して語ることが多々ある。ラザロスは目先の利益に捕われるあまりそれを完全に失念していた。
ラザロスは魔法使いのカスターに顔を向けると彼に頼み込む。
「くっ……カスター! もうお前の魔法だけが頼りだ! 頼む!」
しかし、その無責任なセリフにカスターの顔が怒りに染まる。
「ふざけんな! こう針が飛んできたんじゃ詠唱もままならねえよ! ちゃんと俺を守れカス!」
「っんだ、その言い方!?」
「ケンカしている場合じゃないだろ!? 本当にどうするのさ!」
もはやパーティは混乱の極みにあった。
このままではいずれそう遠くない内に戦線は崩壊し、パーティは全滅する。
しかし、それが分かっていてもラザロスには「撤退」の二文字を叫べない理由があった。
ラザロスは有名人だ。
万が一こんな低層のボスから逃げているところなど見られでもしたら、その名は一気に地に落ちる。
その上『トレイン』などした日には、もうこの都市にはいられないだろう。
だが、そんなラザロスに向かってオレストが呼びかける。
「ラザロス! もう無理だ! 逃げるしかねえ!」
「し、しかし、『トレイン』なんかしたら……」
「そんなこと言ってる場合かよ!? 死んだらどうしようもねえだろうが! お前がどう言おうが、俺はもう降りるぜ!」
そう言うとオレストは我先にと扉の方へと逃げ出す。
一人でも抜ければもはや戦線の崩壊は避けられない。
それが分かったラザロスは下唇を噛み千切らんばかりの形相で叫ぶ。
「くそ……撤退だ!」
その一言で全員がリザードニードルから背を向けて走り出した。
しかしリザードニードルは追ってくる。
その速さはかなりのものだった。
「おい、追ってくるぞ!?」
「まずいよ! このままじゃすぐに追いつかれちまう!」
「俺はまだ死にたくねえ!」
パーティメンバーたちの絶叫にラザロスの心も乱れる。
ラザロスは最悪自分だけでも生き残れればいいと考えたが、しかし下手なことをすれば自分も死にかねない。
どうすれば……?
じわりと死の恐怖に包まれていくラザロスだったが、そんな彼の目に一人の少女が目に入る。
それは後方に待機していた奴隷竜の少女だった。
ラザロスはその一瞬で自分たちが生き残れる手段を見つける。
それは非情とも言える手段だった。
一方、奴隷竜の少女はラザロスたちが逃げ出すのを見て、自分も逃げなければいけないと考えた。
自分はラザロスたちの荷物を持っているので、それを失うわけにはいかないと思ったからだ。
そう判断して踵を返そうとした少女に、ラザロスは無情にもこう命令した。
「てめえはその場を動くな!」
その言葉を聞いた途端、少女の足はぴたりと止まる。
釘でも打たれたかのように、少女はその場から動けなくなった。
少女がいくら足を動かそうとしても足は床に張り付いたように動かない。
「なん……で……?」
その間にラザロスたちは少女の横を通り抜けていく。
「ご、ご主人さま……?」
少女はラザロスに救いを求める目を向けるが、ラザロスは既に少女のことなど見ていなかった。
少女は生贄にされたのだ。
番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」を短編でアップしました。
話は少し過去に戻り、リクが王都にいる時に催された晩餐会での話になります。
割とあっさり読めるのでよろしければ是非ご覧ください。
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(上記の作者名「上杉マリア」をクリックしていただいて「作品一覧」からでも行けます)。




