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第三十五話『分岐。竜の運命』

 ウインドウィーゼル三体との激闘から五日。

 俺は一度も街に戻ることなく地下ダンジョンに籠りっぱなしだった。


 ユニークスキル『独りを極めし者』のステータス上昇効果は凄まじく、あれからウインドウィーゼル狩りは一気に楽になった。

 タイミングさえ分かれば『かまいたち』を完全に避けられるようになったし、何よりウインドウィーゼルを一撃で倒せるようになったのが大きい。

 さらにレベルも7まで上がっており、今や地下6階は楽勝と言っても過言ではなかった。


 その上、『かまいたちのカード』が既に二枚ドロップしていた。

 多分俺は一万匹近くウインドウィーゼルを倒したと思うが、それにしたってドロップ率が良い。

 これで一気に金貨100枚分の買い取り額になった。

 あんなに遠いと思っていた金貨100枚をあっという間に達成したのだ。


 ……もしかして今の俺って相当凄いんじゃないか?


 実際ウインドウィーゼルを狩っている他のパーティを見ていたら、複数人で戦っているにも関わらず一戦あたりの時間がかなり長く、消耗も激しいようで簡単に連戦とはいかないパーティが多かった。

 その点俺は一確になってから早ければ一戦十秒くらいで終わるし、『かまいたち』さえ放たれなければ傷を負うことはまずない。

 しかも一人なので経験値総取りですぐレベルが上がり、さらに楽になっていく。


 出来るなら他のパーティのステータスを見て自分と比べてみたかったのだが、『生物鑑定スキル』を使ったことに気付かれて面倒なことになったらいやなのでやっていない。

 ……しかし王城で見た一般兵のステータス。

 あれを思い出すと、俺の今のステータスが一般の冒険者のステータスから飛び抜けていると言われても納得出来る。


========================================


イヴァン 18歳 人間族 男 レベル5

職業:ソルジャー(下級職)

筋力:35

魔力:0

体力:40

防御:41

敏捷:28

魔耐:3

成長率:4

ジョブスキル:槍レベル1

個人スキル:なし

ユニークスキル:なし


========================================


 あの時確か女王は言っていた。

「これがこの世界における一般的な戦闘職の平均値」だと。

 往時は俺たち『転移者』をヨイショするために大げさに言っていたのかと思ったが、あのセリフはあながち間違いではなかったのかも知れない。

 だとしたら、俺たち転移者にこの世界を救ってくれと頼んで来たのにも頷ける。


 しかも俺には他の『ユニークスキル』や『竜契約』の件も残っているので、まだまだ強くなれる要素はあった。

 ただ女王が「一般」とわざわざ言ったからには、「一般じゃない人」もいるのだろうけど。

 マリーさんなどは今思い出しても遥か高みにいたと思うし……。

 多分この世界は(才能と呼ばれる)成長率によって個人の強さに大分差が出るような気がする。


 本当はもう少しダンジョンに籠ってレベルアップに勤しみたいところだったが、取りあえず食料が残り乏しいし、回復ポーションも全て使い切ってしまった。

 そろそろ一旦街に帰ることにしよう。


 そう思って帰りのルートを進み始めた俺だったが、地下5階に降りようと思った時に、通路の向こうから他のパーティがやってくる気配を感じた。

 階をまたぐ正解ルートを通っていると、たまにこういうことがある。

 もちろん俺は他のパーティと関わりたくないので、違う通路に身を隠してやり過ごすことにした。


 しかし、やがてやってきたパーティを見て俺は眉を顰める。

 それはAランクハンター・ラザロスが率いる『赤き疾風』の面子だったからだ。

 あの奴隷竜の少女もいる。

 彼らは俺に気付くことなく正解ルートの方を進んでいく。

 Aランクのラザロスがリーダーのパーティなのでこんな低層に用はないだろう。彼らは恐らくもっと下の階に行くに違いない。


 ラザロス……。

 俺は一瞬、金貨百枚分の価値がある『かまいたちのカード』を提示して、今ここであの奴隷竜の少女を買い取れないかと考えた。

 ………。

 しかし、だ。確かに俺は奴隷竜の少女を買えるだけの金額は手に入れたが、奴があっさりと俺の提案に応じるだろうか?


 ラザロスは俺のことを目の仇にしていた。

 最悪、カードだけ取られるなんてことも有り得る。

 ……やはり、念のためにあいつの無茶振りを防げるくらいには強くなっておきたい。

 Aランクということは、あいつもきっと「一般」ではないのだろうから。

 今はまだ奴と対面するには早い……。


 そう自分に言い聞かせて街に帰ろうとした俺だったが、ふと、奴隷竜の少女の背中を見て猛烈に嫌な予感に駆られる。

 これは五日前に感じたものと同種のものだ。

 俺の右手の紋章が何かを訴えてくるように疼いていた。


 ――ここであの少女を見放してはいけない気がする。


 ……ラザロスたちを追えっていうのか?

 あいつらは俺より格上なんだぞ?

 それに彼らはどれだけ下の階まで行くのかも分からない。

 正直付いていくことすら出来るかどうか……。

 ………。

 でも……。


 ――見逃してはいけない。


 俺はラザロスたちの後ろを付け始めていた。



 **************************************



 その後、地下7階、地下8階、地下9階と順調に進んでいくラザロスたち。

 ずっと彼らの後ろを尾行している俺だったが、『気配遮断スキル』を全開にしているおかげか今のところ見つからずに済んでいる。


 ただ、俺は彼らに段々と違和感を覚え始めていた。

 後ろからこっそり彼らの戦いを眺めていたのだが、Aランクという割にはラザロスの動きがそんなに大したことがないように見えた。

 他のメンバーにしてもそうだ。『赤き疾風』なんて大層な名前を冠している割には、どこが疾風なんだと言いたくなるくらい動きが緩慢だった。

 それと、どうやらウインドウィーゼルは地下6階にしてはかなり強い方のモンスターだったようで、地下10階に至るまでずっと出現しているのだが、そのウインドウィーゼルを狩ることにしたって彼ら四人より俺一人の方が早いくらいだ。


 俺は首を傾げるしかなかったのだが、そんな折、地下10階をある程度進んだところで変化が訪れる。

 大きな扉が見えてきた。


 扉なんてこのダンジョンの中で初めて見た……。


 なるほど。そうか、あれが『ボス部屋』だ。

 このダンジョンには10階層ごとにボスがおり、そのボスを倒さないと下の階に降りることが出来ないようになっているらしい。

 ただし、一度倒してしまえば五日間は出現しないので、その間は自由に下の階と行き来出来るということをディジーさんから聞いている。

 しかし扉が閉まっているということは、恐らく今はボスが復活している状態なのだろうと思う。

 その証拠にラザロスたちが扉の前で入念な準備をしていた。


 やがて、ラザロスたちは扉を開けてボス部屋へと入って行った。

 ボス部屋の扉は中からしか開かない構造になっているようで、ボスと戦う時は他のパーティに取られないように扉を閉めて戦うのが一般的らしい。

 あの扉が開かれる時はラザロスたちがボスを倒した時か、もしくはボスから逃げ出す時だ。

 しかしボスから逃げ出すと、ボスは同階層の中はどこまでも追ってくる習性があるようで、そうすると他のパーティに押し付ける形になる『トレイン』という重大なマナー違反になる可能性がある。


 だからボスと戦う時は絶対に倒せる自信がある時しか戦わないのが暗黙のルールだ。

 もしこの暗黙のルールを破ると迷宮都市で生活するのが難しくなるくらい疎まれる。

 まあ、ラザロスは仮にもAランクなのでこんな低層のボスは楽勝だろう。

 俺は彼らがボスを倒して扉が開くのを待つだけだ。

 ………。

 でも、何だろうこの胸騒ぎは?


 俺は扉が開くのを待ちつつも、装備を入念にチェックしておくことにした。

 そしてそれは正解だった。




番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」を短編でアップしました。

話は少し過去に戻り、リクが王都にいる時に催された晩餐会での話になります。


割とあっさり読めるのでよろしければ是非ご覧ください。

下にあるリンクから番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」に飛ぶことが出来ます

(上記の作者名「上杉マリア」をクリックしていただいて「作品一覧」からでも行けます)。


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