第三十二話『少女。諦観』
【奴隷竜の少女】
「さっさと付いてこいこのカス! 遅えんだよ!」
ご主人様は今日もわたしを詰る。
数日分の食料や回復ポーション、他にもダンジョン攻略に必要な道具やドロップアイテムの全てが入ったリュックを背負わされているので、わたしはご主人様たちの後を追うだけで精一杯だった。
やがてモンスターと接敵し、わたしは後ろでご主人様たちの戦いを眺める。
この時だけがわたしの休憩出来る唯一の時間。
しかしモンスターを倒し終わると、ご主人様はまたわたしを詰ります。
「早くドロップアイテムを拾わねえか、このグズ!」
頬を殴られ、血の味を噛みしめながらわたしはドロップアイテムを回収した。
そして、そのままご飯休憩の時間になる。
わたしはこの時間が嫌いでした。
「ほら、お前の分だ。食え」
そう言って渡されたのはネズミの頭を串に刺しただけのもの。
そのあまりのグロテスクさに、喉の奥から胃液がせり上がってくる。
「どうしたんだ? 早く食えよ」
ご主人様を始めパーティメンバーの皆さんがニヤニヤしながらわたしのことを見ています。この人たちはわたしが苦しむ姿を見るのが好きなのです。
「命令だ。食え」
その言葉を言われるとわたしは逆らうことが出来ません。
自分の手が意志に反したように動き、わたしの口にネズミの頭が突っ込まれる。
「お、おええっ!」
わたしはたまらず胃の中身を吐き出してしまいました。
それを見てご主人様たちは楽しそうに笑う。
もう慣れたはずなのに、目の前がじわりと滲んでくる。
……これがわたしの日常。
詰られ、殴られ、いじめられる。
今日のはまだ良い方です。うっぷん晴らしのためだけに立てなくなるまで殴られ続けたこともありました。
尊厳など踏みにじられてとっくに無くなっています。
奴隷の首輪をしている限り、わたしはご主人様に逆らうことが絶対に出来ないのです。奴隷の首輪にはそういう魔法がかけられているから。
わたしが奴隷になったのはそう遠い昔の話ではありません。
元来、竜人は生まれつき強い力を有しています。
しかしわたしは生まれた時から普通の人間の少女と変わらないくらいの力しかありませんでした。
誇り高い火竜族にとって、竜に変身すら出来ないわたしという存在は一族の恥にしかならなかったのです。
村にわたしの居場所はありませんでした。
やがてわたしは両親にも見限られ村を追い出され、何の力もないわたしに村の外で生きる術などなく、山の中を彷徨っていた時にモンスターに襲われあっさりと死にかけました。
そこを偶然通りかかった冒険者に運よく助けられましたが、しかしその冒険者は「竜は金になるから」と言ってわたしを奴隷商人に売りつけました。
そして奴隷商の見世物小屋に飾られ、しばらくして通りかかったのが今のご主人様のラザロス様というわけです。
わたしは物心ついた時からずっと辛いことしかありませんでしたが、ラザロス様の奴隷になってからは地獄の方がマシでした。
こんな辛い想いをしてまで生きていくのなら、いっそ死んでしまった方が楽になると何度考えたか分かりません。
でもそれすら許されない。
だって首輪には自殺防止の魔法がかけられているから……。
わたしはもう一生奴隷から解放されることはないのでしょう。
奴隷とはそういうものらしいです……。
でも……奇跡が起きるなら、一度でいいから誰かと一緒に心から笑ってみたい。
そんな願いを持つことは贅沢でしょうか?
ふと、あのギルドで見たあの人の顔が浮かび上がりました。
前髪の長い、あの優しそうなお兄さん……。
初めて見た時はびっくりしたけど、竜のわたしには分かる。
あの人は伝説の竜騎士さまだ。
――もし「助けて」と言ったら助けてくれるかな?
……なんて、そんなことあるはずないよね。
伝説の竜騎士さまにわたしみたいな子が必要だとはとても思えない。
それもわざわざ他人の奴隷に手を出してまで、わたしみたいな弱い竜を手に入れようなんて奇特なことをするわけがない。
それなら竜の谷に行った方がよほど強い竜がいっぱいいるし、あの人だってきっとそう思っていることでしょう。
わたしはどこに行ってもいらない子だ。
そう思うとまた悲しくなった……。
「おら、さっさと行くぞゴミ」
結局わたしのお昼ご飯はネズミの頭だけだった。
わたしはこれから先もずっと一人。
奴隷として生きていく。
番外編「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」を短編でアップしました。
話は少し過去に戻り、リクが王都にいる時に催された晩餐会での話になります。
割とあっさり読めるのでよろしければ是非ご覧ください。
下のリンクから「コミュ障竜騎士×コミュ障ドラゴン娘(s) -王都の晩餐-」に飛ぶことが出来ます
(上記の作者名「上杉マリア」をクリックしていただいて「作品一覧」からでも行けます)。




