第三十一話『慢心。負傷』
次の日、朝市で食料を五日分ほど買い込んだ。
もちろんダンジョンに潜るためだ。
取りあえずスカルナイト狩りは一旦打ち切り、俺はもっと下の階に行くことを画策していた。
ドロップアイテムの買い取り額を価格表で調べてみると、地下6階の『ウインドウィーゼル』というモンスターが落とす激レアドロップアイテム『かまいたちのカード』がかなり高い。
ドロップ率はなんとスカルナイトの『骨滅のカード』を凌ぐ一万分の一だが、その買い取り価格は金貨50枚!
もし運よく2枚ぽんぽんと落ちたらそれだけであの竜奴隷の少女を買い取れる額になる。
……まあそんな都合よく行くわけはないだろうが、それだけの夢を見させてくれるドロップアイテムということだ。
そうでなくてもスカルナイトの『骨滅のカード』と比べて1.7倍近くの期待値もあるので行ってみる価値はあるだろう。
ただ地下4階と地下5階を飛ばしていきなり地下6階まで降ることには不安もある。
モンスターが一気に三階層分も強くなるからだ。
しかし、地下4階と地下5階にはドロップアイテムがおいしいモンスターがいないし、何よりスカルナイト狩りに飽きた。
しばらくあの骨を見たくないよ……。
念のため回復ポーションも昨日道具屋でたくさん買い込んでおいた。
よし、行くだけ行ってみよう。
いざ、地下6階へ。
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地下4階、地下5階をなるべく早く駆け抜けて、地下6階まで降りてきた。
地下4階は問題なかったが、地下5階で現れた新規モンスターの中には一確で倒せないモンスターも出てきて少し苦戦した。
そのモンスターは見掛けからしてあからさまに堅そうなカブトムシっぽいモンスターだったので、防御力特化のモンスターと思えば仕方ないと言えるかもしれない。
しかし他にも鋭い角が生えたウサギ型モンスターや切り株型のモンスターの蔦を伸ばす攻撃とかにも少々手こずった。
さすがに下に降るほど敵は厄介になっていく。
この地下6階のモンスターには気を付けて行かないと、もしかしたら痛い目を見るかも知れない。
とか思っていた矢先に、向こうの通路からこの部屋にひょっこり顔を出したモンスターがいた。
一瞬、中型犬でも顔を見せたのかと思ったがよく見たら全然違う。
その見かけはイタチだった。
まずい……あれは『ウインドウィーゼル』だ。
何がまずいって、ありていに言えば俺は心構えが出来ていなかった。
『ウインドウィーゼル』は気配を隠す術でも持っているのか、俺の『聞き耳スキル』にも『気配察知スキル』にも引っかからなかったのだ。
奴は俺を見つけるなりに全速力でこちらに突っ込んでくる。
……凄いスピードだ!
少なくても今まで会ったモンスターの中で一番早い!
あっという間に間合いを詰めてきたウインドウィーゼルは、シッポの先端に付いていた『鎌』で俺を薙ぎ払ってくる。
うおっ!?
とっさに抜刀した剣がイタチのシッポを弾き火花が散る。
あぶねえ! もうちょっとで首を持ってかれるところだったぞ!?
このイタチ野郎が!
俺は反撃とばかりに、シッポを弾かれ体勢を崩しているウインドウィーゼルに剣を払った。
ギャッと短い悲鳴を上げてウインドウィーゼルが仰け反る。
しかしそれだけだった。
一撃で倒せなかったのだ。
ウインドウィーゼルは飛び退いてこちらから間合いを取ると、何やらシッポに力を入れ始めた。
最初は何をしているのだろうと思ったが、しかしすぐにまずいことに気が付く。
ダンジョンパンフレットにはこいつがある特技を持っていることが書いてあった。
その特技とは『かまいたち』。
風の刃だ。
今まさにその風の刃を放とうとしているに違いない。
俺は止めようとしてウインドウィーゼルに向かってとっさに動き出す。
しかしそれが良くなかった。
ウインドウィーゼルのシッポが緑色に光ったと思った瞬間、そのシッポが瞬間的に数回薙ぎ、その一回一回に風の刃が発生し、全てが俺に向かって飛んでくる。
俺は剣と盾を前に出してガードするが、全部を弾くことなど出来ず、いくつかの風の刃が俺の体を切り裂いていく。
鮮血が宙に舞った。
いってえ……!
けど……我慢できないほどじゃない!
何とか耐えた俺は、『かまいたち』を放った後の隙だらけのウインドウィーゼルに接近し、キルソードの突きを放った。
するとウインドウィーゼルの横腹に刺さり、それでウインドウィーゼルは霧散した。
念のため周りの気配を探るが、他には何もいない。
どうにか凌いだみたいだ。
俺は自分の体を見下ろす。
ひどい有様だった。
……それに初めて傷を負った。
訓練着が無残に切り裂かれ、その下の肌から血が流れ出ている。
特に右肩の傷が酷い。地球だったら数十針縫う怪我だ。
俺は腰の後ろに付けていたマジックポーチから回復ポーションを取り出すと一気に呷った。
レベルが低い内はこの回復ポーションである程度の傷は回復するらしい。
瓶に入っていた液体を全て飲むと、しばらくしてから数か所あった怪我の傷口が塞がっていく。
それでも肩の傷だけは全快しなかったので、仕方なくもう一本飲むとそれでようやく全部治った。
……今飲んだ回復ポーションは一本銀貨1枚もするんだよな……。
正直割に合わない戦いだった。
しかし、どこか慢心していた俺には文字通りいい薬だったかもしれない。




