第三十話『女王と勇者』
【アーティア王城・女王の間】
螢条院勇樹の姿は女王アルベルティーナの私室にあった。
机に座るアルベルティーナとその前に立つ勇樹が向かい合っている形だ。
勇樹をこの場に呼び出したアルベルティーナがまずは口を開く。
「使徒さま方はあまり良い状態とは言えないみたいですね?」
「ああ。如月が死んだことが思ったより響いているみたいだ」
アルベルティーナは転移組の現状について訊ねるが、勇樹は敬語を使わずに答えた。
しかしそれに対しアルベルティーナはこう指摘する。
「でしたら、予定にない行動はお控えくださいませ、勇者さま」
そのセリフに勇樹の眉がぴくりと動く。
「……驚いたな。キミは何でもお見通しなんだね?」
「何でも、というわけではありませんわ。分かることだけです」
二人の視線はぶつかったまま動かなかった。
しばらくしてから勇樹はフッと笑みを漏らすと、
「些細な問題だよ」
勇樹は実に爽やかな笑顔を浮かべていた。
「計画にはキミと僕がいればそれでいいはずだ。そうだろう?」
机に両手を置いて訴えてくる勇樹に対し、アルベルティーナはニコリと笑う。
「そうですわね。勇者さまのおっしゃる通りですわ」
「……ここには僕らしかいないんだ。他人行儀はやめてくれよ」
「これは失礼しました、ユウキさん」
悪戯っぽく笑うアルベルティーナの顔に勇樹の顔が近付いていくが、アルベルティーナは間に自分の人差し指を入れた。
「今はダメですよ?」
「……そうだったね」
勇樹は少しばつが悪そうに顔を離す。
「それじゃあ僕はそろそろ行くよ。これ以上ここにいて変に疑われるにはまだ時期が悪いからね」
「ええ。時期が来るまではあなたとわたくしは勇者と女王です」
「だが、時が来ればア……」
「それ以上は禁止事項です」
アルベルティーナの注意に、ユウキは口を噤んだ。
「……悪かった」
そう言って勇樹は今度こそ部屋を出て行く。
それから間もなく、アルベルティーナは勇樹が出て行った扉に満面の笑みを向けていた。
「ユウキさん、楽園へ行く資格があるのは果たしてあなたでしょうか? それとも……」
その笑顔には何の感情も浮いていなかった。




