第二十八話『クラスメイト。その後』
【アーティア王城・修練場】
『如月リクのビッグクレパス滑落』の報告があった日から数日が経過した。
しかし今も尚、アーティア王城では『如月リクの死』がクラスメイトたちの心に暗い影を落としていた。
ほとんどの者がリクと話したことはなかったが、それでもクラスメイトという身近な者の死は未成熟な学生たちの心に衝撃を与えるには十分だった。
加えて日ノ下カトレアの失踪の件もある。
どうして『如月リクが死んだ日』に同時に彼女までいなくなったのか、それは誰も分からない。
何の痕跡もなく、あまりにも不可解な失踪。
クラスメイトが二人も目の前からいなくなったことは、彼らの心に暗い影を落とすと同時に、彼らの精神に多大なストレスを与えていた。
いつもならこんな時、真っ先に声を上げ皆を導く螢条院勇樹は、リクの死を止められなかった責任を感じている(フリをしている)せいで口数が少ない。
他のカースト上位のメンバーに関しては、姫宮姫はまだ臥せっている。
本来なら快活で男前のはずの沙羅は一言も喋らない。
間所は間所でリクの死に負い目があるため何も言えない。
クラスの中心人物がそんな感じなので、クラス全体の雰囲気はもはや最悪といってもいい状態だった。
しかし、中にはそんなお通夜よりも酷い状態に耐え切れない者たちもいた。
実施訓練の時間にクラスメイト全員が覇気なく武器を振っている姿を見かねた斉藤が、遂に声を上げた。
「な、なあ、そろそろこんな暗い雰囲気はやめにしないか?」
それに渡りに船と言った感じで答えたのは女子バレー部の峰口だ。
「そ、そうよね。こうしてたって意味があるわけじゃないんだし? ましてや如月くんが生き返るわけでもないし?」
その二人のセリフに、他の者たちも続いて「そうだよな」「そうだよね」と互いの顔を確認し合うようにして頷き始める。
しかし、
「……よく言うもんだね!」
彼らを一笑に付したのは風早沙羅だ。
沙羅は滑稽な寸劇でも見たというような感じでクラスメイトたちを睥睨すると、
「……あんたたちが如月を追い詰めたんじゃないか? あんたたちが一方的に如月が悪いと決めつけたりするから如月は死んだんだ。それをよくそんな軽く言えたもんだね?」
クラスメイトたちを睨みつけ、これでもかというくらいの皮肉を言い放つ沙羅。
風早沙羅の棘のある視線に、クラスメイトたちは皆、狼狽えて俯くしかなかった。
しかし、斉藤がまたぼそりと言い放つ。
「で、でもよ、元はと言えば野球部の奴らが……」
それまで居心地悪そうに黙っていた間所を始めとする野球部の面々だったが、そのセリフで皆の注目が集まったことに耐えかねて叫び出す。
「それを言ったらエリアンテ王女だろうが!? 王女が言うから俺たちは仕方なく……」
野球部を代表して言い訳をする間所だったが、その言葉に反応したのはバスケ部の京田だ。
「仕方なく? ハッ、いつも如月に陰湿に絡んでいた奴がよく言うぜ」
「なんだと、てめえ!?」
一番つついて欲しくないところをつつかれ、間所は逆上して京田の胸倉を掴み上げる。
それでも京田は怯まない。
「おいおい、逆ギレかよ? 今のはここにいるみんなが思ってることだぜ?」
「いい加減黙れよてめえ! なんなら今ここでやってやってもいいんだぞコラ!?」
「ああ? 英雄職だからっていつもいつも調子ぶっこいてんじゃねえぞ? 上等じゃねえか、やってやんよ!」
京田が間所を突き放し、互いの間合いが開いたところで二人は武器を構える。
まさに一触即発の状態に、周りにいるクラスメイトたちはどうしたらいいのか分からずオロオロする者や間所と京田に加勢しようとする者とに分かれるが、
「やめないか!!」
飛んできた怒号に、間所も京田も、そして他の皆も一斉に動きを止めた。
その怒号を飛ばしたのはマリーだ。
彼女の顔を見て、皆はハッとする。
そうだ。一番辛いのは……。
「君たちが言い争ってもあの子は帰ってこないんだ……!」
心の奥底から出たその言葉に、誰もが何も言えなくなっていた。
マリーの必死に涙をこらえている姿に、思わず涙を流す女子もいた。
マリーがリクを可愛がっていたのは、ここにいる者なら誰もが知っていることだ(本人は全員平等に扱っているつもりだったようだが)。
本来なら姫と同じように部屋で臥せっていてもおかしくないマリーだが、彼女には『神の使徒』を導かなければならない使命がある。
そうしなければいずれ魔族に人類が滅ぼされてしまうのが分かっているからこそ、マリーには部屋で寝込むなどということは許されなかった。
そしてそのことを分かっているからこそ、誰も何も言えなかった。
実際、マリーとてこの場に立っていたくなどなかった。
「お前たちがもう少しリクくんに理解を示していればあの子は死なずに済んだんだ!」
そんな言葉が出そうになるのをマリーは何度も我慢した。
全部かなぐり捨ててビッグクレパスの方に向かおうとする足を何回も殴打した。
――全ては人類を魔族の手から守るため。
『三聖』の一人、聖騎士マリーの肩にかかっている重圧はあまりにも重いものだった。
「……もう一度始めから武器の素振りだ」
マリーの言葉に従い、皆は本来の持ち場に戻って行く。
そして再び実施訓練の時間が始まった。
彼らが如月リクと再会するのはまだ当分先のことである。




