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第二十五話『人間模様。ギルドの法則』

 ダンジョンから出ると日が傾きかけていた。

 今の時間なら冒険者ギルドにディジーさんがいるだろう。

 早速ドロップアイテムを売りに行こう。



 **************************************


「ま、まさかそれ……」


 冒険者ギルドに入るなり、ディジーさんが俺を見つけて言った言葉がそれだった。

 ディジーさんの指は俺の背中のぱんぱんに膨れ上がったリュックサックを指している。

 そうでーす。全部コウモリの羽でーす。

 察したディジーさんが呟く。


「わたしはもうツッコみません。ええ、ツッコみませんよ」


 どうやら昨日の件がディジーさんに少なからずトラウマを与えてしまっていたらしい。ディジーさんの瞳からハイライトが消えている。

 ……ごめんなさい。

 でも次からはコウモリの羽はないから安心して欲しい。

 次は多分『スカルナイトの骨』をいっぱい持ってくると思う。

 ……ダメやん。またトラウマやん。


「そ、それでは二階に行って査定しましょうか?」


 と、ディジーさんが引き攣り気味の声を出した時だった。

 不意に俺の肩に太い腕がガッと回されてくる。


「よお、新人。景気良さそうじゃねえか?」


 俺の肩に腕を回してきたのはAランク冒険者のラザロスだった。

 横を見るとすぐ間近にラザロスのニヤニヤした顔がある。


 む、むりィ~。

 元の世界にいた時から馴れ馴れしく人の肩に腕を回してくる人がいたけど、アレなんなの?

 ラザロスはパリピなの?

 俺が軽く混乱していると、ラザロスは俺の肩に腕を回したままディジーさんに顔を向ける。


「ディジーよ。最近よくこの坊主の面倒見ているみたいじゃねえか?」

「当たり前です。彼はまだ初心者なんですから」

「ふ~ん、初心者ねえ」

「だから彼を放してあげてください」

「ふんっ」


 ディジーさんが注意したことによってラザロスの腕が乱暴に放される。

 俺はよろめいて転ぶ寸前だったが、たたらを踏みつつもぎりぎりで倒れるのだけは防いだ。

 するとラザロスが感心したように言ってくる。


「へえ、意外とやるじゃねえか。そうだ、レベル40になったら俺のパーティに入れてやるよ。ま、何十年後先の話か分からねえけどな?」


 ラザロスのそのセリフで彼の仲間たちから嘲笑が上がる。


「おいおい。あまり新人をいじめてやるなよラザロス。坊やが可哀想だろう?」

「そうだぜ。この坊主がレベル40になる時は俺たちぁとっくに引退してらあな」

「そもそもレベル40になる前にどこかでぽっくり逝ってんじゃねえか?」

「そりゃそうだ! ぎゃははっ!」


 ひょえー。よくここまで調子に乗れるなぁって感心してしまうくらい調子に乗っているよこの人たち。


「てなわけだ。こんな見るからに才能無さそうな坊主の相手なんざ時間の無駄だぜディジー? だから早く俺の専属受付嬢に……」

「お断りします!」


 ディジーさんは食い気味でラザロスの提案を断っていた。

 するとラザロスの表情が見るからに不機嫌なものとなる。


「おい、ディジー。てめえいい加減にしろよ」


 ラザロスがディジーさんに詰め寄ろうとする。

 俺はとっさにディジーさんの前に立った。

 それを見たラザロスの顔がさらに歪む。


「……なんだぁ、おい? てめえ、俺を誰だか分かってんのか? あ!?」


 ラザロスは俺に手をかけようとするが、後ろからディジーさんの制止の声がかかる。


「ここをどこだか分かっていないのはあなたの方です。ラザロス様、ここは冒険者ギルドですよ?」


 その毅然とした声にラザロスの動きが止まった。

 そして、ラザロスは俺越しにディジーさんの方に視線をやる。

 ロビーにいた他のギルド職員たちも酒場にいた冒険者たちも、いつの間にか全員がこちらを注目していた。

 さすがに分が悪いと判断したのか、ラザロスが一歩下がる。


「分かったよ。ディジー、ここはお前の顔を立てて引いてやる。だが、俺との専属契約の件、よーく考えておけよ? 俺ぁ気の長い方じゃねえんだ。それと……」


 そう言ってラザロスは俺に視線を移し、俺の胸倉を掴んでくる。


「お前、覚えとけよ? ディジーの前だからってカッコつけたこと、いつか後悔させてやるぜ」


 そう言い捨ててから俺の胸倉を放し、ラザロスは仲間を連れて酒場の方へと向かって行った。

 ふぅー。

 レベル差があるせいか、今の脅しは心に響いた。

 やばいなー。完全にロックオンされたみたいだ。

 これで俺とディジーさんの専属契約がバレたらどうなってしまうか分からない。

 これは本気で対策を練った方がいいか……?


 そう思い悩んだ俺だったが、しかし彼らの影に隠れるようにして立っていた人物に気付いて毒気を抜かれる形となる。

 その人物とはあの奴隷竜の少女だった。


 彼女は俺の方をじっと見つめた後、俺にしか分からないくらい小さなお辞儀をしてからラザロスを追って行った。

 俺はそれを複雑な想いで見送りながらも、ある懸念を抱いた。


 ……あの子今、俺の右手の甲を見てなかったか?

 籠手があるから見えないはずだが、まさか紋章に気付いたのか……?


「リクくん」


 ディジーさんの声で俺は我に返った。

 後ろを振り向くと、


「あんな奴の言うことなんて、まっっっっっっっっっっったく気にする必要なんてないですからね?」


 ディジーさんが俺を気遣うように言ってくれる。

 めちゃくちゃ「まっ」に力が入っていた。

 さらにディジーさんは俺に聞こえないような小声で呟く。


(それにリクくんならあんな奴らあっという間に抜いちゃうに決まってるんだから)


『聞き耳スキル』は今日もいい仕事をしていた。

 ……だから聞こえてますって。

 気恥ずかしいのでやめてください。

 しかし次の瞬間、ディジーさんは少しはにかんだような上目づかいになると、


「あと……あとね? 庇ってくれてありがとうリクくん。嬉しかった……」


 ……き、気恥ずかしさが倍増してしまった。

 その後、二階の個室でドロップアイテムの査定をしてもらったのだが、いつも姦しいはずのディジーさんの口数が少なかったせいで余計に恥ずかしくなりました。

 ラザロスとの一件は頭の中から早くも消えてなくなっていた。



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