第二十四話『風の迷宮地下3階。狩り効率』
翌日、俺はまたコウモリ狩りを行っていた。
ダンジョンに潜った初日にあれだけの戦果を上げた俺にとって、狩りにも慣れてレベル2に上がった今では簡単なお仕事だった。
そして、昼過ぎにはリュックがぱんぱんになっていた。
もちろんリュックに詰まっているのはドロップアイテムのコウモリの羽だ。
レベルが上がりさらに効率化を求めて周った結果、予想以上の速度で狩りが終了してしまったのである。
……まいったな。リュック一つだとすぐにドロップアイテムでいっぱいになってしまう。
二日目にして俺は早くもアイテム積載量の壁にぶち当たってしまった。
正直言って、一度ドロップアイテムを売りに行ってもう一度ダンジョンに戻ってくるというやり方は効率が悪い。
これならもっと下に潜ってドロップアイテムの買取価格がさらに高いモンスターを狩りに行った方が効率いいか……?
その分モンスターが強くなるのは覚悟の上だが、それでもその方が経験値的にも金銭的にも効率が良い気がする。
俺はリュックのサイドポケットに入っていたドロップアイテムの買い取り価格一覧表を眺めてみる。
これはディジーさんから貰った物で、現在買い取り価格が高まっているドロップアイテムを選出して書き写したものだ。
当然その買い取り価格は変動制だが、滅多なことでもない限り大幅な下落はないだろう。
その買い取り価格表を眺めていると、地下3階にいるスカルナイトというモンスターの激レアドロップアイテム、『骨滅のカード』の買い取り価格の高さが目を引く。
その額はカード一枚でなんと驚きの金貨15枚だ。
しかしドロップ率は5000匹に1匹と書かれており、本当に激レアドロップのようだ。
ただ計算してみたところ、一匹当たりの期待値はコウモリの羽の三倍もある。
さらにスカルナイトには通常ドロップアイテムの『スカルナイトの骨』もある。
『スカルナイトの骨』は20匹に1匹のドロップ率で一個あたり銅貨50枚の買い取り価格とそれほど良くはないが、しかしながら先程の『骨滅のカード』の期待値と合わせればむしろちょっとしたボーナスが付いているようなものだ。
………。
悪くないな。
行ってみるか。
いざ、地下3階へ。
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地下1階のモンスターは無視できるものは全て無視して、俺は一気に地下2階へと降りた。
地下2階には地下1階と同じモンスターも出てくるが、中には1階では見かけないモンスターもちらほらいた。
そういう相手だけ念のために一回ずつ戦ってみたのだが、レベルが2に上がったこともあったためか思ったよりも難なく倒すことが出来た。
今のところ全て一撃で倒せているので、地下3階でもそうあって欲しい。
『ダンジョンパンフレット』に書かれているマップのおかげで最短ルートが丸分かりだ。
割と短時間で地下3階への下り通路を見つけた。
さあ、行くとするか。
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ところが地下3階に入ったところで初めて他の冒険者を見かけることになった。
戦士っぽい男が一人と弓使いの女性が一人と僧侶っぽい男が一人。
その三人パーティが剣を振り回している骨のモンスターと戦っている。
きっとあれがスカルナイトなのだろう。
……しまったな。思ったよりもここは人気の狩場なのかもしれない。
戦っている様子を見ていると、あの三人パーティはそこまで強くないようだ。
多分、駆け出しの冒険者にとってきっとスカルナイトは絶好の獲物なのだろう。
……俺みたいに。
それにしても戦士の男と弓使いの女性がいくつか有効打を入れているように見えるが、スカルナイトは中々倒れないな。
僧侶の人も後ろから仲間をサポートしつつ神聖魔法っぽいものをスカルナイトに浴びせて頑張っている。
最終的にその神聖魔法が決定打になったのか、スカルナイトは聖なる魔法の中で消えてなくなった。
スカルナイトと戦うには結構バランスの良いパーティに見えた。
やっぱパーティっていいなぁ……。
……俺、何必死に一人で戦ってるんだろうって気になってくる……。
……いや、気をしっかり持て俺。一人でやったからこそ経験値を独り占めして、たった一日でレベルが上がったんじゃないか。
そうだ。俺は間違ってなんかない。
悲しくなんかない。ないったらない。
ふぅ。セルフメンタルヘルス終わり。
ドロップアイテムがなかったのか、三人パーティは遠目にもがっかりしているのが分かった。
そしてそのまま次の狩場へと向かって行った。
俺はようやく部屋の中へと足を踏み入れる。
……うーん、厄介だなぁ。
何が厄介って、もちろん他の冒険者の存在だ。
この迷宮は広いので、さっきの人たちと逆方向に行けばあの人たちとはかち合わないかも知れないが、この地下3階でスカルナイト狩りをしているのはあの人たちだけとは限らない。
正直言って邪魔くさい。狩り効率が落ちる可能性があるし、何より普通にコミュ障だから他の冒険者と万が一でも絡みたくない。
でもスカルナイトはおいしいし……。
………。
よし、とにかく様子見だけでもしてみよう。
というか今回はそのために来たのだ。
他の冒険者に関しては『聞き耳スキル』と『気配遮断スキル』と新たに覚えた『気配察知スキル』を総動員して回避していけば案外接触しなくて済むかもしれないしね。
そんなわけで地下3階の探索をスタートした。
地下2階と同じように、初見のモンスターは念のために一回ずつだけ戦っていくことにする。
すると早々に問題が起きた。
遂に一撃で死なないモンスターが出てきたのだ。
まじか~。一確かそれ以上の手数で倒すかによって狩りの効率は全く変わってくる。
出来ればスカルナイトは一確で倒せればよいのだが……。
そうして三回ほど他のモンスターと接触した後に、ようやくスカルナイトにお目見え出来た。
スカルナイトは俺を見つけるなりに剣の鍔をかちゃりと鳴らして襲い掛かってくる。
骨の関節の音も丸聞こえで、がっしゃがっしゃ言って走って来てうるさい。
スカルナイトには剣技も何もあったものではなく、力任せに剣を振り回してくる。
初めて武器を使うモンスターに会ったせいか今までのモンスターに比べて迫力もあり、少々やりづらい相手ではあるが……。
それでもマリーさんの剣技に比べたら子供の遊戯もいいところだった。
スカルナイトが上段で斬りかかって来たところを躱しながら間合いに入り、胴を一閃してやった。
確かな手ごたえが響きスカルナイトのアバラ骨を数本切り飛ばす。
しかし驚いたことにそれでもスカルナイトは倒れなかった。
スカルナイトはアバラが無くなったことを気に掛けることもなく振り返って再び斬りかかってくる。
俺は慌てて盾で弾き、そこから数太刀躱した後、もう一度カウンター気味の一撃を胴にくれてやる。
それでようやくスカルナイトは消滅した。
ドロップアイテムはなしだ。
……ふぃ~。意外としんどい相手だった。
二確か……。
せめて一確じゃないと、倒す時間や他の冒険者のことを考慮するとコウモリの羽に比べてそこまでおいしい狩場とは言い切れないような気がする。
だが、コウモリの羽だとリュックに入りきらないという問題があって、俺的に冒険者ギルドに一度売りに戻るという時間的ロスが許せないんだよなぁ。
………。
そこで次なる案を思い付く。
……思い切って新しい武器を買ってみるか?
青銅の剣を買ったばかりでもったいない気もするが、しかしもしそれで一確になったとしたら狩り効率は格段に上がることだろう。
ゲームで培った俺の経験がそう言っている。
今、俺の手元には昨日の買い取りの分もあって銀貨70枚ほどがある。
さらにリュックには今日の分の成果がぎっしりと詰まっており、その買い取り金額分を合わせれば銀貨130枚くらいになるだろう。
それだけあれば2ランクは上等な剣を買えるはずだ。
そして2ランクも上がればスカルナイトを1確で倒せることも十分考えられ得る範囲だろう。
ちなみにどうして手元にそれだけのお金があるかと言うと、実のところ俺はディジーさんにまだお金を返していない。
本当は返そうと思っていたのだが、ディジーさんは「まだ必要な物はたくさんあるはずです。今日みたいな無茶をするのなら、そのお金で少しでもいい物を買ってください」と言って銀貨30枚を再び俺へと押し付けてきたのだ。
……本当にいい人過ぎだろ。
ここまでしてもらっては、その内利子を付けて返さなければならないな。
何より彼女の期待に応えなければ申し訳が立たない。
そのためにも俺は新しい剣を買うことに決めたのだった。
一応下のステータス表はスライム、コウモリ、スカルナイトのものだ(今日確認した)。
俺の『生物鑑定』のスキルレベルでは完璧な値までは分からないので、何となくこんなもんだろうという数字になっている。
モンスターにレジストされたせいかスキルまでは読み取れなかった。
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スライム
筋力:65
魔力:13
体力:88
防御:85
敏捷:87
魔耐:35
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バット(コウモリ)
筋力:58
魔力:0
体力:65
防御:53
敏捷:117
魔耐:30
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スカルナイト
筋力:138
魔力:0
体力:158
防御:106
敏捷:98
魔耐:17
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