第二十三話『戦闘報酬。ステータスとスキルというもの』
……まさかたった一日でレベルが上がるとは夢にも思っていなかった。
普通『レベル』というものは最初の上がり易い時でも四か月に一回上がれば早い方だと王城の座学で説明を受けていた。
最もレベルの上がり易い一番初めのレベル2に上がる時でも、早くても一週間はかかるのではないかと言われていたからな。
それなのに割とあっさりレベル2になってしまった。
その理由を俺なりに考えてみる。
………。
……そうか。多分俺が『一人』で狩っていたからだ。
王城の座学ではこうも習っていた。
モンスターを倒した時の経験値は、その戦闘の功労によってパーティメンバーに振り分けられると。
分かり易く説明すると、一匹のモンスターが持っている経験値は決まっているので、例えば四人のパーティで倒したらその四人で一匹のモンスターの経験値を分け合うことになるということだ。
しかし俺は経験値を分け合う相手がいない。
だってぼっちだから……。
経験値総取り状態の俺がアホみたいにモンスターを狩りまくっていたから今日一日でレベルが上がったのではないだろうか?
もしかしたら王城で訓練していた頃の経験値も少しは溜まっていたのかもしれないが、まあ理由としては大方そんなところだろう。
……もしかしてぼっちの方が狩り効率いいんじゃないの? 経験値だけじゃなくアイテムも全部総取りだし。
まあ対価として自分の命を危険にさらすというのがネックではあるけど……。
とにもかくにも俺はレベルの上がった自分のステータスを確認してみることにする。
実は俺が持つ『生物鑑定』のスキルなら自分のステータスを確認できるのだ。
そういうわけでちょっと見てみよう。
俺は目を瞑って自分自身を見るようにして気持ちを集中させる。
すると段々と『見えて』くる。
それを分かり易く数値化したものが次のようなものだ。
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如月リク 15歳 人間族 男 レベル2
職業:竜騎士(伝説職)
筋力:131
魔力:117
体力:126
防御:120
敏捷:134
魔耐:119
成長率:18
ジョブスキル:片手剣レベル7・槍レベル6・盾レベル6・竜契約・騎乗(無効)
個人スキル:言語理解・気配遮断レベル5・気配察知レベル1・聞き耳レベル7・遁走レベル5・生物鑑定レベル5・対物鑑定レベル1・話術レベルマイナス10
ユニークスキル:効率厨(無効)・独りを極めし者(無効)・孤独の証(無効)・超感覚(無効)
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おお、いいねえ!
自分が強くなっているのが分かると、やはり嬉しいものがある。
ステータスが強くなっただけではなく、今日一日『聞き耳スキル』で敵の気配を探っていたおかげか、『気配察知スキル』なるものを覚えている。
……そう言えば途中から多少モンスターの気配を察知するのが楽になったような気がしていたが、このスキルのおかげだったのか?
うん、いい感じだ。次からもお世話になろう。
しかしここで俺は気付いたことがある。
……どうせならモンスターに『生物鑑定』のスキルを使っておけばよかったのではないだろうか……?
これまで『生物鑑定』を使う機会がなかったからそのスキルの存在をすっかり忘れていたよ。
『生物鑑定』はその名の通り、相手の力を見極めるための力だ。
王城や冒険者ギルドにステータスが分かる石版があるが、あれと同じ力と言ったら分かり易いだろうか?
厳密に言えばスキルレベルによって読み取れる力が変わってくるところが違うのだが、まあほとんど同じだろう。
そんな便利スキルをどうしてこれまで使って来なかったかと言うと、実は『生物鑑定』を使うことはマリーさんに止められていたからだ。
この『生物鑑定』はレベルの高い相手に使うと『鑑定されていること』が分かってしまうらしい。
下手をしたらそれだけで敵対行為と取られかねないとも言われた。
だから王城では軽々しく使わないように注意されていたのだ。
俺自身のレベルと『生物鑑定』のスキルレベルの両方が高くなれば相手に気付かれず鑑定できるらしいので、それまではあからさまに敵対している相手以外には使うな、と。
しかしモンスターはあからさまに敵なので使っておけばよかったと後悔した。
今さらだが、もしかしたらその方が対策とか取れたかもしれない。あれだけ狩りまくった後では本当に今さらだが……。
……うん、まあこれから使っていけばいいか。
俺はそう割り切った。
ちなみにだが、スキルの後ろに(無効)と書いてあるものは、潜在能力として眠っているが今はまだ使えないスキルのことだ。
その(無効)になっているスキルはふとしたキッカケが訪れた時に解放されるらしい。
例えばレベルが上がった時に自動的に解放されるものもあると言っていた。
他にはそのスキルに由来する何かを成し遂げた時に解放されるものもあると説明されたが、いずれにせよふわっとした説明で今一つどうしたらいいのか分からない。
ただ、以前は(無効)になっていたはずの『竜契約』のスキルが、俺の手に紋章が浮かび上がった後に解放されたことだけは分かっている。
機会があれば(無効)になっているスキルを順次解放していきたいと思っていた。
特にユニークスキルはかなり強力らしいからな。
まあ最初はレベル上げついでに解放されるのを待つのもありか……。
どうしても解放されないものだけ後から解放条件を考えていくのが最も効率いいような気がする。
……また効率厨的な考えが出てしまったが、しかし案外こうやって効率重視で過ごしていたら『効率厨』のユニークスキルが解放されたりして……。
だけど、こうやって色々考えていると楽しい。これがゲームじゃなくてリアルだということを思わず忘れてしまいそうになる。
だが、これは間違いなくリアルで、一つ間違えば死に繋がる危険と隣接しているのはどうしようもない事実だ。
今日みたいにはしゃいで狩りに夢中になってしまうなんてもっての他だろう。
うん、次からは気を付けよう。
俺は気を引き締め直してダンジョンから出たのだった。
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外は既に日が暮れていた。
……ホントどれだけ夢中になっていたんだ俺は……?
早く行かないと冒険者ギルドが閉まってしまうかもしれない。
買い取りが今の時間でもやっているのかという懸念があるが、しかしこんな大荷物を持っていたら他に何も出来やしない。
何せ俺は独り身な上に宿屋にすら止まれないので荷物を預けておく手段がなかった。
……さっきはぼっちであることに感謝したけど、やっぱりぼっちってダメですわ。
などと反省している場合ではない。
とにかく冒険者ギルドへ急がねば。
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冒険者ギルドに辿り着くと、窓から光が漏れているのを確認してホッとした。
そういえば酒場が隣接しているんだから遅くまでやっているか。
あとはディジーさんがいるかどうかだけど……。
恐る恐る中を確認してみると、ロビーの受付にディジーさんの姿を発見した。
どうやら遅くまで仕事を頑張っているようで書類とにらめっこしている。ご苦労様です。
ディジーさんの仕事を増やすことは気が引けたが、しかしドロップアイテムが詰まったこの荷物だけはどうしてもなんとかしなければならない。
それに査定自体は専門の人にやってもらうことになるのだろうから、そんなに問題ないか。
問題があるとすればその査定の人と上手くやれるかどうかだけど……。
そう思って近付いていくと、眉間にしわを寄せて書類を眺めていたディジーさんが俺に気付いてパッと笑顔になる。
それは初日に見せた営業スマイルなどではなく、もっと柔らかなものだった。
うーん、やっぱ可愛いなこの人……。
今日一日モンスターしか見てなかったから癒されるわー。
「いらっしゃいリクくん。こんばんはですね!」
相変わらずの元気印に疲れも吹っ飛ぶ。
いや、それよりもドロップアイテムの査定を頼まねば。
「今日はどんな御用で……あ、もしかしてドロップアイテムの査定ですか?」
さすが優秀な受付嬢。俺の雰囲気から察してくれたようだ。
というかリュックをこんなに膨らませていたらさすがに分かるか。
「やっぱりそうなんですね。じゃあ、ダンジョンデビューしたんですね! おめでとうございます!」
……ダンジョンデビューってなんだそれ?
なんかアイドルデビューみたいな言われ方したけど……。
この人のことだから、何となく勝手に作った単語のような気がしてならない。
「それにしても昨日の今日でよくパーティメンバーが見つかりましたね?」
そのセリフにぎくりとした。ディジーさんには絶対にパーティでダンジョンに行くように言われていた手前、一人で潜ったとは言えなかった……。
しかし優秀な受付嬢を舐めてはいけなかった。
俺の雰囲気からあっさりと察してしまったようだ。
「……リクくん。もしかして一人でダンジョンに行きませんでした?」
怖い! 声が怖い!
ついでに笑顔も怖い!
ディジーさんの瞳孔がすぅっと開かれる。
「わたし、あれほど一人ではダンジョンに行かないように念を押しましたよね?」
……やばい。今日最大のピンチです。
むしろコウモリ七匹に囲まれた時の方が気楽でした……。
しかし次の瞬間、ディジーさんの顔が悲しげなものとなった。
そしてこう言ってくる。
「今回は無事に帰って来てくれたからいいです。でも、ダンジョンでは何があるか本当に分からないんですよ? わたしはこれまで帰ってこなかった冒険者を何人も見てきました。お願いですからもう心配をかけないで下さい……」
それは悲壮な声だった。多分、本当に帰ってこなかった冒険者というのがたくさんいたのだろう。
でも、まいった……そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに。
「ね、お願い? もう無茶なことはしないで?」
ディジーさんみたいな可愛らしい女性に上目遣いで瞳をうるうるさせられて首を縦に振れない男がこの世にいるのだろうか? いや、いまい(反語)。
気付けば俺は首を縦に振らされていた。
だけどそれでディジーさんが笑顔に戻ってくれたのだからよしとしよう。
「そ、それじゃあ気を取り直してドロップアイテムの査定をやらせていただきますね?」
ディジーさんはそう言った後、俺を二階へと案内した。
ドロップアイテムの査定は二階の個室でやってくれるらしい。ドロップアイテムを他の冒険者の前で広げたくない人が多い、というのが二階の個室で査定を行う主な理由だった。
他のギルド職員たちが仕事をしているのを横目に廊下を通って個室に入る。
そして個室に入るなり再びディジーさんと向かい合わせで座ることになったのだが、先程までとは違って個室に二人きりの状況なので何だかドキドキする。
しかし査定してくれる専門の人はどうしたんだろうと思っていると、その考えを読み取ったのかディジーさんが言ってくる。
「査定はわたしがやります。ふふーん、実はわたしは査定も出来ちゃう受付嬢なんですよ? どうですリクくん、すごいでしょう!」
めちゃくちゃ得意げだった。ここまで行くとむしろ可愛い。
俺は微笑ましい気持ちで首を縦に振っていた。
「そうでしょう、そうでしょう。あ、それでは早速査定を始めさせていただきますね! ドロップアイテムをこの査定台の上に置いてください!」
俺に褒められたことに気を良くしたのか、上機嫌で査定台の上を指差しているディジーさん。
俺は取りあえずコウモリの羽を一つリュックから取り出してそこに置いた。
するとディジーさんが小さな声で、
(初めてなのに本当に一人でモンスターを倒してきちゃったんだ……すごいなぁ)
『聞き耳スキル』のせいで丸聞こえなんですけど……。
俺は何だか気恥ずかしくなってコウモリの羽を次々と取り出した。
しかしコウモリの羽が査定台に積み重なって行くにつれてディジーさんの顔が引き攣り始める。
そして最後の60個目を出した時、コウモリの羽の山の前であんぐりと口を開けていたディジーさんが遂に叫んだ。
「こ、こんなに!? え、一日で!? まだレベル1なのに!?」
あ……これはちょっとやり過ぎたかな?
いや、多少の自覚はあるんですよ? でも狩りが楽し過ぎて……。
とか言えるわけがなかった。さっきあれだけ悲しそうな顔をさせてしまった手前ばつが悪いなんてもんじゃない。
ちなみにこの時、俺は自分がどれだけ非常識なことをしていたのか気付いていなかった。
「あの……わたしはもう何を言ったらいいのか分からないです……」
結局、茫然としたままディジーさんが査定を開始する。
ぶつぶつと「これもリクくんが倒したの」「これもリクくんが倒したの」とうわ言のように呟きながら査定するディジーさんの姿はちょっと怖いものがあったが、最終的に全部で銀貨60枚になった。
ほくほくだった。




