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第二十一話『ダンジョン攻略開始。初戦』

 ……変な夢のせいで少し寝不足気味だ……。

 人の心の中にずかずかと入り込んで来るなんて俺が一番苦手とする人種……いや、竜種だよ。


 ……まあいい。このくらいの寝不足なら何も問題ない。

 今日は予定通り『風の迷宮』ダンジョンに潜ることを決めた。



 **************************************



『風の迷宮』の入口はボアの街の外れ、山の麓にある。

 山の方に近付くにつれ建物がまばらになり、やがて詰所っぽい建物以外何もなくなった時に入口が見えてきた。


 その入口は一目で分かった。

 何故ならあまりにも大きかったからだ。

 巨人でも楽に通れそうなくらいの大穴が山の麓にぽっかりと空いている。


 この『風の迷宮』は国(アーティア聖王国)が管理しているようで、入り口には見張りの兵士が二人立っていた。

 詰所の中にも多分何人か詰めているのだろうと思う。


 俺が進んでいくと入り口のところで兵士に止められたが、ギルドの登録証を見せるとすんなりと通してくれた。

 そのまま『風の迷宮』の入口をくぐることが叶う。


 ……ふぅ。何とかなったか。

 一瞬、俺の身元が露呈する可能性を考えたが、単なる一冒険者と思ってくれたみだいだ。

 それもそうか。王城では俺は死んだことになっているはずだからな。

 と、思っていたら、


「待て!」


 一度は通してくれたはずの兵士が後ろから声を掛けてきて、俺はぎくりとして足を止める。

 もしや身バレしたかと思って恐る恐る振り返ると、その兵士は今しがた俺が提示したギルドの登録証を指差していた。


「君はFランクだろう? それなのに一人でこのダンジョンに潜るつもりなのか?」


 ギルドの登録証は冒険者のランクによって色が変わる。

 俺が手に持っている登録証は最低ランクであるFランクの『青色』だ。

 どうやらその『青色』を見て兵士は声を掛けてきたようである。


「Fランクが一人でダンジョンに潜るなんて自殺行為だぞ。……まったくギルドの連中は何を教えているんだ。あれほど初心者には気を配れと言っておいたのに……」


 その中年の兵士さんはぶつぶつと呟いていたが、実のところディジーさんにも一人でダンジョンに潜ることは固く禁止されていた。

「ダンジョンでは何が起こるか分からない。一人だと何かあった時に対処しきれない状況が必ず出てくる。だから絶対に最低でも二人以上のパーティを組んでからダンジョンに潜るように」というのがディジーさんのお言葉だ。

 実際四人以上のパーティを組むのが基本で、上級者でもソロ(一人)で潜ることは滅多にないらしい。


 しかしご存知の通り、わたくしめはぼっちである。


 むしろパーティを組む方が考えられないわ、ふははははっ!

 ……もう笑うしかないだけで調子に乗っているわけではないよ?

 悲しいけど、これって戦争なのよね……。


 だんだん自分でも言っていることが分からなくなってきたので、取りあえず俺はそのまま一人でダンジョンに入ることにした。

 再び歩き出すと、さっきの中年の兵士さんが重々しい声で言ってくる。


「……そうか。行くのか。……君にも何か事情があるのだろう、もう止めはしない。しかしこれだけは言っておく。……死ぬなよ?」


 まるで俺が重病の母親のために無理して稼ごうとしているとでも勘違いしていそうな声音だった。

 ……すいません。実は単なるぼっちなんです。


 背中に熱い視線を感じながら俺は『風の迷宮』内部へと入って行く。



 **************************************



 入って洞窟を一直線に進んでいくと、間もなく下へ続く通路が見えてきた。

 その通路を潜った先、地下一階からが本当のダンジョンになる。

『風の迷宮』は山間にあるにも関わらず、その内部は下へ下へと続く地下型の迷宮だ。


 俺は下への通路を潜る前に、最後の装備チェックを行う。

 腰には昨日買った青銅の剣が掛かっており、左腕には同じく昨日買った青銅の盾がある。

 青銅の盾は腕に装着出来るタイプなので剣を両手で扱うことが可能だ。


 服は王宮で着ていた訓練着のままだ。

 しかしながら、さすが王宮で用意された物だけあって素材は良く、しっかりとした作りをしている上に動きやすい。

 しばらくはこの訓練着のままでいいのではないかというくらいだ。

 取りあえずダンジョンに潜ってみて、鎧が必要かどうか確かめてみればいいか。


 後は背中のリュックに回復ポーションや昼ごはんの焼き鳥などが入っている。

 後々消費した昼ご飯の代わりにドロップアイテムを入れていくつもりだ。


 ……うん。問題ないな。

 初心者としてはこんなもんだろう。


 俺は一つ深呼吸してから、下への通路へと足を踏み入れた。



 **************************************



 長い下への通路を越えて地下1階に入ると、そこには幻想的な光景があった。

 太陽の光が入らない代わりに床や壁、果ては天井までが淡く青白い光を発している。

 (ひかり)(こけ)だ。

 俺がコミュ障じゃなければ思わず感嘆の声が漏れていたことだろう。


 しかし呆けている場合ではない。この『地下1階』から既にダンジョンなのだ。

 どこからモンスターが現われるか分からないのだから。


 取りあえず俺はリュックから冊子を一つ取り出す。

 これは『ダンジョンパンフレット』と呼ばれるもので、この『風の迷宮』のことがこと細かく書かれている。

 もちろんマップ付きであり、出現モンスターと照らし合わせながら進んでいくつもりだ。

 この『ダンジョンパンフレット』(地下1階~地下10階用)だが、本当は銀貨1枚するらしいがディジーさんはこれすらも無料で譲ってくれた。

 本当にディジーさんには頭が上がらない。


 さらに言うと、ディジーさんは俺に対し「絶対にパーティを組むよう」に勧めながらも、「念のために」とソロで潜った時のための戦闘アドバイスまでしてくれた。

 今日はそのソロ攻略用のアドバイスに従ってモンスターと戦う予定である。

 多分ディジーさんは、ぼっちの俺が勝手に一人でダンジョンに潜るかもしれないことを懸念したんだろうなぁ。ため息を吐きながらもやたら真剣にアドバイスしてくれたよ。

 俺、ディジーさんに対して足を向けて寝られないわ。


 パンフレットから目を離して再び辺りを見てみるが、差しあたってモンスターの姿はない。

『風の迷宮』は迷宮と名の付くようにその内部は複雑に入り組んでいる。

 なのでマップを参照しながら、あらかじめ目星を付けておいたルートを進んでいくことにする。


 ディジーさんに言われた俺のソロ攻略方法は、主に俺の個人スキルである『気配遮断スキル』と『聞き耳スキル』を併用したものだった。

『気配遮断スキル』で気配を消しつつ、『聞き耳スキル』でモンスターの気配を探りながら移動していくという方法だ。

 その上で出来ればモンスターが気付いていない内にこちらから奇襲をしかける。

 さらにはヤバくなったら『遁走スキル』で迷わず逃げなさいと言われていた。

 しかしそこまで説明したところで、ディジーさんは俺の個人スキルがソロに特化していることに気付いて驚いた顔をしていた。

 ふっ、伊達に元の世界で一人で生きてきていませんよ?

 ぼっちの力を舐めるなよ?


 ……まあいいや。先に進もう。

 この部屋には下って来た通路の他にさらに二つの通路が見える。


 右側は地下2階に続く通路へのショートカットになる正解の通路だ。

 俺は今日はこの地下1階で経験値とアイテムを稼ぐつもりなので、他の冒険者に出会いたくないこともあって左側の通路を行くことにした。


 通路には風が吹いていた。肌で感じるほど強い風だ。

 恐らく入口意外にもどこか外と繋がっているところがあるのだろう。そうでなければ洞窟内でこの風の強さは説明できない。


 ……案外、ビッグパレスの谷底に繋がっているという話は本当かも知れない。

 あそこからここまで大分距離が離れているので、もし本当だとしたらこの迷宮の広さは異常だ。

 地下1階でも十分広いと思ったが、下に行けば行くほどさらに広くなっていくらしいから、やはり嘘とも言い切れないと思う。


 この『風の迷宮』の最下層まで辿り着いた者は未だかつていないとのことだった。

 この迷宮の最奥到達深度は今のところとあるSランク冒険者が率いるパーティが成した地下70階らしい。

 最下層に眠っているという『聖遺物』とは一体どんなお宝なのやら。

 いつか見てみたいものだ。


 そんなことを思いながら通路を進んでいると、少し行ったところに部屋があるのが見えてきた。

 そして同時に……俺の耳に聞きなれぬ音が聞こえてくる。

 ……何か柔らかい物が地面にぶつかっているような音だ。

 俺は警戒感を全開にして部屋に近付いていき、通路の端まで行くと、壁から顔を少しだけ出して覗き込むようにして部屋の中を確認する。


 ……!


 そこにいたのは未知の生物だった。

 水色の柔らかそうな物体が部屋の中を飛び跳ねている。

 パンフレットに書かれているモンスターと照合すると、それは間違いなく『スライム』と呼ばれる個体だった。

 身も蓋もない言い方をしてしまえば、ゲームでもよく登場するアレである。


 しかし実際見ると感動すらしてしまう。

 ドロドロの液体が半固形に固まって飛び跳ねている姿は、通常の生物学や物理学といったものを完全に無視しているように見えた。

 王城の座学で学んだことと照らし合わせて考察してみると、恐らくあれは液状のものが『負のマナ』によって一定の形に固められ、生物としてのエネルギーを与えられているのではないだろうか?


 と、まあ、今はそんな学問などにうつつを抜かしている場合ではない。

 見かけは可愛く見えなくもないが、あれは敵だ。

 モンスターは全て『負のマナ』の集合体で成り立っている凶暴且つ凶悪な魔物なので、見かけたら倒すというのがこの世界の常識なのだそうだ。

 ビーストテイマーやビーストマスターなどといった魔獣使いならば飼いならせるらしいが、一般人にとってはまず害悪にしかならないらしい。


 というわけで倒そうと思うのだが……一匹か。

 本当はこのまま気配を絶ったまま後ろから切り伏せようかとも思ったのだが、何というか……俺は普通に戦闘がしてみたかった。

 幸いにも相手は最弱のモンスターと言われるスライムが一匹。

 やってやれないことはないのでは?


 最弱のスライムが相手とはいえ、本来ならレベル1の冒険者がパーティを組んで戦う相手らしいが、俺はその普通の冒険者に比べてステータスが高い。

 ………。


 よし、やろう。

 いざとなったら逃げればいいし、何よりあんな最弱モンスター一匹をどうにも出来ないようではこれから先やっていける気がしない。


 だから俺は敢えてスライムの前に飛び出た。


 すると、あまり考える能力がないのか、俺を見つけるなりスライムが一直線にこちらへと向かってくる。

 地面を這うように進んでくると、3メートルほど手前のところで弾けるように飛び上がり、俺の顔目掛けて飛んできた。

 予想以上のスピードで突進してきたスライムの攻撃を、俺はサイドステップにより紙一重で躱す。

 慌てて振り返って再度戦闘態勢を取ると、着地したスライムはもう一度今と同じ飛び上がり攻撃を仕掛けてくる。


 さすがに同じ手を食うか!

 盾でスライムの突進を受け止めると、左腕にずしんと質量が乗りかかった。

 見た目によらず重い攻撃だが、俺の筋力ステータスならどうにかなる範囲だ。

 力任せに盾を振り払うと、スライムは慣性の法則に従って吹っ飛び、地面にぼこりという濁った音を出して激突する。

 動きの鈍くなったスライムにすかさず間合いを詰め剣で薙ぎ払うと、それでスライムは上下真っ二つに割れ、次の瞬間、その場で消えてなくなった。

 後には何も残っていない。


 ふぅ~……。何とかなったか。


 俺は大きく息を吐いた。

 一見して難なく倒したように見えるかも知れないが、本来は四人のパーティで戦う相手だけあって予想していたよりも強く感じた。

 いや、実際強かった。

 駆け出しの冒険者パーティは最初の戦闘で怪我したり逃げ出したりして、そのまま引き返してくることもざらだと説明されたのはあながち間違いではなさそうだ。

 たぶん一番弱いとされるこのスライムでさえ普通の人間には手に負えないだろう。

 そのくらい強かった。

 あくまで『転移者のステータス』だから一人でも何とかなったのだと思う。

 ……ディジーさんがパーティプレイを勧めてくるわけだよ。


 これは少し戦闘というものに慣れた方が良さそうだ。





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