第十八話『冒険者ギルド。奴隷竜の少女‐中編‐』
「それでは気を取り直して説明を続けましょう」
ディジーさんは受付に戻ると再び営業スマイルを浮かべてそう言った。
「まず、冒険者ギルドに入った際のメリットを説明させていただきます。冒険者ギルドでは各方面から舞い込んでくる依頼を『クエスト』という形で冒険者に提供いたします。このクエストを達成することで冒険者は報酬を受け取ることが出来るのです。また、ダンジョンで手に入れた素材などの買い取りなどもやらせていただいております。これらの点においては全て冒険者ギルドならではの特権だと思って下さい。個人で依頼を取ってくるのは難しいですし、素材の買い取りに関しても各店に直接持ち込んでも足元を見られることが多いにあるのでおすすめは出来ません。他には各種情報提供などもやらせていただいておりますので、よほど顔の広い方以外は冒険者ギルドに登録しておいて損はないと思いますよ?」
なるほど。王城の座学で習ったことよりも詳しく説明してくれたからよく理解出来た。
確かに冒険者ギルドに登録しておいて損はなさそうだ。
「デメリットは登録料と年会費にそれぞれ銀貨3枚かかることくらいですね。まあ、たった銀貨3枚で冒険者ギルドの恩恵を受けられると思ったら安いものだと思いますよ?」
そう言われて俺はハッとする。
……あれ? 俺、お金持ってなくない……?
王城では何でもただで貰えたので、お金を持つ必要なんてなかったから……。
ど、どうしよう……?
すると俺の暗い雰囲気を察したディジーさんが訊いてくる。
「もしかしてお金を持っていないんですか?」
……その通りです。
はぁ、冒険者ギルドの登録は一旦諦めるしかないか。
「この文無しが!」とか言われる前にさっさと退散しよう。
俺が踵を返そうとしたところで、しかしディジーさんは言ってくる。
「実は無料でギルドに登録出来る方法もあるにはあるんです。その方法をお聞きになりますか?」
なぬ? そんな方法があるのか?
もちろん俺は首を縦に振った。
「そうこなくっちゃ! あ、別にそう難しい方法でもありませんよ。ある方法でステータスを確認させてもらって、一定以上の数値が出たら無料になるんです。強い冒険者と提携出来るのはギルドとしても得ですからね。もちろん年会費も無料ですよー」
ほう。そういうことか。
しかし、ステータスの確認かぁ……。
「ただ、この方法をあまり好ましく思わない冒険者もいらっしゃるんですよ。ステータスといったものは冒険者にとって命綱も同じですからね。いくらギルド相手とはいえステータスの詳細を知られてしまうことに抵抗がある人もいるようです。もちろんギルドはお客様の個人情報を漏らすことは一切いたしませんからご安心ください!」
……なるほど。やはり俺と同じようにステータスの開示に抵抗を示す者はいるようだ。
特に俺の職業の竜騎士は『伝説職』だ。
そんな情報が流れたらどうなるか分かったものではない。
特に王城に知られてしまったら大変なことになる。
なるべくなら秘匿したいのだが……。
「あなたがどんなステータスを持っていたとしても、当方は絶対に情報を漏らしません!」
思ったよりもディジーさんがぐいぐい来る。
『あれ? この人、ステータスを開示することを躊躇ってる? ということは強いのかな? ギルドとしてはそんな逸材逃がしません! ええ、逃がしませんよ!』という気迫がひしひしと伝わって来て怖い……。
しかしこのままではどうにもならないのも事実だ。
ギルドの登録料を稼ごうにも、そもそも俺が稼ぐ方法は冒険者ギルドに登録した後にしかないのだから。
取りあえずダンジョンに行って素材を取って来たとしても、自分でお店に売りに行くなんて俺には無理だし……。
……はぁ。背に腹は代えられないか。
俺はディジーさんの提案を受けることにした。
「ふふふ。どうやら受ける覚悟を決められたようですね」
ディジーさんがニヤリと笑う。
なんていうか、商魂たくましいなこの人……。
酒場の方ではそんなディジーさんの様子を苦笑気味で眺めている者もいる。
どうやらこれがディジーさんの素らしい。
ディジーさんは「ちょっと待っていて下さいね」と言った後、奥から何かを引っ張り出してきた。
その『何か』は石版だった。大きめの本くらいのサイズがある石版だ。
ディジーさんはその石版をカウンターの上に置くと説明してくる。
「よいしょっと……ふぅ。じゃーーん! これこそがステータス読み取り機能がある『祝福の石版』なのです! 冒険者ギルド以外では王宮くらいしか持っていないだろう超レアなアーティファクトなんですから!」
ディジーさんは得意げに言ってくる。
なるほど。王城で俺たち転移組がお世話になった石版と同じ類のアイテムか。
しかし王城で見たものよりもサイズがかなり小さい。
「この石板に手を触れていただくとステータスが数値となって出てくるのですよ? どうです、凄いでしょう!」
知ってまーす。
でも得意げに(薄い)胸を張っているディジーさんが可愛いのでそんなこと言うつもりはない。そもそも喋れないけど。
「さあさあ、どうぞ、触れてみてください!」
ディジーさんは石版をぐいっとこちらに押し出してくる。
その顔は「どんなステータスが出るのかな?」とワクワクした表情をしていた。
……本当に情報を秘匿してくれるんだよね?
俺は若干疑いながらも石版の端に手を触れた。
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如月リク 15歳 人間族 男 レベル1
職業:竜騎士(伝説職)
筋力:115
魔力:102
体力:110
防御:105
敏捷:116
魔耐:105
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レベルとステータスは前回と一緒だが、スキルや成長率の値が出ていないな……?
もしかして王城にあった石版よりも性能が悪いのだろうか?
しかしそれについての説明は今回は控えさせていただく。
何故ならディジーさんが大変なことをしでかしてくれたからだ。
「りゅ、竜騎士ィ!!?」
ディジーさんがこれでもかというくらいの大声で叫んでいた。
その声は酒場の方にも届いていおり、「は? 竜騎士?」みたいなざわめきが起こり始めている。
ちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
何してくれてんのこの人!?
さっき情報を秘匿するって言ったばかりでしょうが!?
するとディジーさんがようやく自分のしでかしたことに気付いたのかハッとなる。
ディジーさんは俺と酒場の方と交互に見て、「っべ~、やっちまった~」みたいな顔になっていた。
そして、どうするのかと思えば、
「りゅう……きし……キシシシシシシシシシシシシッ!」
ディジーさんは誤魔化すようにして奇妙な笑い方をし出した。
いきなり変な笑い方をし出したディジーさんに酒場にいた者たちは一斉にぎょっとした顔をする。
「ついにおかしくなっちゃったか」とか聞こえて来るけど、普段この人どういう評価を受けてるんだろ……?」
「ふぅ……どうやら上手く誤魔化せたみたいですね」
ディジーさんはとても良い顔で額の汗をぬぐっていた。
いや、みんなあなたのことを心配そうな顔で見つめてるんですけど……。
誤魔化される方も誤魔化される方だが、そもそも酒場にいる冒険者たちは俺みたいな線の細い男が竜騎士だなんて微塵も思っていないようだった。
「でも……このステータスは本物……? いえ、石版に壊れた様子はありませんし、やはり本物としか……」
その後ディジーさんはぶつぶつ独り言を呟いていたが、やがて何かを決意したような瞳を向けてくる。
そして徐に口を開くと、このように言ってきたのである。
「竜騎士キサラギ……いえ、リクさん。もしよかったら、わたしと専属契約を結んでいただけませんか?」




