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第十六話『これからの目標。相方の竜』

 ビッグクレパスから旅立った俺は、アーティア王城とその城下町を迂回する形で通り抜けた。

 恐らく俺は死んだということになっているだろうからこれ以上の追手はないと思うのだが、万が一俺の顔を知っている者がいるとも限らないので王都の城下町には入らなかった。


 そして俺はそのまま『迷宮都市ボア』を目指して北に向かっていた。

 迷宮都市ボアは王都アーティアから馬車で一日の距離にあり、その名の通り都市の中にとあるダンジョンを抱えている。

 そのダンジョンの名は『風の迷宮』。

 教皇が言っていた六大ダンジョンのうちの一つである。

 俺は当面その『風の迷宮』でレベルアップに勤しみつつ、ダンジョンのクリアを目標にしようと思っていた。


 そう考えたのにはいくつかの理由がある。


 一つ目は(けい)条院(じょういん)のことだ。

 俺はあいつがあんなにヤバい奴だとは思わなかった。人を見る自信がある俺でさえそうなのだから、恐らく他の皆も同じだろうと思う。

 そうなると他の奴はどうでもいいが、姫宮や風早のことだけは心配だった。

 しかし今の俺にはどうすることも出来ない。


 もう一つはマリーさんのことだ。

 マリーさんにだけは俺が無事であることを伝えた方がいいかと思った。

 しかし俺は思い止まった。

 もし仮に今王城に戻ってマリーさんに無事を伝えようとして万が一掴まってしまったら、結局は元の木阿弥。

 あの人のことだ。その時は全力で俺の無実を晴らそうとしてくれることだろう。

 そうなったらマズイことは先に言った通りだ。


 つまり姫宮や風早を救い出すにしろ、マリーさんに無事を伝えるにしろ、今のままの強さの俺ではどうにも出来ない。



 そしてここで話を元に戻すが、これから先を生き残ることを考えても結局俺はある程度は強くならなければならない状況にある。

 何故なら冷静に考えて、俺がこの異世界で飯を食っていくにはやはり冒険者をするしかないからだ。

 というか他の仕事に付ける未来が見えない。ご存知の通りコミュ障ですので……。


 それと一応頭の片隅に置いているのが『元の世界に帰る方法』だ。

 教皇は言っていた。『六大ダンジョン』で六つの聖遺物を集めれば元の世界に帰れると。

 もし、どうしてもこの世界に馴染めない場合にはやはり俺は元の世界に帰りたい。ネット社会で快適引きこもりライフが俺に一番適しているのは間違いないんだから。

 その観点から言っても冒険者として強くなっておくことは悪くない話だった。


 これら全ての観点を鑑みた上で、俺は取りあえず迷宮都市ボアに向かっているというわけだ。

 先程も言った通り、ボアには六大ダンジョンの一つである『風の迷宮』がある。

 当面はそこでレベルアップに勤しみつつ、強くなろうじゃないか。

 強くなって得をすることはあっても損をすることなんてないのだ。


 ………。


 などと意気込んでいますけど~……。

 ……本当は目を逸らしていることがあるのは分かっているのです。

 強さを望むのであれば、俺が真っ先に向かうべき場所はボアではなく『竜の谷』であることを。

 あの時、螢条院は言っていた。竜騎士は竜に乗るとステータスが倍になると。

 ……変だと思ったんだよ。いくらなんでもステータスが弱すぎるもん。

 今のステータスは本来の数字の半分しか表示されていなかったのか。

 となると、これから強くなるに当たってどう考えてもまず竜と『契約』するべきだった。


 強くなるにしろダンジョンを攻略するにしろ相方の竜は必須。

 もうそれは疑いようのないことだった。

 まったくもって正論だ。

 それは分かっているのだが……。

 のだが……。

 ………。

 …………。

 うん、ムリ。

 だって竜と喋るとか出来ないもん!

 俺は人間とすらまともに話せないんだよ!? その俺が竜と話すなんてことが出来るわけないっしょ!?


 なにせ話術スキルがマイナスに振りきれていますからねえ。そんな俺が下手に喋ろうものなら逆に竜との関係がこじれかねないというわけですよ。

 もしそうなってしまったら未来永劫竜と契約出来なくなってしまうかもしれないんですね?

 だったらまず俺自身が問答無用で竜に認めてもらえるくらい強くなるしかないと思うのですよ。

 そう、問答無用というところがミソなのです。

 無言で威圧して竜王の方から「契約して下さい」と言わせ無言のまま契約させるのです。

 いつしかそんな日が来ることを信じて俺自身が強くなるしかないのです。

 だから俺はまず『風の迷宮』に向かうことにしたのです。

 どうです? 完璧な理由でしょう?


 ………。


 もはや誰に対し言い訳しているのかも分からなかったが、どんな理由を付けようとも、序盤から『最強を目指す』という最終目標が遠ざかったことは言うまでもないことだった……。




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