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第十話『竜騎士。策謀』

 翌日になってから竜の契約についてもう少し詳しく聞くことが出来た。

 と言っても契約の仕方自体は不明とのことだった。

 なんでも運命の竜を前にした時に自然と契約は成されるようなことが古い文献に書いてあるようだが、何とも人任せなことに竜に訊けばやり方は分かるだろうと言われた。いや、この場合は竜任せか……。


 そして肝心の竜の居場所についてだが、『竜の谷』と呼ばれるところに多くの竜が住みついているらしい。その中に『竜王』もいるのではないかというのが学者たちの見解だ。

 竜王については千年前に活動記録がある以来、公の場に姿を現していないのだが、しかし竜の谷に住む竜人たちの間で今でも竜王を崇めているという情報があるみたいだ。

 しかもその竜王は千年前から代替わりしていないのではないかというのが概ね大多数の学者たちの意見だという。

 だとしたらその竜王は少なくても千歳を超えているということになるのだが……本当ならさすがファンタジーといったところだろう。


 それと当たり前のように竜王の話をしているが、学者たちも俺の紋章を見てパートナーとなる竜が竜王であるという意見が大多数を占めていたりする。

 竜王の存在自体が眉唾物だが、俺が見た白い竜というのは文献の中でも竜王しか存在しないというのが主な理由だ。


 しかし皆さん全く懸念されていないようだが、俺、竜と上手く会話する自信がないんですけど……。

 せめて誰か一緒に竜の谷に付いて来てくれますよね?

 正直言ってワクワクよりも不安のドキドキの方が大きいよ?

 なんならこのまま竜と契約せずに一人で戦った方がマシではないかというレベルですが。

 ……まあどの道、悪化している人族と竜人族との関係をある程度修復するまでは時間がかかるみたいだし、しばらくは気にしなくていいか。


 そんなわけで俺は今出来ることに集中することにした。



 **************************************



【アーティア王城・女王の間】



 夜が更けてから間もなく。


 女王の個室に三つの人影があった。

 一人はこの部屋の主である女王アルベルティーナ・フォン・アーティア・ジ・ラース。

 もう一人は女王の父でありながら『(かみ)()教』の教皇でもあるベルギウス七世。

 最後の一人は教皇の娘であり女王アルベルティーナの姉にあたる、この国の第一王女エリアンテ・フォン・アーティアである。


 エリアンテが女王である妹と教皇である父に呼びつけられ二人と向かい合っている形だった。


「……それで? こんな夜更けにわたしをわざわざ呼び出した理由を教えていただけまして?」


 エリアンテは不機嫌さを隠そうともせずそう言った。

 特にそれを気にした風もなく教皇が答える。


「実はお前にある役目を負ってもらおうと思ってな」


 その意味深な言葉にエリアンテが眉を顰めた。


「……このわたしに役目ですって?」

「ああ。エリアンテ、お前には竜騎士の少年の元に嫁いでもらうことにした」

「……なんですって?」


 エリアンテは耳を疑っていた。


「……竜騎士って、神の使徒の一人である『あの竜騎士』のことですか?」

「そうだ」

「冗談じゃありませんわ!」


 エリアンテは声を荒げる。


「竜騎士って……ステータスが低いあの出来損ないのことでしょう!? しかも前髪が長くて表情は見えないし、いつも挙動不審で気持ち悪いって噂になってる奴じゃない! どうしてこのわたしがそんな奴と……!」

「エリアンテ」

「お断りさせていただきます!」


 教皇が嗜めようとするがエリアンテは聞く耳を持たない。

 エリアンテは一旦落ち着くと、わざとらしく意地の悪い笑みを浮かべる。


「勇者が相手なら考えてあげてもよろしいですわよ?」

「それは出来ない。勇者の相手は既に決まっている」

「決まった相手? それって、まさか……」


 エリアンテは事の成り行きを見守っている妹の方へ視線を向けた。

 その悠然とした笑みに、エリアンテは全てを悟る。


「……またあんたなの? なんであんたばっかり……!」


 エリアンテは憎しみの籠った目をアルベルティーナの方へ向けた。

 何も持たない自分とは違って、全てを持っている妹へ。


「クスッ、お姉さまは相変わらず見る目がないのですね」

「……な、なんですって?」


 妹から唐突に放たれた言葉にエリアンテは一層柳眉を逆立てた。

 しかしアルベルティーナは微笑みを浮かべたまま淡々と告げる。


「お姉さまはあの少年の前髪に隠れた素顔を見たことがあるのですか? 実際に面と向かったことがあるのですか? 彼が剣を振っているところを一度でも見たことがあるのですか?」

「え……? い、いえ、ないけれど……」

「お姉さまがおっしゃったことは全てまた聞きの表面上のうすっぺらいことばかり。たまにはご自分の目で判断されてみてはいかがですか?」

「! ……あ、あんた~……」


 エリアンテはこれでもかというくらいに妹を睨みつける。

 しかしアルベルティーナは飄々と微笑みを浮かべているだけで表情は崩れなかった。

 教皇はその姉妹の様子に溜め息を吐くと、


「エリアンテ。アルベルティーナの言ったことは正しい。それに、あの竜騎士の少年との婚姻はお前にとっても悪い話ではない」


 父親のその言葉で、エリアンテはようやくアルベルティーナから視線を外す。

 今のセリフに興味を惹かれたのだ。


「……どういうことですの?」

「あの竜騎士は決して出来損ないなどではないということだ」

「……?」

「竜騎士は竜と契約して初めて真価を発揮する。厳密に言うと竜騎士は竜に騎乗していない状態では本来の半分しか力を発揮できない」

「え?」

「分かるか? あの竜騎士の少年のステータスは本来の半分の値しか表示されていないのだ」

「え、うそ? ……じゃあ」

「そうだ。あの竜騎士の少年は勇者よりも強い」


 驚くべき真実にエリアンテの目が見開く。


「さらに、だ。今日学者どもがあの竜騎士のパートナーとなる竜は竜王である可能性が高いと報告してきた」

「りゅ、竜王!?」


 エリアンテは思わず叫んでいた。それほど今の話は信じ難い内容だったのだ。


「どうだ? あの少年の重要さが少しは理解出来たか?」

「………」

「我が国としてはあの少年を取り込んでおきたいのだ」


 エリアンテは視線を下に向けていた。

 彼女は自分の考えをまとめているようだった。


「エリアンテ、行ってくれるな?」


 父親が念を押すように言うと、


「はい」


 エリアンテは遂に頷いた。

 その口元にはうっすらと笑みさえ浮かんでいる。

 それは意外にも満足そうな笑みであった。

 彼女の中で竜騎士の少年との婚姻が悪いものではないという結論に至ったのだ。


 しかし、その答えがこの国の運命を大きく変えることになる。






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