プロローグ
「当宿屋へようこそ。お泊りですか?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「……いや、誰か何か喋りましょうよ」
ローシェが困ったように声を上げた。
只今、宿屋に入ったところなのだが、俺たちは基本的にみんなコミュ障なので誰も口を開こうとしない。
結局ローシェが手続きを全てやってくれる。人のよさそうな宿屋のお姉さんは苦笑気味でローシェの労をねぎらっていた。
俺はいつものように彼女の小柄な背中を見ているだけ。
ローシェの薄い紫色の髪がトップでお団子にまとめられ、綺麗なうなじから二、三本の毛がぴょこんと出ているのが愛らしい。
彼女がこのパーティにいてくれなかったらと思うとゾッとする。実際、ローシェがパーティに入ってくれるまで、宿屋の受付の人と話すくらいなら野宿の方がマシだと考えていた時期があった。そして本当に野宿していた。
……周りを見れば未だに黙ったままの女子が三人。
一人はビクビクしながら俺の陰に隠れている奴隷火竜少女のルゥ。
もう一人は腕を組んで尊大不遜な態度の竜王クルーエル。
最後の一人は元クラスメイトの……。
不意にその瞳がこちらに向けられる。冷えるような視線が俺を貫く。
彼女だけは何故ここにいるのか未だに分からない。
「さあ、手続きが終わりましたよ。みなさん部屋に行きましょう」
ローシェが振り返ってそのように声をかけてくるが、
「………」
「………」
「………」
「………」
「……せめて身内にくらい反応しましょうよ」
竜王の『お付き』である飛竜少女のローシェは深い……それはもう深いため息を吐いた。
――コミュ障は異世界のテンプレを全てぶち壊す。
――コミュ障竜騎士は竜とコミュニケーションが取れない。
それなのにどうして『竜』である彼女たちは俺の側にいてくれるのか……?
俺はこの世界に来てから彼女たちと出会うまでの軌跡を思い返す。