ダンジョンで魔物がドロップする理由
ある時、ある世界の知的生命体の間で、『同族喰いをやめよう』という機運が高まった。
この場合の同族とは、同じ星で発生したあらゆる生命体、という意味である。
しばらくは合成食でやっていたが、やっぱり物足りない。
その世界の住民がそう思うようになった頃には、同族喰いは絶対的なタブーと化していた。
有権者たちの突き上げをくらい、重い腰を上げた政府は、全力を費やし、『異世界ゲート式物質転送交換システム』を開発した。
異世界の生命体は異世界発祥なので同族ではない。
だから同族喰いのタブーには引っかからない。
問題は異世界ゲートが生きているものを通さないということである。
政府の計画によって、まず自己複製機械と設計図がゲートから異世界に送り出され、現地に原生生命体の養殖施設(ダンジョン)が建造された。
ついで、現地の知的生命体に異世界間感応通信(天啓)で話しかけ、養殖施設の管理人(ダンジョンマスター)として雇用。
報酬などの契約を詰め、養殖施設が稼働を始めると、日雇いバイト(冒険者)が獲物を屠殺しにやって来るようになった。
「No.552、本日の目玉『バグベアード』! 傷なし! 5000イェンから!」
「5500!」
「5800で!!」
「本日の目玉って言いたいだけやんけ(笑)」
「まあ確かに目玉だな、6000!」
屠殺された獲物(家畜ならぬ迷宮蓄)は異世界ゲートによって転送され、競りにかけられる。
値はピンキリだが、傷の有無と希少性(より美味い、あるいは珍味である)、季節(端午の節句にはスライム餅を食べよう!)によっておよその相場が決まっている。
そのため競りが長引くことはほとんどない。
競り落とされた迷宮蓄は解体施設に運ばれ、すぐさま解体される。
「おっ、でっかい魔石が出たのぉ。およそ3000イェン相当かのぉ?」
「じゃあ、肉は全取りだな」
「骨と皮はこっちで処分っすか?」
「処分するにも費用がかかるし、転送枠に空きがあるなら送り返しちまいなぁ」
「了解、バイト君(冒険者)ラッキーだったっすね」
世界のあちらとこちらでの迷宮蓄の分配は契約によって決まっている。
当然ながら可食部分は優先的に買い主に分配され、残った部分が再び異世界ゲートを通り、ダンジョン(養殖施設)で戦闘を終えた冒険者(バイト君)の前に出現する。
「おっ、魔石と皮が取れた!」
「レアドロップじゃねーか!」
「ドロップ率アップ(微増)も伊達じゃないねー」
ドロップ品は綺麗に洗浄され(契約のうち)、しっかりなめされ(金額あわせ)、きちんとたたまれ(サービス)ている。
だが冒険者たちは誰も不思議には思わない。
なぜなら、ダンジョン(養殖施設)とはそういうものだから。
「そういえば王都の偉い学者先生がダンジョンがなんなのかを調べるって依頼を出してたな」
「またかよ。頭イイ奴の考えることはわからんなぁ」
「まぁ、ダンジョン教みたいに神聖視したうえ、冒険者の邪魔をするような奴らよりかはマシだけどな」
「たしかに」
冒険者にとっては、ダンジョンが何なのかよりも、解体の手間が省けて手が汚れないことのほうが大切なのであった。
あと、ドロップ率。
「でも、たしかに不思議だよな」
「なにがぁ?」
「モンスター(迷宮蓄)の肉のほとんどは、いったいどこにいくんだろうなって」
「言われてみれば……なんで肉はあんまりドロップしねぇんだろな? ちょっと釈然としねぇぜ」
冒険者にとって大切なのはダンジョンが何なのかではなく、ドロップ率なのである(大事なことなので二度言いました)。