表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

THE・ゴリラ ~大胸筋を求める者達へ~

作者: 野良ウサギ

 ……森林に囲まれた緑豊かな空間で俺は目を覚ます。ここは、森なのだろうか。太陽は真上にあるらしいが、木々に覆われていてほんの少ししか光が差し込んでいない。

 さて、なんで俺はこんなところで寝ていたのだろうか。酔っ払って森の中に入りこんだのだろうか。俺は右腕で地面を叩きつけ、起き上がる。


 そこでふとあり得ないものが目に入った。毛むくじゃらの左腕だ。そして、触覚が、視覚が明らかに俺の腕だと証明している。

 なんだ!? 俺は慌てて駆け出す。しかし走れど走れど景色は相変わらず木々だらけだ。そしてやっとのこと湖を見つけた。

 俺は自分の姿を確かめるため湖に自らの体を投影する。


 そこに映っていた姿は…… ゴリラだった。何を言ってるか分からないと思うがゴリラだった。ありえないと思うがゴリラだった。

 えっと…… 先祖返り? いや人類の先祖はゴリラじゃない。俺は見当違いな考察を続ける。

 そしてやっとのこさ諦めると、改めて自分がゴリラだということを認識した。


 自分がゴリラ、つまりこれが意味することは…… リンゴを素手で握り潰せるということだ! 俺はハイテンションで木の実を探しに行く。

 おお、手のひらが大きいからか木の実が小さく感じるな! そして木の実を手のひらに乗せて握りしめると、手のひらが湿った。当たり前だ。


 ここで俺はハッとする。いかん、現実逃避している場合ではない。落ち着け、俺は寝る前まで何をしていた?

 えっと、忘年会で酒を飲みまくって、そこから記憶がぶっ飛んで…… よし、思い出せない。


 ただ確実なのは、自分がゴリラだということだ。……誰かぁあああああああ!!! 俺は無我夢中で走り出す。心の安寧を求め、人を、誰でもいいから人を探し出した。自分はゴリラだというのに。


 ここは森。適当に走ったところで人に出会える筈はない。しかし、走りを止めるときは唐突にやってきたのだ。

 走る先の脇道から、ゴリラが出てきた。銀色の毛皮をしているゴリラだ。俺はぶつかりそうになり、急ブレーキをかける。地面は俺の拳と足で大きく抉られていた。

 こちらに気づいた銀色ゴリラはこちらへと向き直る。


 くる……! 俺は慌てて逃げの体勢を取るが、次にあり得ないことが起きた。


『ふむ、いい大胸筋をしているな……』


 なんと、ゴリラが喋ったのだ。俺はその事実に驚くと共に逃げ出すのだが、目の前の木に気づかず、全力衝突してしまうのだった。

 その木は細かったのか、メキメキと音を立てて崩れてゆく。後ろからゴリラの重厚な足音がする。あぁ、俺もここで終わりか。

 そう諦め、銀色ゴリラの方を見ると、ヤンキー座りもどきで俺の方を向いていた。そして不敵な笑みを浮かべている。

 俺は疑問符を浮かべ、銀色ゴリラへと向き直る。そして、銀色ゴリラが口を開くと


『ふむ、お前なら俺の敵に相応しい。おい、名を名乗れ』

『く……来栖クルス ケイだ』


 名を問われ、俺は戸惑いながらも答える。すると銀色ゴリラは頷き、筋肉質な右手で俺を指差し、高らかに宣言した。


『我が名はシルバ。ケイよ、貴様にドラミングバトルを申し込む!』

『はい?』


 突如聞き慣れない単語が出て、俺は反対側に首を傾げ直す。しかしシルバは承認として受け取ったのか、体を大きく構え直した。

 両手を左右に大きく広げ、手のひらで大胸筋を叩き、けたたましい音色を奏で出す。


 当の俺はその音に戸惑うでもなく、脅える訳でもなく、ただただ惹かれていた。俺はドラミングの音色を通し、広大な世界を見るのであった。

 ふと、ドラミングの音色が止む。


『おい、貴様もさっさとドラミングを奏でるのだ!』


 その時既に、俺の脳から疑問という文字は抜けていた。俺の本能が、ドラミングを極めろと、そう叫んでいたのだ。

 俺は両手を大きく広げ、全力で大胸筋を叩く、叩く、ただただ叩く。

 シルバも後に続き大胸筋を叩き、叩き、ただただ叩き、俺とドラミングハーモニーを奏でだすのであった。


 どれだけ経っただろうか、気がつくと俺の腕は痺れ、大胸筋は悲鳴を上げ、足で立つことさえままならなくなっていた。シルバも天を仰ぐように大の字でぶっ倒れていた。

 はぁ、動けない。俺は倒れるように木に寄りかかる。そして少しすると、シルバが顔をこちらへ向け、小さく震えている右手でグーサインを出した。

 俺はそれに対し頷くことで応じるのであった。


 俺達は互いに笑い合うと、深い深い眠りに落ちるのだった。



 そして目が覚めると、太陽が真上にあった。一日、一日以上寝続けていたのだろう。そして俺は右手をあげ、見つめると大きく手を開き、大胸筋を叩いた。あぁ、ドラミングの音だ。心地よい。

 その音を聞きつけたのか、シルバが再びこちらへとやってきた。そして、右手を俺に差し出す。


 もう俺達に言葉など必要ない。俺はその右手を強く握り、起き上がる。

 さぁ、シルバよ、行こうではないか。最高の大胸筋を求めに、至高のドラミングを奏でるために!

さぁ、皆もレッツドラミングだ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ゴリラ間に友情が芽生えるストーリィーに爽快感がありました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ