第四話
初めに少年を見つけたのは、町の人でした。
その人は町の門番で、太陽が昇り始めた早朝に町の出入り口にある石の門の扉を開けようとしたときに道の真ん中にしゃがんでいる、見たことのない子供を見つけました。
彼は毎日町に誰がやってきて誰が出ていくのかを見てきましたから、その子供が町の子供ではないことがわかりましたが、しゃがんでいる子供が誰かはわかりませんでした。
それにその子供は子供と言っても十歳は軽く超えているだろに、五、六歳の小さな子供がするように棒きれをもって地面に絵を描いているのです。
地面といっても冬が続く町の道は雪が積もっています。
それをわざわざ端っこに寄せたうえで地面に絵を描いているのですから、門番がおかしく思うのは当然でした。
いったい何をしているのだろう。
門番は注意深く子供を見ていましたが、じっと空を見たと思えば忙しなく地面に絵を描き始めたり、考え込んだりしていたので、大した害はないだろうとほっておくことにしました。
やがて少年は満足げに頷くと、町の反対方向にすたすたと歩いていきました。
いったいなんなんだ?
門番はまったく訳が分かりませんでしたが、町に入ろうとする人たちが次々とやってくるのでそちらに気を取られていくうちに変わった少年のことなど忘れてしまいました。
次の日、門番が仕事に町の端にやってくると、昨日の少年が大きな雪かきで雪を集めていました。
道の雪を集めているのはいいのですが、集めている場所が道の真ん中では通行の邪魔になってしまいます。
門番が注意をしに行くと、少年は雪かきの手を止めて門番に言いました。
「ここしかないから」
だめだだめだと何度注意しても少年は手を休めません。
それどころか集めた雪の上を平らにならして固め、その上にさらに雪を載せました。
慌てた門番が少年の集めた雪を足でけって散らかしても、少年は場所を替えて何度も何度も雪を集めては固めていきます。
いたちごっこです。
それは太陽が西の山陰に沈むまで行われました。
次の日、門番が仕事にやってくると、雪はすでに道の真ん中に集められ、固められていました。
呆気にとられた門番が少年を探すと、少年は雪を他の場所から持ってきたのか雪がたんまりと入ったバケツを持って現れました。
「おい!これはいったいなんだ!?」
門番が叱っても少年はそ知らぬふりをして雪を積み上げていきます。
「こういのは得意じゃないんだけど」
はあはあと白い息を吐きながら少年が呟きながら雪をなんどもなんども運んできます。
じゃあ今すぐやめろよと門番は唸りましたが、少年は門番の言葉を聞こうとしません。
そうしてその日も門番と少年のいたちごっこは続きました。
次の日も門番が仕事をしようと門までやってくるとすでに少年は門の前にいて、雪を集めていました。
どれほど門番が雪を蹴散らしても少年は諦めず、雪をあっちこっちから運んできては積み固めていきます。
次の日も、その次の日も、門番が朝やってくるころには固めた雪は多くなり、高くなっていきました。
そして少年のことは雪で閉ざされた町の人たちの格好の噂話となりました。
誰かが言いました。
あの雪遊びをしている少年は、薪売りの息子だと。
もう働ける歳なのに家に籠ってばかりいて、ひとり親の母親の手伝いもしない厄介な子供だと。
――――そういえばあの子供は村では「いくじなし」だとか「ただめしぐらい」だとか言われている。
何だ、村でも厄介者か。
厄介者が町に出てきて何をしているんだ。
どうせろくなことないよ。
ごくつぶしだったらごくつぶしらしく家からでてこなければいいんだ。
ああ、そろそろ薪がきれるころだけど、あの子の家の薪なんて買わないでおいた方がいいな。
そうだね。あの子の家の薪をつかってあんな子に育つなら、うちの子もあんな子になるかもしれない。
町の人たちは雪のせいでうんざりしている気持ちを、わけのわからないことをしている少年にぶつけてきます。
大人たちがそうなのですから、子供たちは自分たちより年上の少年だというのに平気で馬鹿にします。
「やーいやーい、いくじなし!」
「おまえなんか、どっかにいっちゃえ!!」
「雪、集めてんだろ。ほら。もってきたやったぞ!」
そういって少年に雪のつぶてを投げつけます。
少年はその雪さえもかき集めて、均した雪の上に積み上げます。
文句ひとつ言わず雪を集める姿が面白くて、子供たちはいたずらを繰り返しました。
何度崩されても、何度怒鳴られても、何度雪をぶつけられても、少年を雪を集めることをやめません。
町の人たちは呆れて、最後には面白がって少年を見るようになりました。