通学路で
あれから1ヶ月が経った、色々説明や訓練を受けて今、俺は入院後の初登校だ、頭の中のシミュレーションはカンペキだ。
それにこの薬、『対恋愛フラグ薬』がある、先生曰く「病気を一時的に抑える薬」だとかで効果は不特定多数の女性と接触してもある程度は大丈夫とのこと。
こんな便利な薬があるのならこれだけでいいと思うのだが世の中そうはいかない、この薬は劇薬らしく1日1錠かつ半日しか効果を維持できないとの事、それと『ある程度は』とは挨拶や日常会話程度などは大丈夫だが友達感覚での距離感だと効果がないと説明された、ちょっと線引きが難しい。
早速1錠飲んでカバンを持つ、深呼吸だ、久しぶりの登校に心臓が音を立てている。
「ケイター忘れ物ないー?」
「ないよ、準備万端だよ」
今、ボロいアパートからすぐ近くのちょっとお高めのマンションに引っ越した後の家の玄関に俺はいる、
勝手は前の家とは違うが随分広く思う、今日から学校へ行く、それだけで少し不安が湧いてくる。
自分は大丈夫か・・・上手くやれるか・・・いや、大丈夫!この1ヶ月あれだけ辛く苦しい訓練を受けてきたんだ!自信を持て俺!
「学校終わったら病院へ行くのよー」
「あーいー」
気軽に会話を交わし玄関のドアを開ける、よし!出発だ!!
「あ、おはよう!待ってたよっ!」
早速のエンカウント、今の気分はRPG最初の雑魚敵が中ボス位だった気分だ、目の前には引っ越す前の隣に住んでた幼馴染、『羽付 香』だ、髪が長く身体は小さいがスタイルは良く顔面偏差値は余裕の難関学校トップ合格できるレベルの美少女がいる。
小さい頃は一緒に遊んだ記憶があるが年月を重ねる内に会話も減少していき、今じゃ会ったら会話どころか挨拶すらない間柄である。
「ああ、おはよう、どうしたの?珍しいね」
「ケイタが入院したっておばさんから心配になって来たんだっ!」
「そっか、カオリ、心配してくれてどうもありがとう、もう大丈夫だから気にしないでいいよ」
「う、うん、なんか冷たくなった・・・かな?」
「そう?別に変わらないと思うけども」
あくまで他人行儀に接していく、これも考えていたパターンの一つだ、小さい頃は仲良くしていたけども今はそうじゃないですよ雰囲気なのを今俺は出している、頭のいい彼女もまた、その雰囲気に飲まれたのか目を所々に動かしながら言葉を頭の中で選んでいるようだ。
そしてここから先は予想出来る、間違いなく『心配だから一緒に学校行くよっ!』だ、勿論手は打ってある、クックック・・・これまでの1ヶ月間の訓練・・・余すところなく発揮してくれるわっ!!!
「そっか、一応心配だから私も一緒に行くよっ!」
予想はしてた、やはりな!だが甘い・・・俺と一緒に学校へ行こうだと?甘いわ!この病気の地雷原を裸足で走るような行為なんて俺はしないね!!
「悪い、学校まで歩いて行くの辛いからさ、今日から『一人で』自転車通学することにしたんだ」
そう、これが打つ手、ウチの学校は距離で自転車通学かどうかが決まる、勿論カオリや自分の家の距離では自転車通学は出来ない。
・・・なら病人かつ歩くのが辛いからって理由で長期の自転車通学を担任に報告し許可を貰う、
これならカオリにも不快感を持たせずに断り、かつ朝の接触を避ける事が出来る。
我ながらカンペキな考え、自分が怖くなった。
「そ、そっか、残念だなっ!久しぶりに一緒にいけると思ったけど仕方ないねっ!」
確かに俺も残念だ・・・この病気になる前だったなら『あれっ?こんな可愛い幼馴染のこの子は俺に気があるの?』って嬉しい勘違いする事も出来たろう・・・がダメっ!!今はダメっ!!
今の状態じゃ、そんな可愛い顔を向けても気持ちが揺らぐどころか逆に準備してきた甲斐があったぜ!!くらいな気持ちしかわかない。
「うん、そういう訳で俺は先に行くね、また学校で」
そう捨て台詞を吐き、我が愛車『近所迷惑2号』に乗り込む、なお近所迷惑の名前の部分はブレーキ劣化でキキッーとうるさい音がするからである。
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学校までの道のりは自転車なら割りと早く、歩くならそこそこの距離、俺は交差点を渡り全神経を研ぎ澄ませて曲がり角に意識を向ける・・・
勿論フラグ回避の為だ、最初のエンカウントは難なく撃破し次なるフラグ回避の為に自転車を止める、ここはT字路、確実に角から女の子がパンを銜えて突っ込んで来る魔の道だ。
「遅刻、遅刻ー」
ほうらきた、何が遅刻だバカ野郎、HRまでまだ1時間もあるぞ、時計壊れてるんじゃねーのかバカめ!!
俺は自転車を壁に掛けて角に背中を預け待機する、まだだ、まだ早い、奴がくる瞬間を見極めろ・・・
「遅刻、ちこ・・・キャ!」
声の主は俺と言う突っ込む対象が居ないとみるや、目の前の石に足を取らて転ぶ方にシフトチェンジしたようでハデにすっ転び、スカートをまくり上げる、色は水玉模様だ!
よし!回避した!これで大丈夫!
俺はすぐ自転車に乗り、何事もなかったようにペダルに足を掛けて彼女の脇を通り抜けるその瞬間!!
ドンっ!と何かが横腹に突き刺さる!横腹が痛い、完全に何かがぶつかってきた、チクショウ!なんだって言うんだ!
頭の中がパニックだが身体を起こし、深呼吸する、立ち上がると倒れている自転車の下に先ほど転んだ彼女と同じピンク色の髪色をした子が倒れ込んでいる。
くそっ!!双子のダブルトラップかっ!!やられたっ!!
俺は腕で顔を隠しながら自転車を持ち上げ彼女を助け起こす、これはダメな行為だがここで見捨てると後でもっとひどいフラグが立つかもしれない、くそっ!この病気の事を侮っていたかもしれない!まさかここまでとは・・・
「イタタタタ・・・」
「大丈夫か?ケガはないか?」
「あ、ごめんなさい・・・あ、パンが・・・」
ペチャっと地面に落ちている食パンが彼女の目線の先にある、ちぃ!こっちがパン持ちだったか!!
「あわわ、ミズキちゃん大丈夫?おねーちゃん心配だよ!」
「うん、カズキちゃんも大丈夫?ハデに転んでたけども・・・」
「うん、私は大丈夫だよ!それで君は大丈夫かな??」
「あ、ああ大丈夫、それじゃ、俺は行くから・・・」
こんな場所に1秒たりとも居たくねぇ!俺はこんなフラグが乱立している場所から一刻も早く離れてやるぜ!
そう思いつつ、自転車に乗りとっととこの場を離れようとする、がダメっ!進まないっ!チクショウ!!チェーンが外れてやがる!これはファックですよ神様!
「ああ・・・本当にごめんなさい!自転車を壊しちゃいました!」
だが俺はここで慌てるようじゃぁこれまでの訓練の意味がない、つまりはだ、自転車を持ち上げここから退避すればいい!
置き勉なんてしない物だからか、カバンの中には今日分の教科書が入っており、かなりの重さがあるし、自転車は持つ所によっては持ちあげずらくそれも相まって相当の重さが腕を苦しめているが、泣き言は言ってられない、この先もっと大変な思いをするだろう事に比べればこんなもの筋トレ前のストレッチ程度のレベルだ。
幸い顔は見られていない事から、この二人とは縁がなかったとそう思える、残念だったな双子・・・俺にフラグを立てるのは100万光年早いぜ!
「わーわー、ちょっとーキミーまってー」
「わぁーはやーい」
会話なんてしない、無駄な事は極力省いていく、これでいいのだ、いつもならとっても大変すっごく嬉しいのだけども今は本当にやっちまった!!としか思えないようになっている、この病気!なんて恐ろしいの!!
声のが発信源が遠くなっていく、幸い追ってくる様子はないようだ、完全にミッションコンプリートだ。
だが、やはりこの病気、そんな稚拙な考えでは到底太刀打ち出来ない事だとわかるにはそんなに時間は掛からないのであった。
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「ううっ・・・やっと校門だ・・・」
自転車を担ぎ息を切らしながらもなんとか校門前に到着し一息つく、さぁここからだ、ここから最大の試練が俺を待っている。
俺は朝の陽ざしを受けた校舎を見上げ気持ちをさらに引き締めて自転車を担ぎ上げて歩いていく。