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反応がない。ただのし(ry

「美少女達がバスケする話って、二番煎じ感がすごいわよね」

「……いきなりどうした」


俺が富川第二中女子バスケットボール部の指導を初めて一週間が経過したある日の事だった。フットワーク練習のあとの休憩中に灯は突然そう言って話しかけてきた。


「いえね、年上のお兄さんが花も恥じらう可憐な女の子に手取り足取りねっとりとバスケを指導するっていう今の状況が、昔読んだロリコメにそっくりだと思って」


ロリコメとは、ロリコンコメディの略か。と言ったらもうあれしかないですな。


「でも、あれは小学生だけどお前らは中学生だろ。後、諸々に調整を入れて、そことはちゃんと差別化を図ってるつもりだ」

「フフフ、もうメタ発言過ぎてこれ以上は話さないけれど、そもそも私が言いたかったのはね……」


そして灯は――先ほどから床に這いつくばったまま言った。


「練習、キツすぎやしないかしら?」


体育館は6人の少女の死体が散乱していた。いや、流石に表現が悪いか。6体の骸が横たわっていた。いや、そんな変わらんな。

俺は灯の次に俺の近くにいた真冬の傍にしゃがむ。軽く小突くが、ピクリともしない。


「……反応は無い。ただの屍のようだ」

「おおう……死体蹴りを始めるとか、お兄たまはドSなんですねわかります……」

「うるせえ。俺はお前のお兄さんじゃねえ」

「ハアハア……、くっ……。自分の力量不足に腹が立ちます……」

「やべー……、きちー……」


今喋っていた4人は運動神経も悪くなく、比較的まだ元気だが、元々運動も得意ではなく、しかもバスケ初心者である残りのもえと奈央はかなり疲弊しきっていた。


「はあはあはあはあはあ……」

「……うぷ」


もえは過呼吸寸前といった様子で酸素スプレーを吸引し、奈央は口元を抑えると、よろよろとトイレに向かって歩いて行った。


「私たちはともかく、あの二人に、この体罰で訴えられてもおかしくないレベルのフットワーク練習はオーバーワークだと思うのだけれど」


ようやく少し回復したらしい灯が歩いてくる。


「甘いな。お前らが普通に仲良く楽しくバスケするっていうなら俺もここまではしなかったが、お前らの目標は全国と来た。6人というメンバーに、しかも初心者もいるとなればこれくらいの練習、やってももらわなくちゃ困る。――まあ、しかし体を壊しちまったら元も子もないしな。もえ、今日はここでやめておくか?」


俺は視線を下げ、座り込むもえに問うと、もえはこちらを見上げた。

未だ酸素スプレーを手放そうとはしないが、その瞳は俺の言葉への強い拒絶を現していた。

トイレから帰って来た奈央も、無機質ながらも強い信念を感じる瞳でこちらを見る。どうやら、根性だけはこいつらも他には負けていないらしい。

ふん、と俺は小さく笑う。休憩終了のブザーが鳴る。それと同時に大声を張り上げた。


「――よし、休憩終わり! 次はスクエアパスだ! 全員四隅に並べ!」

『はいっ!』






スクエアパスとは、長方形の四隅に人が並び、パス&ランでそこをグルグルと回るパス練習だ。相手の動く先にパスを出す技術であるリードパスを学ぶのに最適な練習だ。

これは本来、8人くらいでやる練習。しかしここに選手は6人しかいない。したがって、当然順番が回ってくるのも早く、その分きつい。


「奈央、走るのが遅い! もえも、そんなへなちょこパスじゃ走ってる奴に届くわけないぞ!」

「「はいっ!」」

「来夏はパスが雑だ! チェストパスが基本だって話したろ! 二年生はいいぞ、その調子だ!」

「「「はいっ!」」」

「フフフ、兄さん。私には何かないの?」

「……お前はいちいち俺に流し目を送るな」


ううむ。それにしてもうちの妹は上手い。とても今年バスケを始めたばかりとは思えない。

運動神経もトップクラスだし、才能の塊だなあいつは。

スクエアパスの次はレイアップ。最近はこれを重点的に練習している。

ディフェンスはフットワークを鍛えたあとはひたすら経験だ。一対一を行い続ければそれなりには出来るようになる。難しいのはオフェンスだ。

なにせバスケットいうのはシュートが初心者には難しい。あんな小さいリングに、ディフェンスをかいくぐってボールを入れなければならないのだ。ほんの前まで小学生だった彼女らにはリングはさぞや高く見えるだろう。


「いいか、まずはレイアップを完璧に入れるように練習しろ。これが出来なきゃ話にならん。フリーで打って外すようなら試合には出さんぞ」


俺はレイアップの練習をするにあたり、まずレイアップの重要性を説く。

何事にも説明は必要だ。自分は今何をやっているのか、それを何故する必要があるかなどを理解しなければ能動的な練習は望めない。勉強でもそれは同じだ。今の指導者にはこれが足りないと思う。

そういうわけでレイアップはとことん練習させる。部活は、毎回4時から7時までの3時間。そのうち土日以外はほぼこの練習に1時間はつぎ込む。


「よーし、それじゃレイアップ終わり。最後は恒例の2対2するぞー」

「このときを待っていました! 灯、今日こそはお前を倒し、アイスを頂きます!」

「フフフ、かかってきなさい智代」


そして最後の十五分くらいで二対二の総当たり戦を行う。これに優勝した奴らには、毎回俺が好きなアイスを買ってやるという特典が付く。つまらない練習だけではだめだ。何事にも楽しみは必要だ。

今日の2対2では、灯と来夏のペアが優勝した。まあ、部で一番のビックマンの来夏と、スーパーマイシスターの灯は反則級だよな。ちなみに、灯が優勝すると、必ずその店で一番高いアイスを注文するから、個人的には是非負けてもらいたい。


「それじゃあ今日はここまで! 各自、風呂でケアはしておけよー」

『はいっ! お疲れ様でした』


そうして今日も一日が過ぎていく。


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