アメリカに行こうと思っています
「蓋を開けてみれば意外に楽勝だったわね? どう、あれだけ息巻いてボコボコにされた気分は?」
「くっ……」
試合が終わり、座り込む智代に、灯が物凄い上から目線でそう言った。おいおいやめてやれ。智代涙目になってるから。
「いくら格上相手とはいえ、二対五でこれだけ差を付けられて負けるなんて……」
「まあこれは完全に俺たちの戦略勝ちだな」
「戦…略…です、か?」
俺の言葉に、息も絶え絶えなもえが訊き返す。
「ああ。試合の前に、それぞれのチームで作戦会議があっただろ? そのときに灯から教えてもらったお前らのプレースタイルや性格を聞いておいて、それを基に作戦を考えたのさ。例えば智代。お前は曲がったことが嫌いで真っ向勝負を仕掛けてくることを好む。だからボールが回ってくるとまずパスはせず、フェイクなどにもかかりやすい」
「ッ……!」
突然名指しされ、癖を指摘された智代は驚いたようにこちらを見る。
「次に真冬。お前は自分の失敗を恐れるため、積極的なプレイをあまりしない。プレッシャーにも弱いから、オフェンスの時には離れてディフェンスすればあまり脅威ではない」
「ありゃ……全てバレバレでござったか……」
「来夏は積極的なプレイは多いけど、その分ファール取られるようなプレイが多いかもな。来夏はこのチームの大黒柱なんだから、ファールアウトしないように自分を律しないとな。もえと奈央は自分たちが初心者だってことを気にしすぎて遠慮がちなプレーが多い。だから余計智代もお前らは戦力外と割り切ってプレイしてしまう結果、行動の選択肢を狭めている。邪魔にならないようにって卑屈になるんじゃなくて、自分たちでも出来ることを考えてプレイすると、もっと俺たちも苦しめられたかもな」
「お、おお……」
「自分たちでも出来る事を……」
「……(こくり)」
反発されると思ったが、全員意外と俺の指摘を受け入れてくれていた。
そこで、ここぞとばかりに灯が壇上に立つ政治家のように高らかと言う。
「どお、皆? 兄さんコーチに付いてくれれば、今みたいにアドバイスしてもらえると思うわ。さっきの試合中で心当たりがある人もいるでしょう?」
「ッ……」
「確かになー」
智代が肩を揺らし、来夏が頭を掻く。
灯は智代に問う。
「智代部長。このチームの目標は何でしょう」
「……全国大会に出ることです」
その答えには驚いた。このチームが、まさかそんな高い目標を掲げているとは……。
「そうよね。けど、今の現状――二対五ですら負けるチームにそれが実現できるとは思えないわ。……ここまで言えば分かるわよね?」
「……」
「智代。ここまで来たらもう認めるべきじゃないかな?」
「……分かっています」
唯一の同級生である真冬の言葉に、智代は短く返す。そして、俺の前にすくっと立った。
その場で深々と礼をする。肩甲骨の辺りまで伸びる髪が床に触れるか触れないかという所まで垂れる。
「先ほどの無礼な態度、言動をお許しください。これからご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」
流川が安西先生に言った名言をここで使ってきた。すごい礼儀正しい。幕府に仕える武士とはこんな感じだったのだろうかとふと思った。
「ああ、勿論。俺も毎日は来れないけど、引き受けた以上全力でお前らを育てるよ。皆これからよろしくな」
『はい!』
タイミングの揃った綺麗な返事が、心地よく体育館に響いた。
「……ちなみに、兄さんあんなこと言ってたけど、私たちの面倒を見る理由がこうこうこうで……」
「うわあ……」
「最低です……」
「ちょっと妹こっち来いや」
「何よ、ギャルゲーでも、最初はツンツンしてる女の子を攻略する方が楽しいでしょ。私は兄さんの為を思って……」
「そんな心遣い要らないわ!」
御意見御感想による、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。