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打倒ロウきゅーぶを目指してみる  作者: 無道
躍動のサマーカップ
36/36

次撃の二合目 3

三か月ぶりの更新です。読者とは一体……

 第一Q終了のホイッスルが鳴り、第二中のメンバーが自陣コートへと戻ってくる。

 その顔に昨日までの試合までの、爽快な表情は無い。


「……」

「八点差か……」


14―6

 スコアボードに書かれた6は、勿論第二中の得点だ。


「まあ、完全に向こうの術中に嵌ったな」

「ディレイドオフェンス……。知識だけでは知っていましたが、まさかここまで精神的にくる攻撃だったとは……」


 智代が大きく深呼吸して言う。悔しさと怒りでスパークしそうな頭を必死に切り替えようとしているのだろう。

 だが、智代とは対照的に、未だに気持ちの切り替えができない奴もいる。


「くっそぉおおお!! なんだよあれぇ!」


 来夏が、怒りに任せて地団駄を踏む。来夏は富二中でも一二を誇る闘争心を誇る少女だ。今までの試合では、それが、彼女のパフォーマンス向上のトリガーとなってきたが、こういうストレスフルな試合では、彼女の特性はむしろ裏目に出たようだ。


「ら、来夏ちゃん、落ち着いて……」

「そうよ来夏。抑えなさい。そんなんじゃ、肩に力が入り過ぎて、入るシュートも入らないわよ」


 もえと灯も必死に宥めるが、効果は薄いようだ。

 来夏はうちのチームの生命線だ。正直、灯や智代みたいに他にポジションに入れる選手もいないため、実質、今挙げた二人よりもコート上での存在は大きい。そんな来夏がこのままでは、この試合は確実に落とすだろう。

 どうしたもんかなぁ、と考えていると、それまで黙っていた奈央が口を開いた。


「……来夏。落ち着いて」

「ああもうみんなうるせぇなぁ! 落ち着いて落ち着いてって言われる方が落ち着かねぇよ!」

「……しょうがない。これは使いたくなかったけど、最終手段」

「あん? なんの話だよ?」

「この試合勝ったら、来夏、一日だけ、野田さんを好きにしていいよ」

『え?』


 来夏と俺の声がはもった。


「え、マジかよ?」

「うん、俺も訊きたいよ。なんで俺?」

「私も、苦しい。けど、試合に勝つためなら、仕方ない。だよね、灯?」

「……不本意だけど、しょうがないわね。来夏。今の話、妹であり、兄さんの主人である私からも許可してあげるわ。一日だけなら、兄さんの所有権を譲渡してあげる」


 俺はいつから妹に所有権を握られていたのだろうか。


「……もえも、それで大丈夫?」

「うん……、苦しいけど、私、やっぱり試合に勝ちたいもん! 来夏が、それでいつも通りに戻ってくれるなら、私もそれでいいよ!」

「いや、あの……、当人の意見は全く無視なのでしょうか……?」

「――おっしゃああああああ!! その賭け乗ったぜえええええええええ!!」

「既に冷静じゃねぇ!」


 そして賭けって言うけど、俺以外誰もデメリットないよな!?

 心の中でそう突っ込むが、正直、来夏がいつも通りに戻ってくれる方法が、他に浮かばないため、安易に断れない。試合に勝つ方法としては、本当に残念ながら、これは有効なのだ。

 そして、無慈悲にも、そのタイミングでインターバル終了のブザーが鳴る。


「――皆さん、意見は固まりましたね。それでは、意外に向こうに乗せられやすいと分かった真冬は一旦アウト、奈央がインして、両サイドにシューター二枚を置きましょう。向こうはマンツーマンですから、スクリーンなども忘れないで」

『応ッ!』

「あ、あの、俺の指示は……」


 俺の話を聞く素振りすらなく、少女たちはコートへと旅立っていく。

 妙な寂しさを感じる俺に、ポンと、真冬が肩に手を置いた。

「放置プレー乙」






「しかも、普通にみんな動きが良くなってるし……」

「お兄たま立つ瀬ないですなぁ」

「おっしゃああ!」


 コート上でシュートを決めた来夏が吠える。しかし、第一Qまでの怒りに任せたプレイはそこにはない。

 返しの神楽坂のオフェンスは、相変わらずの遅攻だが、全員が息をひそめて、じっとその時間を耐える。


「ッ!」

「ナイス!」


 奈央が、ポジションを上手く誘導し、沙織からのパスをカットした。瞬間、弾かれたように走り出す第二中のメンバー。この速攻の怖さを知っている神楽坂も、必死で自陣コートへ戻る。


「灯!」

「待ってたわ……!」

「行かせない!」


 速攻を阻もうと、遥香が灯の前に立ちはだかる。


「――無駄よ」


 ――そして、また、灯の輪郭がぼんやりとゆらめく。


「ッ!?」


 右ドライブで抜きにかかった灯を、遥香は体で止めながら、必死に食らいつく。


「足元がお留守よ」

「なっ!?」


 だが、走る遥香が次の一歩を踏み出した瞬間、灯は一気に、本当に一瞬で急ストップ。その予期せぬ動きに、遥香は全くついて行けず、バランスを崩して尻餅を突いた。

 ――アンクルブレイクだ。

 3Pライン一歩手前で立ち止まった灯は、そのままシュートモーションに入る。まさか、そこから打つのか?

 誰もがそう思ったとき、俺は、ゴール下へ走る来夏の姿を見て、もしや、と思った。


「来夏!」

「任せろぉ!」


 灯の放ったシュートは、ゴールに僅かに届かない軌道をとる。しかし、そこに走り込んだ来夏が、勢いよくジャンプし、ゴールに軌道を逸れていたボールを、しっかりとつかんだ。


「いけぇ!」


 そして、空中でそのままシュートを放ち、ゴールに何度もぶつかりながらだが、シュートを決める。アリ・ウープ。ここにきて、とんでもないプレイが炸裂した。


第二Q

4:47

神楽坂 16―14 富川第二


読んでいただきありがとうございます。御意見御感想等いただければ、更新早まります笑

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