次撃の二合目 1
「お疲れ、よく勝ったな、といいたいとこだけど、流石にギリギリ過ぎだ。一点差で逆転勝ちなんてマグレみたいなもんだぞ。もうちょっと見てる方を安心させるようにだな――」
「うるさいわね兄さんは。こんなシーソーゲームになったのも、誰かさんがまともな作戦も考えなかったせいでしょ」
「だってよ、智代」
「何故そこで私に振るんですかっ!? 灯が言っているのは野田コーチのことですっ!」
「いえ、あなたの事よ、智代部長」
「私のことだったんですかっ!? いやいやいや、いくら部長でも作戦考えるのはコーチに任せるべきでしょう!?」
「いつも偉そうにしてるくせに、こういう場面になった途端責任転嫁……本当に残念よ。ね、兄さん」
「ああ、ホントにな……」
「何で私が悪いみたいになってるんですか! こういう時だけ兄妹で仲良くするのはやめてください!」
肩を怒らせる智代を見て、これくらいにしておくかと灯と目配せする。智代は生真面目にボケを全部拾ってくれるので退屈しないのだ。
「まあそりゃそうと気持ち切り替えるか。次がお前らのサマーカップ最終試合、待ちに待った相手との対戦だ――ほら、噂をうればなんとやら、だ」
俺が顎をしゃくった先には、神楽坂の少女たち。その中央に立つ杉崎って何かJC侍らせてるみたいですごい絵だな……。あれ、ということは俺も周りからそうみられてる?
「お疲れさま! 今年の中体連で県大会ベスト8だった第一中に勝つなんてみんなすごいよ!」
「フフフ、それほどでもあるわ?」
これから対戦するチームを純粋に讃える遥香と、分かりやすいくらい増長している灯。同年代とは思えないな……。
「遂に直接対決だな。今回は負けないぞ!」
「ええ、お互いベストを尽くしましょう」
神楽坂の火の玉のような存在である雛恵が啖呵を切り、鷹揚に智代が頷く。
同じようにそれぞれ言葉を交わす両選手。杉崎がこちらを見て頷いたので俺もニヒルな笑みを返してやった。ふふふ、こういうこと一度してみたかったんだよな。
俺たちの試合は連戦だ。コートでアップできる時間が迫っているので、手早く荷物をまとめさせてコートに戻らせる。
遂に次がサマーカップ最終試合。ここまで来たんだ、全勝で飾って景気よく締めたいところだ!
「それでは、神楽坂中学対富川第二中学の試合を始めたいと思います。礼!」
『お願いします!』
「神楽坂、青。富川第二、白で始めます」
サークルの中で対峙する来夏と祈。今大会随一の身長である来夏も高いが、祈も中々の高身長プレイヤーだ。
主審がボール上げて試合開始。ジャンプボールはやはり来夏が勝つが、読んでいたのか、灯の方向へ向かったボールを沙織がカットする。
「ナイス沙織!」
「ちっ、ディフェンス!」
開幕最初の攻撃は神楽坂のローテンポなオフェンスから始まる。
だが、残りシュートクロックが十秒を切ったところで、神楽坂が攻撃を仕掛ける。
沙織から雛恵。雛恵から祈。祈からこずえ。阿吽の呼吸でボールは次々とコートを飛来する。
「こずえ、こっち!」
「あっ!」
45℃ラインでボールを持っていたこずえから沙織へとワンツーが決まってレイアップを許してしまう。かなり組織的な動きだった。相当練習したのだろう。
先制点は神楽坂。だが、第二中のメンバーに動揺はない。
「――フフフ、まあこれくらいはやると思ってたわよ。まあ当然ね」
「なんで灯が偉そうなのですか……」
呆れる智代はそう言いながら前線へと走り、灯も追随するようにボールをハーフラインまですぐに運ぶ。連戦となるこの試合だが、うちのの体力はまだまだ有り余ってるようだ。
ハイポストにいた来夏にボールが渡り、パワードリブルを開始した来夏はそのまま押し切ってゴールを決める。祈も踏ん張ったし、雛恵もヘルプに入ったが、高身長、高機動力の来夏を抑えるには厳しいだろう。
点数を決めた来夏は熱く吠える。先ほどの第一中の試合では思うように点数を決められなかったからストレスもたまっていたんだろう。神楽坂はまず、この来夏をどうにかしなければ勝機はないが、一体杉崎はどう対応してくるのだろう……。
5:22
神楽坂 2―2 富川第二
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