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打倒ロウきゅーぶを目指してみる  作者: 無道
躍動のサマーカップ
32/36

清算すべき過去 3

「タイムアウトを終えてからめっきり点数が伸びなくなったな。もえ。その原因がなんだかわかるか?」

「……速攻が出なくなったからだと思います」


 ベンチに座り、各々汗を拭いたり水分補給したりする中、俺の問いにもえは期待通りの回答を出してくれた。


「そうだ。その原因として、相手のシュート決定率自体が上がってるのも原因ではあるが……。灯、お前が向こうのヘアバンに崩されて決められてるのがほとんどだぞ」

「あら、まるで私があの娘に負けてるみたいじゃない」


 灯はいつも通り平然としているが、持っていたピンクのタオルが握り過ぎて皺を作っていた。やはり自分からやられている自覚はあるのだろう。


「今まで慢心してたな。自分に自信を持つことはいいが、驕って足元をすくわれるようじゃお前はまだ智代には勝てねえよ。悔しかったらプレーで示せ」


 灯は天才だ。今でも充分強いが、このままいけば確実に将来化け物になる。だからこそ、こうして対等以上に渡り合える相手というのは珍しいため、こういう機会に、後々灯が自分の才能だけでプレーする選手にならないよう、多少厳しい言葉でも釘を刺しておく。


「……フフフ、そういうことね。いいわ、それなら今回は兄さんの口車に載せられといてあげる。次のクォーター、あの東条って娘に仕事はさせない。必ず止めてみせようじゃない……!」


 そういう俺の意図を知ってか知らずか、灯は意味深に笑うと、全身に闘気をみなぎらせる。それが伝染でもしたのか、他のベンチに座っていた選手も表情を引き締める。


「オフェンスは今のまま、自由なスタイルでいいのですか?」


 智代が確認するように尋ねたので、俺は頷く。


「ああ。対外試合では初めてのゾーンディフェンスの相手だ。色々試行錯誤してみろ。その結果、失敗して点を取られてもいい。いざとなったらお前が点を取ってくれるだろ?」

「ッ……。その言い方は卑怯です……」


 いじけたように顔を背けた智代に、真冬がポンと肩に手を置く。


「おい智代。なにメスの顔になってんだ。あれはもえたんと奈央たんの物だぞ。仮に二人が手を引いたとしても、そしたら私と来夏がもらうからお前に回ってくることはない。諦めて智代は仕事に生きろ」

「な、何を言ってるんですか!? 私はそんな顔してません! それに、ビジネスウーマンだって幸せはつかめるんですからね!」

「ビジネスウーマンのフォローに必死とか未来の自分に重ねているんですね分かります。智代はあれだよね、一人暮らししたらペット飼って、『この子がいれば私は何もいらない!』って孤独を紛らわすタイプだよね」

「お前……言わせておけば……」

「それくらいにしておけって……。第2Qは奈央をアウト、もえをイン。ポジションはそのままだ。ほら、もう時間だ」


 止めなければいつまでもやっていそうだったので強引にでも終わらせる。周りも苦笑いだ。その顔は今のやり取りを見て、リラックスしながらも適度な緊張感を保っている。この二人がいるっていうのは、コート外において言っても、このチームに不可欠なのかもしれないな。






「はぁ!」「くぅ!」


 第二中のオフェンス。外れたシュートを来夏が拾い、強引に押し込む。点差は再び三点差。ゴール下を制した来夏に俺は親指を上げる。


「いいぞ来夏! 高さでは圧倒的にお前に分があるんだ。ボックスアウトだけ気を付けろ!」

「おう!」


 代わって第一中のオフェンス。東条がペネトレイトを仕掛けるが、灯のDFは明らかに先ほどより厳しくなっている。突破することが出来ず、東条が外にボールを回す。


「あっ!」


 3Pエリアでボールをもらった7番は、マッチアップしていたもえを躱し、2点シュートを決める。やはり向こうの選手は総じて上手い。


「それは仕方がない! もえは中へ切り込むのだけは絶対止めるんだ!」

「はいっ!」


 第2Qの冒頭はシュートを決めた両チームだが、そこからは耐久戦だった。

 灯のドライブをトップの東条が阻み、インサイドに入った来夏へのボールは、相手の巧みな連携がカットする。しかし、向こうのOFも、灯を容易に突破できなくなった東条が周りにパスをつなぎ、有栖川を中心にシュートまで持っていくが、DFのプレッシャーと、来夏というゴール下の覇者の存在が、シュート成功率を著しく下げていた。

 それでも押しているのはやはり第一中だ。最初にこちらで獲得した3Pシュートの得点の貯金だが、速攻以外の攻撃パターンが専ら一対一しかないこちらでは、やはり火力不足だ。第2Qを折り返したところで、遂に有栖川のレイアップが決まり、逆転を許される。観客が湧き、向こうのベンチが祭りのように賑やかになった。得点が入らなかった時間が長かっただけに、一度均衡が破られると一気に試合を持ってかれかねない。


「灯!」


 分かっているな。


 そういう意味を込めた視線を灯に送ると、悪戯っぽくウインクを返してきた。一部の観客席から野太い歓声が起こった。ちょっと待て。


「兄さんがこれだけ信頼してるのよ。それを裏切ったらただじゃおかないわよ、智代ッ!」

「――ッ」


 いざとなったらお前が点を取れ。

 宣言通り、逆転を許し、このOFが失敗すれば相手を更に勢いづかせかねない状況で、ボールは迷わずキャプテンの手に渡る。右45℃ライン。智代の一番自信のある位置だ。

 相手のDFは半ばプレスに近い。あれだけ密着させられるとシュートは無理だが、逆にドライブなら抜きやすい。しかし、それも許さないとばかりの相手の気迫のこもったDFと、いつでもヘルプに行けるように目を光らせているゾーンディフェンスが、その最も有効な選択肢に迷いを生じさせる。


「フッ――」

「っう!」


 しかし、智代は躊躇わずにドライブを選択。浮いていた腰を一気に落とし、瞬時に最高速度まで上がる智代のドライブは右手でしかできないとはいえ、かなり強力な武器だ。

 それでもゴール下まで来るとヘルプは入る。その瞬間、灯がゴールに向かって走り出し、有栖川が叫ぶ。


「6番に合わせてきます! パスコース警戒!」


 灯に顔を向けた智代に対し、有栖川はそのパスコースを塞ぎ、周りも同じように素早く選手へのパスコースを潰す。だが、智代はパスのモーションに入っていた腕を戻し、そのまま地を蹴った。


「ッ! ダブルクラッチ!?」

 空中で敵6番を躱した智代は、持ち替えた左手でゴールを決める。おおしと俺はベンチで吠えた。


「よく決めた智代! ここからは殴り合いだ! あと三分、意地でも点数決めていけ!」


『応ッ!』



3:14

富川第一 14―15 富川第二


読んでいただきありがとうございます。

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