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打倒ロウきゅーぶを目指してみる  作者: 無道
躍動のサマーカップ
30/36

清算すべき過去 1

「お疲れ様みんな! 県大会ベスト8だった第一と引き分けるなんてすごいよ!」

「フフフ、まあ、なかなか良かったわよ?」

「あはは、ありがとう」


試合が終わり、荷物置き場まで戻ってきた神楽坂御一行に、もえや灯がねぎらいの言葉を掛ける。

灯は困ったように笑うが、すぐに表情は一変、悔しさを滲みださせる。


「向こうの4番(有栖川)と5番(東条)、凄い気迫だった……。負けたつもりはないけど、多分、4Q制だったら、こっちのほうが体力的にきつかったと思う。強かったよ、本当に」

「……フフ、でも次の試合に勝つのは私たちだわ」


灯が不敵に笑う。そう、次の俺たち富川第二の相手は、富川第一だ。そしてその次の最後が、目の前の神楽坂だ。

富川第一は灯たちにとっては宿敵の相手。智代や来夏も、その体に闘気をみなぎらせる。


「……見ていなさい。仇は必ず取ります。あなたたちとは最後の試合で会いましょう」

「おうさ。まずはその前に、以前の借りを返しておかないとな」

「……はい! 楽しみにしています」

「お前らも頑張れよー!」


遥香が破顔し、雛恵が元気な応援で俺たちを送り出す。

杉崎と俺は互いに目を合わせ、頷いた。


「それじゃ、とりあえずサクッと倒してくるわ」

「向こうは強いぞ。第一と同じかそれ以上に、な」

「ばかやろ、そこは嘘でもお前らの方が強いって言うもんだろ」


俺と杉崎は笑って拳をぶつける。

さあ、まずは一つ目の山場だ。






「まずは逃げなかった事を褒めてあげましょう」


試合開始直前、有栖川は先ほどの試合の疲労を見せない涼しい顔で、挑発的に笑った。


「……」

「な、なんですの。何か言ったらどうですか」

「いえ、典型的なやられ役の台詞が似合いすぎてびっくりしただけよ」

「ッ……言ってくれますわね! いいでしょう、その生意気な態度、試合でへし折って差し上げますわ! 審判の皆さん! 試合開始の合図を!」

「いや、仕切るのは私たちだからね?」


有栖川の海○社長みたいな態度に審判は面食らったようにツッコむ。そりゃそうだ。

短いホイッスルと共にジャンプボール。これは流石に来夏が余裕で勝つ。

まずは第二中ボールから試合は始まる。


「ディフェンス!」


第一中のディフェンスは鉄壁の3―2ゾーン。隙の無いディフェンスは、自分たちのディフェンスへの圧倒的自信が感じられる。


――だが、そういうのを圧し折るのが得意なのが、ウチにはいる。


俺の視線は、現在ボールを持つ自分の妹へ注がれる。

灯は強気なディフェンスをする第一中を見て、舌なめずりする。


「フフフ、さっきあれだけの試合を見せられたんだもの。最初から全稼働(フルスロットル)で行くわよ!」

「ッいきなり――!?」


開幕早々、灯が選択したのは、持ち前のクイックリリースによる3P。

これには虚を突かれた相手DF、シュートチェックに入れない。

シュートはネットを揺らし、床にバウンドする。以前神楽坂とやったときと同じパターンで先制する。


「灯ナイッシュー!」

「フフフ、当然よ」


ベンチで声援を送るもえに、自陣戻り際、灯が親指を上げる。


「……にしても、我が妹ながらよくもまあオープニングシュートであれだけ入るわ。アイツの心臓は鉄でも入ってるんじゃないか?」

「あはは……あながちあり得そうで怖いです」


もえが苦笑する間に、攻守は交代。先の試合で大活躍を見せた東条がボールを運ぶ。

マッチアップの相手は灯。灯は獲物を狙う猛禽類のように、踵を浮かせ、いつでも襲い掛かれるような体勢を取る。


「いつでもどうぞ?」

「はっ、それじゃ遠慮なくッ――!」

「ッ!?」


挑発に乗った東条は、右に小さなフェイクを入れると、そのままドライブ。なんとあの灯を一瞬置き去りにする。


「このっ――」


だが灯の持ち味は、その超人的な瞬発力。

一歩目で出遅れるが、二歩目でその差を縮め、三歩目でほぼ東条に並ぶ。

これには驚いたように東条も目を丸くする。


「隙ありでござる」

「ッ……!」


東条の動揺を見計らったかのように、そのタイミングで真冬がヘルプに。突如東条を灯と真冬のダブルチームが襲う。それでも東条は、ディフェンスの僅かな隙間を縫うようにして、フリーになった選手にパスを出す。

ボールをもらった選手はすぐにシュートするが、長い。シュートは外れ、やや右側にボールは落ちる。


「リバンッ!」

「おらぁああああ!」


リバウンドにめざとく反応したのは来夏。勇ましい気合いと共に、同じくリバウンドに跳んだ相手選手を吹き飛ばし、ボールを奪う。その瞬間、俺は鋭く声を上げた。


「速攻っ!」

『ッ!』


弾かれたように灯、智代が先行して前へ、その後ろを奈央と真冬が走り出す。

第二中の選手も慌てて自陣に戻るが、東条と7番の選手しか戻れない。


「灯ぃ!」


来夏が放ったロングパスが、前線の灯へと繋がる。勢いを殺さずドリブルで突っ込む灯を、向こうの7番が行く手を阻む。

灯は7番の前でフロントチェンジ――ドリブルを左に切り替えて、7番を抜きに掛かる。だが、相手はディフェンスで名を轟かせる富川第一のスタメン。そう簡単には抜かせない。


「フフフ、なら、これはどうかしら?」

「ッ……!?」


だが、無論灯はその程度では終わらない。左ドライブ中にロールターン。ディフェンスの逆を突き、今度こそ7番を置き去りにする。

残るは智代と灯の中間距離で守っていた東条。灯は一瞬の思考の後、自らのジャンプシュートを選択する。

東条は深めに守っていたためブロックには入れない。自分を阻む者がいないのを確信し、灯はシュートを打った。

だが、外から見ていた俺には、灯の後ろから物凄い速さで駆けてきた少女を捉えていた。


「甘い、ですわ!」

「――なっ!?」


だが、ボールが手から離れた直後、灯のシュートは後ろから伸びた手にブロックされる。

灯が驚き振り返ると、ゴール下にいたはずの有栖川の姿。灯が7番を抜いた時の数秒で、追いついたと言うのか。

弾かれたボールは東条が拾い、今度は逆に第一のロングパスが通る。相手のセンターの6番の前には、うちのディフェンス陣は戻っていない。6番はそのまま堅実にレイアップで得点を決めた。だが、俺にはそれ以前のプレイが頭から残って離れない。


「向こうの4番、有栖川とか言ったか。相当足が速いな」

「あ、あの、有栖川さんは陸上でも凄い成績を残してて、そっち方面から熱烈な勧誘を受けているらしいです」


もえの補足を聞いて納得がいく。コート上では、灯が闘志を剥きだしにし、ディフェンスに戻る有栖川を睨んでいた。


読んでいただきありがとうございます。

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