試合前の作戦は手短に
「話が平行線のままだし、じゃあバスケ部らしく、勝負はバスケで決めよう」
あれから、一向に終わる気配の無さそうだった喧嘩をなんとか仲裁し、俺は全員に向かって話しかけた。
先ほど、唯一喧嘩を仲裁しようとしていた少女――佐伯もえが首を傾げた。
「勝負、ですか?」
「ああ。ちょうど六人いるし、俺も入れて七人で試合形式をとって決めよう」
「試合、ですか? しかし、三対四でハンデを付けても、大学生の野田さんが入れば流石に……」
「無理ぽー」
この提案に二年生の二人が難色を示す。
だが、俺はちっちと指を振る。
「俺がコーチとして入るのに賛成してるのは灯だけなんだろ? それじゃ俺のチームは灯と俺だけでいいよ」
「――ッ!? 二対五ということですか!」
「ははっ、そりゃ灯の兄ちゃんも大きく出たなー」
来夏と呼ばれた長身の女子が笑う。しかしその表情には自分たちを侮られたことへの怒りが浮かべられている。
バスケットは五人と五人で争う比較的人数の少ないスポーツだ。故に人数のハンデというのは、サッカー以上に大きくペナルティを負う。
バスケットをやっている者なら二対五など勝負にならないということなど鼻から分かる。
しかしそれは、あくまでお互いの実力が拮抗しているときの話だ。
俺は灯に問う。
「どうだ灯?」
「もう、兄さんはたまにそうやってとんでもないことを言い出すわ。――ええ、1クォーターくらいなら保つでしょう」
「よし。そっちはどうだ?」
妹の了承が取れたところで、俺は智代たちの陣営に話を振る。
「上等です。その兄妹揃っての傲慢さ。私が改めさせてあげましょう」
「おおい、私たちには相談なしかい。相変わらずの暴君っぷりですなあ」
「……でも、異論はない」
真冬が何やら文句を言うが、無表情の彼女――奈央の言を取れば、意見に異存はないらしい。
俺たちは早速準備に取り掛かった。
「ちなみに兄さん。二対五で試合なんて、私初めての経験なんだけど。何か案はあるの?」
「お前、ポジションは?」
「このタイミングで私のポジションを聞くってことは、何も作戦は考えてなかったのね……。フフフ、面白いわ。滾って来そう」
「逆境の方が燃えるってのは野田兄妹共通だろうよ。それでポジションは?」
「試合の時はPGを務めてたけど、実際はF(フォア―ド)の方が得意なのよね。攻めるの大好きだし」
体に妙にしなを作って言うな。
「ふむ……。じゃあ自分からはあまり点を取らないつもりだったしちょうどいいな。俺がボール運んで、いい感じにパス出すからお前が点取れ」
「――簡単に言うのね、兄さんは。まあいいわ。DFは? 二人で五人止めるなんて経験ないわよ?」
「1―1でゾーンだ。外はプレッシャーだけかけろ。リバウンドで勝負だ」
「分かったわ」
そうして試合は始まる。
次回から試合です。試合終わるくらいまではめげずに読んでくださると嬉しいです笑