神楽坂vs富川第一 2
コート上では富川第一のオフェンス。残り2分強で4点差まで追い詰められた彼女たちだが、焦って攻撃するようなことはなく、じっくりとシュートクロック(24秒以内に攻撃側はシュートを打たなければならないというルール)である24秒を目一杯使って攻撃する。神楽坂は打って変わった相手の遅攻に苛立ちを募らせる。あれは作戦だと分かっていても、早く逆転したいという気持ちが先走ってDFが乱雑になってしまう。中学生というメンタルがまだしっかりしていない選手ならばなおさらだ。
「くっそー! 早く攻撃してこいよーっ! ……っやば!?」
シュートクロックが残り10秒になった時、遂に我慢できなくなった雛恵が一歩前に出たとき、そこを縫うかのように絶妙なパスが富川第一のPGから通る。ヘアバンをしている向こうのガード、相当視野が広い。
「ナイスパス、ですわっ!」
「やらせない……!」
パスの渡った有栖川の行く手を阻むように、遥香がマッチアップする。ヘルプのタイミングは完璧だ。チャージング取れるか……?
「甘い、ですわ!」
「なっ!?」
しかし、そこで有栖川は驚きの行動をとる。ボールを頭の上に掲げると、なんとそのままノールック後方の誰もいない空間へバウンドパスを出したのだ! これには傍から見ていた俺も読めなかった。驚いてボールの後を追うと、そこには先ほどパスを出したヘアバンのガード。有栖川にパスを出した瞬間、そこまで走り込んでいたのだ。
「予知能力者か何かか、向こうのガードは……」
あの動き、セットオフェンスなどの事前に決めていた動きではない。その場で有栖川の動きに合わせて動いたという感じだ。仲間のやりたいプレイを先読みして行動する、視野が広く、周りに常に気を配らせるプレイヤーにしか出来ないプレイだ。こんなタイプのプレイヤーは初めて見たぞ……!
俺が静かな驚きに包まれる中、パスをもらったヘアバンのガードは見事3Pを決める。神楽坂の心を折るには十分なスーパープレイ。だが、彼女たちの心は折れはしなかった。
「走って! 速攻!」
ベンチの杉崎ですら、声を詰まらせた相手の好プレイに動じる様子を見せず、コート上の少女たちは声を上げる。エンドからボールをもらった沙織が、物の数秒でボールハーフラインまで運ぶ。
「ディフェンス! ここを止めればほぼ決まりですわ!」
しかし、相手はディフェンスが強みのチーム。第2Q制の試合とはいえ、この土壇場でここまで堅いDFをするというのは生半可な事ではない。組織的な連携と、無尽蔵とも思える体力で、神楽坂にシュートまで持っていかせない。
ゾーンディフェンスというのは、スクリーンに対して滅法強い。マンツーと違い、必ずしもオフェンス一人に対してディフェンスが一人とは限らないからだ。スクリーンで一人を削っても、他のディフェンスが喰らいつくようにボールマンに牙を突き立てる。そういう意味では、スクリーンや飛び込みプレイなどを得意とする神楽坂は、富川第一とかなり相性の悪いチームと言えた。
それでも――
「~~ッ!」
「――スクープシュート!?」
こずえのパスから切り込んでいった遥香は、ブロックに飛んだ有栖川を超えるようにしてボールをふわりと上げるレイアップでシュートを決める。ドロップなどとも呼ばれるブロックを超えるレイアップ、スクープシュートだ。
エースの意地を見せ、再び5点差で神楽坂が追い縋る。
「ナイシュー遥香!」
「あと1分! DF止めて!」
来夏やもえの声援も自然と熱が籠る。熱い。試合の熱気が体育館全てを支配しているかのようだ。その熱気の根源で、少女たちは荒々しく、時に繊細に、コートで踊る。
「ここまで熱い展開は久しぶりですの……! 2Qだけというのが惜しいくらいですわ……!」
「そんならせめて勝って終わろうぜお嬢様。そうすりゃ幾分かは気分が晴れるぜっ!」
有栖川が高揚したように言い、ヘアバンの子が獰猛に嗤う。背中からハッキリ分かるくらいの戦意。彼女たちもまた、このまま逃げ切るとは考えていないようだ。
「ディフェンス! ここで返せば勝機が見える!」
沙織の叱咤が会場を震わせる。喝の入るいい声だ。周りの選手のディフェンスの姿勢が更に一段下がる。
「気合いの入った良いディフェンスね」
「……しかし、あのヘアバン(5番)、別格です」
智代がそう言った時には、既にヘアバンのガードは、沙織を抜き去っていた。相当厳しいDFだったはずだが、彼女はそれを何気なく超えていく。
ヘルプに入ったのは雛恵。早めに対応した雛恵だったが、それが仇となり、雛恵のマークマンだった選手に綺麗にパスが通る。慌ててこずえがブロックに飛ぶが、シュートを止めるには至らない。
「リバンッ!」
だが、ここで運は神楽坂に味方する。シュートは短く、ゴールに弾かれたボールは最前線、つまり、抜かれてフリーとなっていた沙織の元へと一直線に伸びる。
『――ッ!』
ここで、富川第一の雰囲気に、初めて焦りが生まれる。
一直線にドリブルを開始する沙織の前には誰もいない。独走状態だった沙織に、ゴール手前ぎりぎりで有栖川が追い付く。
二人の他には誰もいない。沙織のシュートに合わせて、有栖川も飛ぶ。
「止めまし――」
「違う! ファール狙いだ!」
「ッ!?」
ヘアバンのガードの叫びも虚しく、有栖川の身体は流れて、沙織にぶつかる。高いホイッスル。その後、シュートはリングに吸い込まれる。
歓声が窓を割れんばかりに響き渡った。残り38秒の5点差で、見事、神楽坂がバスケットカウントをもぎ取った。
第2Q 0:38
神楽坂28―31富川第一
バスケットカウント1スロー
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