神楽坂vs富川第一 1
「せいっ!」
「あっ!」
祈のDFを躱し、有栖川がレイアップを決める。すれ違いざま、有栖川のサイドテールが揺れる。
「ドンマイ! まだだ! まだ返せるぞ!」
「はいっ……!」
ベンチで激励を送る圭さんに、私は頷く。
試合終了まで残り3分。富川第一との点差は一桁。確かに逆転出来ない点差ではない。
(けど、向こうから8点取り返すっていうのは……)
視線の先には、相手の3―2ゾーン。今の私には、それが、まるで鉄壁の要塞のように見えた。
「超ディフェンス型のチーム?」
「そうよ。富一中は、ここらでは屈指のDF力を誇るチームとして有名よ」
俺の訊き返した言葉に、灯は頷いた。
「富一中は富二中と違って共学だから、毎日男バスと混じって練習しているそうよ。富一中の男バスって、県大会常連校だし、そこと毎日練習してれば、そりゃ強くなるわよね」
「そして先ほど灯が言ったように、特に目を引くのが、3―2ゾーンです」
コート上では、沙織がドリブルをしながら、隙を見出そうとしているが、かなり攻めあぐねているようだ。
3―2ゾーンは、その名の通り、前の3Pライン付近に横一列で3人、後ろのローポストに2人がDFにつく、いわば領域を守るDFだ。
この形は、3Pなどの外からの攻撃に強い反面、ゴール下の守りが薄くなる、という特徴があるが、富一中のDFは、連携がしっかりしており、そのデメリットをあまり感じさせない。
「祈っ!」
「はいっ! ……ッ!」
祈がハイポストの空いた空間にボールをもらった瞬間、後ろの一人、そして前の3人がすごい速度で囲む。まるで敵に群がる軍隊蟻のようだ。このパターンを何度もやられたのであろう祈は、すぐさま外の沙織にリターンパスを出すが、相手DFはそれを読んでいたかのように、一瞬で元のDFポジションに戻る。その戻りの速さに、沙織はシュートチャンスを逸して忌々し気な表情を作る。
「かなり統率が取れているな……」
「うん。認めたくないけど、有栖川のリーダーシップは大きいだろうね」
真冬の言葉通り、コートでは有栖川と呼ばれたサイドテールの女子が、次々と仲間に指示を発している。あれだけのDFをしながら、周りに指示を出すとは、確かにとんでないキャプテンシーだ。
「遥香ちゃーん! 頑張ってー!」
「ッ!」
もえの応援が届いたのだろうか、遥香が、45℃のラインから相手DFを抜き、すかさずついてきたヘルプの前で急ストップ、ジャンプシュートを決めた。強い。
「ナイシュー遥香! さあ、ここでDF一本止めるぞ!」
『はいっ!』
ベンチの圭の応援にも力が入る。確かに、相手のDFの堅さを考えても、ここで一本止めて、あわよくば速攻に持ち込みたいところだ。
その気合いのDFが効いたか、落ちたリバウンドを祈が拾う。すぐさま沙織にボールが渡り、速攻だ。
沙織と並行して走るのが、遥香と雛恵。沙織はドリブルスピードを上げて突っ込む。
「7番を警戒! 自分で決めに来る可能性もありますわよっ!」
自身も雛恵をマークしながら有栖川は叫ぶ。その言葉通り、沙織はドリブルを止めた瞬間、真っ先に遥香にパスを出す――フェイクを入れた。
「ッ!」
「もらった!」
虚を突かれた相手DFを抜いて、沙織はフリーでレイアップを決める。
「神楽坂も以前練習試合した時より、全体的に上手くなっていますね」
「杉崎がコーチしてるからな。特に長期休業中の今のうちにレベルアップを図るって腹積もりだろうよ」
智代の呟きに頷きを返す。神楽坂の選手は格段に動きが良くなっている。明日の二試合目の相手が神楽坂だが、油断していると足元をすくわれるな、と俺は気を引き締めた。
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