苦渋の記憶
「げ、なんでアンタたちがここにいるんだよ……」
有栖川の高笑いに顔を顰めつつ、来夏は問う。
「愚問ですわ。私たち富川第一中学も、このサマーカップにエントリーしているからでしてよ」
「だよなあ」
半ば分かりきっていたことだが、私たちはその事実に渋面を作る。
犬猿の仲という他に、私たちがこいつらと闘いたくないのには別の理由がある。
「おほほ、皆さまのお気持ちは分かります。今年の6月に行われた中体連での対戦校、しかもトリプルスコアを付けられたチームと試合など、恥を晒すだけのようなものですからねえ。それは試合も嫌になるというものでしょう」
『ッ!』
有栖川の挑発するような一言に、私たちの眼つきが厳しいものに変わる。
そう、まだ3年生がいた頃の最後の大会で、富川第二は何の因縁か、一回戦で富川第一中学と対戦した。結果は105対34――三倍の得点差を付けられての惨敗だった。
そのときから私もレギュラー入りしていたが、当時の私では事実全く手も足も出なかった。忘れもしない、苦い記憶。
「……けれど、もうあの時とは違うわ」
「あら」
私の言葉に、有栖川は余裕の笑みで答える。
「確かに先ほどの試合、かなり圧倒的な試合展開でしたが、それは相手が弱すぎたからの話。私たちは先ほどの三流とは違いますのよ?」
「相変わらず傲慢な女ですね。その態度、今日限りで改めさせてもらいます」
「おほほ、いいでしょう。あなた達との対戦は最終日、それまでお互い全勝で当たりましょう」
智代の鋭い視線を気にする様子もなく、有栖川達一向が去っていく。ていうか有栖川以外の他の奴ら、結局一言もしゃべらなかったわね。まんまモブじゃない……。
すすと有栖川達と入れ違うようにして兄さんがやってきた。私たちの厳しい表情に首をかしげる。
「? どうしたお前ら?」
「何でもないわ。負けられない相手が出来たってだけよ」
「妙にシニカルだな……」という兄さんの言葉を背に、私たちは次の試合があるコートへ移る。
「見てなさい、次こそは私たちが勝つわ」
この日、私たちは残りの試合も全勝して、一日目を終えた。
二日目。この日は曇天で、夏の蒸し暑さが昨日とは違った不快感が俺たちを蝕む。
だが、そんな環境でも、灯達のパフォーマンスは落ちない。それどころか、昨日よりも益々良いプレイをするようになっている。
「ハッ!」
もえがボールをカットする。すぐさま灯へパスをつなぐ。残り8秒。もう一点取って終わらせたい。
「最後くらい止めてやる!」
しかし、相手の選手も意地を見せる。何度もやったパターンというのもあり、灯、智代、来夏の先頭を走る3人には厳しいマークがつく。セカンドブレイクも懸念して、オールコートでもえと真冬にもマークマンがついている。
「根性は認めるけど、ね」
「なっ!?」
しかし、それだけだ。そもそも一対一で灯を止めることは出来ない。
あっさりとDFをちぎった灯は、ヘルプに入ったDFも抜いて、悠々と
レイアップを決めた。そこで試合終了のブザー。
礼をし、灯たちは相手監督へ挨拶を終えると、急ぎ足でこちらへ帰ってくる。その足取りは、とても今試合をしたとは思えない軽やかさだ。
「どうしたお前ら、そんな急いで。試合は次の次だからまだ時間はあるだろ」
「何を言ってるの兄さん。次のBコートの試合の組み合わせを知らないの?」
灯はてきぱきと片付けをしながら言った。
「――次の試合は、富川第一と神楽坂よ」
読んでいただきありがとうございます!




