ご機嫌麗しゅう、第二中の皆さま?
サマーカップ始まりました!
大会当日。その日は今年最高気温を記録する猛暑日となり、人口密度の高くなった体育館は、停滞するような熱気が渦巻いていた。
「あぢー。帰って水風呂入りてー」
「兄さんはまだいいじゃない。私たちなんて今からここで試合するのよ? たまったもんじゃないわ」
俺がシャツの襟をパタパタと仰いでぼやいていると、灯がげっそりした顔でそう言ってきた。
「あー、そういえば灯は特に暑いの苦手だったもんな」
「バスケを始めてから、多少は暑さに強くなったと思ったけど、やっぱり克服は簡単には行かなそうだわ……」
「あ、あの灯ちゃん。大丈夫?」
そう声を掛けてきたのは隣に座っていた遥香だ。現在、神楽坂と富二は隣同士の場所に席を陣取っていた。
「遥香、お願いだから今近寄ってくるのはやめてちょうだい」
「あ、ご、ごめんね!」
さっき自分からこっちに来いと言っていたのは灯なのだが、遥香は申し訳なさそうにして体を離す。やっぱり出来た子だなー。
しかし、今日と明日は長丁場だ。集中力を欠けた状態で挑めば大怪我をしかねない。俺はぼーっとしながらポ○リをごくごく飲んでいる灯に釘を刺す。
「おい灯。だれるのは分かるが、もうすぐ俺たちの初戦だ。一日2Qを四試合分やるんだ、気持ちを切ったままプレイしてると――」
「ピーピーうるさいわね兄さんは。それくらいわかってるわよ。――ええ、そろそろなんでしょ?」
「……ああ」
そのタイミングで、俺たちの前の試合を偵察に言っていたもえが手を振りながら帰ってくる。近づいてくる足音に、それまで黙して目を瞑っていた智代がパチリと目を開ける。
「……行きましょうか」
「頑張って来いよー!」
神楽坂の元気の良い少女――雛恵に激励されながら、俺たちはコートへ向かう。
さあ、それじゃあ存分に暴れてこい!
圭さんの提案で、私たちは富川第二中の初戦を観に行くことにしました。とはいっても、その次の試合が私たちの試合なので、第1Qしか観ることは出来ませんでしたが……。
ですが、結果的に言えば、その第1Qだけで勝負は付いてしまっていました。
「ッ!」
「真冬先輩!」
柊さんがボールをスティールすると、すぐさま灯ちゃんがボールをもらい、前線を走り出す。その先には既に来夏ちゃんと遠坂先輩が走っています。この5分だけで何度も観たパターンです。
「ッ!」
「甘いっ!」
なんとか止めようと相手DFの子が踏ん張りますが、遠坂先輩のペネトレイトを許し、ランニングシュートを決められてしまいます。また得点がめくられ、20点台になりました。
――強い。
この試合を観ていた誰もが抱いた感想だと思います。
個々人のOF能力もさることながら、チームオフェンスの面でも、強豪校と全く遜色が見られません。
そして特に目を見張るのは、前回の練習試合では、まだ初心者といった印象が拭えなかった奈央ちゃんともえちゃん。二人が既にミニバス経験者と同じ程度のプレイヤーとなっていることです。セカンドブレイクは言うまでもなく、通常のオフェンスでも、Vカットなどでマークを外し、シュートを決めてくるまでになっていました。
第2Qに入ってからは、私たちも軽くアップなどをしていたので途中は観ていませんが、私たちが残り1分の時に帰ってきたころには、既に得点は50点を超えていました。あのまま行けば、100点ゲームは確実だったでしょう。
「洋司たちにあんなもん見せられたんだ。俺たちも負けてられないな」
『はいっ!』
私たちは改めて気合いを入れ直すと、コートを跨ぎ、戦場へと赴きます。
――さっきの試合は余裕だったわね。
私はタオルで汗を拭きながら思う。最近は専ら兄さんや東さんと一緒に練習していたから、先ほどの試合ではスピードもパワーもテクニックも、相手から微塵も感じなかった。前はこれほどに感じたことも無かったはずだが。私が成長したってことかしらね。
すると、目の前から徒党を組むようにして女子の集団がこっちにやってきた。その先頭を歩いていた女を見て、私は思わずげ、と声を上げた。
「有栖川、玲花……」
「おーっほっほっほっ! ご機嫌麗しゅう、第二中の皆さま?」
現れたのは私たちとは犬猿の仲、水と油、とにかく、遺伝子レベルで仲の悪い富川第一中学校女子バスケ部の面々だった。
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