女子バスケ部は、世紀末
翌日、俺は灯の通う富川第二中学校の体育館前まで来ていた。富川二中は女子校で、必然的に校舎の中はどこを見てもJCだらけだ。そのせいでここまで来るのに三回ほど通報されかけた。
「……はぁ。いざ入るとなると緊張するなあ」
俺は何度か深呼吸すると、意を決して勢いよく体育館のドアを開く。
「ちーす。三河屋でーす!」
『――ッ!!』
俺のサブちゃんでお馴染みの挨拶に、中で練習していた女子バスケ部はドン引き。
あれえおかしいな。今のJCは観ないのか、サザ○さん。
「兄さん……、早速やらかしてくれたわね……」
こめかみあたりを抑えている我が妹を発見。うん?パス練習中にボールから目を離すのは感心しないぞ?
「集合!」
部長らしき女子の掛け声に合わせて、少女たちが一斉にこちらへ走ってくる。
俺が現役の時は「遅刻してきた先生に何で走って挨拶しに行かなきゃならねえんだよ」と不満しかなかったが……ふむ。JCが俺めがけて走ってくるというのは、悪くない。
俺の前に集まったのは六人の少女。時期的に三年は既に引退しているはずだが、それでもやはり部員が少ない印象はぬぐえない。
「部長の遠坂です。野田さん。女子を代表してあなたに言っておくことがあります」
遠坂と名乗った少女が一歩前に出た。いかにも芯の強そうな少女だ。ちなみに野田洋司が俺の名前です。
「灯の兄らしいですが、私たちはあなたを認めません。練習内容は全て私たちで決めますので、野田さんは何もせず体育館にいてさえくれれば結構です」
「……は?」
その唐突なアンタなんか認めないわ宣言に、俺は思わず口をあんぐりあげる。そして勢いよく灯を見た。
「……おい、聞いてねえぞ」
「……私だって説得したのよ? でも智代が男なんて信用出来るかって聞かなくて……」
「灯。私は先輩ですよ? 呼び捨てにするのはやめなさいといつも言っているはずです」
遠坂智代と言うらしい――智代は鋭く灯を睨む。
「フフフ、分からず屋ですぐガミガミ怒る先輩なんて呼び捨てで充分だわ。あなたに睨まれたという理由で何人一年生がバスケ部を辞めたことか」
「……ッ! それを言うなら灯、お前も二年生を一対一でボコボコにした挙句、罵詈雑言でめちゃめちゃに貶して、私と真冬以外の二年生を全員退部に追い込んだではありませんか!」
「ふ、二人とも、喧嘩は良くないですよ~」
そこから俺を抜きにして、灯と智代の言い争いが始まった。
俺は真冬と呼ばれた、智代以外で唯一の二年生らしい彼女に話を聞く。
「おい、いつもこんなのなのか?」
「智代と灯たんの喧嘩は日常茶飯事だよ。智代は灯が入るまでずっとうちのエースだったから、そこに才能に満ち満ちてる灯たんが来たからライバル視してるンゴ。しかもそのうえ灯たんはやけに傲慢不遜だし、ぶつかり合うのは当然の事ってやつですな」
真冬はかなり独特な喋り方で、こいつも変人なんだなと気づくのに大した時間は要さなかった。
他の奴らを見てみると、二人の喧嘩を背の低い優しそうな女の子が健気な感じで仲裁しようとし、それより更に背の低い女子がそれを無表情にぼけーっと見ている。残りの一人は背が高く、176cmある俺と少ししか変わらない。彼女は喧嘩を仲裁するどころか、それを見て面白そうに笑っていた。
『うちの部活、かなり混沌としてるから、覚悟しておいた方がいいわよ?』
昨日、灯が言っていた言葉を今更ながらに思い出す。
「混沌って言うより、最早世紀末だろ……」
俺はため息を漏らした。
キャラクターがどうしても一気に出てこさざるをえなかったので、途中で登場人物紹介など入れたいとは思っています。
もうちょいしたらバスケします。